ウイニー王国のワガママ姫
交差する道 5
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港町ノートウォルド
ーーの一つ前の町ネグドール。
一つ前のと言っても港からはだいぶ離れた場所にある。
王都から見て北東、ノートウォルドから見て南東と言ったところかしら。
ウイニーの北方地域の中で5番目位に大きな町と言える。
フェンスのように物流が盛んなわけではないけれど、北方地域に住む人ならわざわざここに出てきて買い物をする人も少なくないらしい。(ダニエル旅行記談)
私達はここで服装を整えてから一泊した後、現地へ向かうことにした。
理由は流石に私とメルが目立ちすぎるからだ。
私はテディに借りた身の丈に合わない大きいローブを着ているし、メルはただでさえ目立つ容姿なのに、田舎に居るにしてはやけに都会じみたおしゃれな服を着ている訳で…
急ぎたいのはやまやまだけど、この先には衣服を調達できるほど大きな町も村も無いのでここで全部整えた方が良いだろうとテディの判断だった。
それに、一つ手前の村だからこそ手に入る情報もあるかもしれない。
私達は村に到着すると早速衣服を見繕った。
私の服は本当に地味な、いかにも田舎の農村で働いてますと言った感じの古着だ。
焦げ茶色のエプロンドレスに黒のブーツ、濃い緑色のスカーフで頭を覆って髪も纏め上げてなるべく金髪が見えないように工夫した。
メルやテディも似たような色のベストとインナーにズボンを履いて地味目な格好を意識した。
と言ってもメルは金髪だけでなく容姿も目立ってしまうので、テディに預けていた私の帽子を被ってもらい、更に私の伊達眼鏡を貸すことにした。
この格好なら多少日焼けしてても目立つことはないだろう。
むしろ色が白い方が目立ってしまうかもしれない。
それでも男2人に女1人というこの構図は目立ってしまう気がしたので、私としては男装しようと思っていたのだけど、2人に即刻却下されてしまった。
「2年前なら通用したでしょうけど、今のレティでは流石に無理がありますから」
「髪を切れば大丈夫だと思うんだけど」
と、私が髪をひとつまみして考え込むと、2人が息を揃えた様に全力で止めに入られてしまった。
「やめて下さい!折角元の長さに戻ろうとしてるのに!またアベル様が卒倒してしまいます!」
「いくらなんでも髪を切るなんていけませんよ!折角綺麗なストレートなのにそんな悲しい事言わないで下さい。それにいくら髪を短くしても綺麗な女性にしか見えませんから」
テディの言葉にうんうんと激しく上下に首を振ってメルも同意する。
そんな2人の気迫に押されて、結果農民の娘のような格好となったのだった。
服装を整えた後、商店を出て宿屋へ向かう。
あまり広い町ではないため、宿屋も町の中に2軒ほどしかないようだった。
町の入り口に一軒と、商店街付近に一軒だ。
情報収集するなら町の中心が便利だろうと、私達は商店街の宿へと向かうことにする。
さして大きくもない商店街の大通りを歩いていると、後ろからドンっと誰かがぶつかって私は前のめりによろけてしまう。
「わっ」
「ごめんなさい!」
と、か細い小さな女の子の声。
体勢を整えると、トビウオのヒレのような長い耳をした可愛らしい半獣族の女の子が青い顔で目に飛び込んできた。女の子は振り向きもせずそのまま町の奥へ駆け出して行く。
その後を追うように、私の後ろの方から男の野太い声と足音が近づいてくる。
「待ちやがれ!」
振り返ると数人の男達が荒縄や農具、武器を手に持って鬼の形相で女の子を追い掛けている。
「大変!助けなきゃ!」
メルとテディに目配せをするとメルがコクンと頷いて私に答える。
そして急いで男達の後を追おうとしたところで、
「待って下さいレティ」
と、テディが私達を制止した。
「どうしたの?早く助けないと、あの子きっと酷い目にあうわ!」
「ですが、僕達彼らの事情を知りませんし…」
そう言って躊躇するテディに私は目を瞠る。
「確かに事情は解んないけど、あんな小さな女の子にあんな物騒な武器とか要らないでしょ?!いくらなんでも普通じゃないわ!」
私が苛立ってテディに言うと、「確かに?」と首を捻りながらテディは悠長に答える。
そしてまたそのまま考え込もうとしてしまうので、私はテディの腕を引っ張って走り出した。
「とにかく助けるのが先!考えるのは後よ!」
村の奥へ見失ってしまった男達の姿を探す。
「あ!お嬢様あそこに!」
メルに言われた方向を見ると、村の隅に生える大きな木の影で今にも殴りかかりそうな勢いで男達が女の子を取り囲んでいた。
「貴方達!今すぐその子から離れなさい!」
私は駆け寄ると女の子を背にして庇うように男達の前に立ちはだかった。
「なんだあんた?あんたに関係ないだろ。そこをどきやがれ!」
「この子をどうするつもりなの?大の大人が寄ってたかって恥ずかしいと思わないの?!」
私はそう言って男達を睨みつける。
しかし男達は動じることなく、同じように睨み返してきた。
「そいつはなぁここいらじゃ有名な悪党の一味なんだよ!今ここでそいつを逃がせばまた被害者が増えるだけなんだよ!」
悪党の一味?この子が?
目を見開いて後ろを振り返ると、女の子は小さくなってブルブルと震え上がっている。
「貴女、本当に?」
「ち、ちがう!誤解、です!」
「嘘をつくな!」
男の1人が少女の胸倉を掴もうと腕を伸ばす。
すんでのところでメルが男の腕を掴んで割って入った。
「もしそうだとしてもこれはやり過ぎだと思います。拷問にでもかけるつもりですか?」
「だったらなんだってんだ!こいつが洗いざらい吐くまでなんだってやるぞ俺たちは」
そーだそーだ!と周りの男達も武器を掲げて同意する。
反省するどころか皆が皆同じ事を考えているなんて、信じられないなんて人達なの!
「でもこの子は違うって言ってるわ!それにいくら何でも拷問だなんてやり過ぎよ!」
「うるせぇ!部外者は引っ込んでろ!そこをどけっ!」
私はドンっと男に突き飛ばされ、思い切り地面にのめりこんでしまった。
「お嬢様!」
と、メルが駆け寄ってくる。
するとそれまで男達の後ろに居た筈のテディが、女の子の前にフッと現れる。
突然目の前に現れたテディに男達も虚を付かれて立ち止まる。
今のってもしかして転移魔法ってやつかしら?!
テディは男達に向かってニッコリ微笑む。
「このままでは埒が明かないので、向こうで少し話をしませんか?お互い冷静になった方が良いと思うんですよ」
「話だぁ?」
訝しむ男達を余所に、テディは目の前にいた男の肩を叩きながら何かを耳打ちすると、男は驚いた顔をして大人しくテディの後について行く。
男達は暫くテディと話し合った後、男達は渋々といった感じでその場から立ち去った。
メルと私と女の子はと言うと、始終のやり取りをポカーンと眺めていた。
テディは話を終えるとニッコリ微笑みながらこちらに手を振って近づいてくる。
「話はつきましたよ。レティ、大丈夫ですか?怪我してませんか?」
「え…あ、手を少し擦りむいたけど……え?テディ?一体何を話したの?」
テディは私の両手の平を確認すると、少し顔を顰めてから水筒を取り出して、水で汚れを洗い流してくれた。
「あ、ありがとう」
「たいしたことは話してませんよ?ただ、彼女の身柄は僕達で預かると言いました」
これで大丈夫です。と言ってテディはニッコリ微笑む。
「身柄を預かるって、だって、あんなに喰い掛かろうとしてたのに…?」
「ちゃんと話し合えば誠意は通じるものですよ」
訝しむ私に対して、ニコニコとテディは嬉しそうに話す。
う、うーん…?誠意とかそういう問題なのかしら?
「まぁ、いいじゃないですか。無事解決です。疲れましたし話は宿に行ってからにしませんか?貴女もそれで構わないですよね?」
テディが女の子に向かってそう言うと、女の子は少しだけ警戒しつつもコクンと頷いた。
私は女の子に近寄って、彼女の前にしゃがみ込む。
「もう大丈夫よ。私はレティって言うの。こっちはメルで、こっちがテディ。貴女のお名前は?」
「ピア」
「素敵な名前ね。ピア。私とお友達になってくれる?」
私はそう言ってピアに手を差し伸べる。
ピアは少し躊躇いがちにコクンと頷くと私の手をギュッと握った。
そうして私はピアの手を引いて、商店街の宿屋へ向かった。
港町ノートウォルド
ーーの一つ前の町ネグドール。
一つ前のと言っても港からはだいぶ離れた場所にある。
王都から見て北東、ノートウォルドから見て南東と言ったところかしら。
ウイニーの北方地域の中で5番目位に大きな町と言える。
フェンスのように物流が盛んなわけではないけれど、北方地域に住む人ならわざわざここに出てきて買い物をする人も少なくないらしい。(ダニエル旅行記談)
私達はここで服装を整えてから一泊した後、現地へ向かうことにした。
理由は流石に私とメルが目立ちすぎるからだ。
私はテディに借りた身の丈に合わない大きいローブを着ているし、メルはただでさえ目立つ容姿なのに、田舎に居るにしてはやけに都会じみたおしゃれな服を着ている訳で…
急ぎたいのはやまやまだけど、この先には衣服を調達できるほど大きな町も村も無いのでここで全部整えた方が良いだろうとテディの判断だった。
それに、一つ手前の村だからこそ手に入る情報もあるかもしれない。
私達は村に到着すると早速衣服を見繕った。
私の服は本当に地味な、いかにも田舎の農村で働いてますと言った感じの古着だ。
焦げ茶色のエプロンドレスに黒のブーツ、濃い緑色のスカーフで頭を覆って髪も纏め上げてなるべく金髪が見えないように工夫した。
メルやテディも似たような色のベストとインナーにズボンを履いて地味目な格好を意識した。
と言ってもメルは金髪だけでなく容姿も目立ってしまうので、テディに預けていた私の帽子を被ってもらい、更に私の伊達眼鏡を貸すことにした。
この格好なら多少日焼けしてても目立つことはないだろう。
むしろ色が白い方が目立ってしまうかもしれない。
それでも男2人に女1人というこの構図は目立ってしまう気がしたので、私としては男装しようと思っていたのだけど、2人に即刻却下されてしまった。
「2年前なら通用したでしょうけど、今のレティでは流石に無理がありますから」
「髪を切れば大丈夫だと思うんだけど」
と、私が髪をひとつまみして考え込むと、2人が息を揃えた様に全力で止めに入られてしまった。
「やめて下さい!折角元の長さに戻ろうとしてるのに!またアベル様が卒倒してしまいます!」
「いくらなんでも髪を切るなんていけませんよ!折角綺麗なストレートなのにそんな悲しい事言わないで下さい。それにいくら髪を短くしても綺麗な女性にしか見えませんから」
テディの言葉にうんうんと激しく上下に首を振ってメルも同意する。
そんな2人の気迫に押されて、結果農民の娘のような格好となったのだった。
服装を整えた後、商店を出て宿屋へ向かう。
あまり広い町ではないため、宿屋も町の中に2軒ほどしかないようだった。
町の入り口に一軒と、商店街付近に一軒だ。
情報収集するなら町の中心が便利だろうと、私達は商店街の宿へと向かうことにする。
さして大きくもない商店街の大通りを歩いていると、後ろからドンっと誰かがぶつかって私は前のめりによろけてしまう。
「わっ」
「ごめんなさい!」
と、か細い小さな女の子の声。
体勢を整えると、トビウオのヒレのような長い耳をした可愛らしい半獣族の女の子が青い顔で目に飛び込んできた。女の子は振り向きもせずそのまま町の奥へ駆け出して行く。
その後を追うように、私の後ろの方から男の野太い声と足音が近づいてくる。
「待ちやがれ!」
振り返ると数人の男達が荒縄や農具、武器を手に持って鬼の形相で女の子を追い掛けている。
「大変!助けなきゃ!」
メルとテディに目配せをするとメルがコクンと頷いて私に答える。
そして急いで男達の後を追おうとしたところで、
「待って下さいレティ」
と、テディが私達を制止した。
「どうしたの?早く助けないと、あの子きっと酷い目にあうわ!」
「ですが、僕達彼らの事情を知りませんし…」
そう言って躊躇するテディに私は目を瞠る。
「確かに事情は解んないけど、あんな小さな女の子にあんな物騒な武器とか要らないでしょ?!いくらなんでも普通じゃないわ!」
私が苛立ってテディに言うと、「確かに?」と首を捻りながらテディは悠長に答える。
そしてまたそのまま考え込もうとしてしまうので、私はテディの腕を引っ張って走り出した。
「とにかく助けるのが先!考えるのは後よ!」
村の奥へ見失ってしまった男達の姿を探す。
「あ!お嬢様あそこに!」
メルに言われた方向を見ると、村の隅に生える大きな木の影で今にも殴りかかりそうな勢いで男達が女の子を取り囲んでいた。
「貴方達!今すぐその子から離れなさい!」
私は駆け寄ると女の子を背にして庇うように男達の前に立ちはだかった。
「なんだあんた?あんたに関係ないだろ。そこをどきやがれ!」
「この子をどうするつもりなの?大の大人が寄ってたかって恥ずかしいと思わないの?!」
私はそう言って男達を睨みつける。
しかし男達は動じることなく、同じように睨み返してきた。
「そいつはなぁここいらじゃ有名な悪党の一味なんだよ!今ここでそいつを逃がせばまた被害者が増えるだけなんだよ!」
悪党の一味?この子が?
目を見開いて後ろを振り返ると、女の子は小さくなってブルブルと震え上がっている。
「貴女、本当に?」
「ち、ちがう!誤解、です!」
「嘘をつくな!」
男の1人が少女の胸倉を掴もうと腕を伸ばす。
すんでのところでメルが男の腕を掴んで割って入った。
「もしそうだとしてもこれはやり過ぎだと思います。拷問にでもかけるつもりですか?」
「だったらなんだってんだ!こいつが洗いざらい吐くまでなんだってやるぞ俺たちは」
そーだそーだ!と周りの男達も武器を掲げて同意する。
反省するどころか皆が皆同じ事を考えているなんて、信じられないなんて人達なの!
「でもこの子は違うって言ってるわ!それにいくら何でも拷問だなんてやり過ぎよ!」
「うるせぇ!部外者は引っ込んでろ!そこをどけっ!」
私はドンっと男に突き飛ばされ、思い切り地面にのめりこんでしまった。
「お嬢様!」
と、メルが駆け寄ってくる。
するとそれまで男達の後ろに居た筈のテディが、女の子の前にフッと現れる。
突然目の前に現れたテディに男達も虚を付かれて立ち止まる。
今のってもしかして転移魔法ってやつかしら?!
テディは男達に向かってニッコリ微笑む。
「このままでは埒が明かないので、向こうで少し話をしませんか?お互い冷静になった方が良いと思うんですよ」
「話だぁ?」
訝しむ男達を余所に、テディは目の前にいた男の肩を叩きながら何かを耳打ちすると、男は驚いた顔をして大人しくテディの後について行く。
男達は暫くテディと話し合った後、男達は渋々といった感じでその場から立ち去った。
メルと私と女の子はと言うと、始終のやり取りをポカーンと眺めていた。
テディは話を終えるとニッコリ微笑みながらこちらに手を振って近づいてくる。
「話はつきましたよ。レティ、大丈夫ですか?怪我してませんか?」
「え…あ、手を少し擦りむいたけど……え?テディ?一体何を話したの?」
テディは私の両手の平を確認すると、少し顔を顰めてから水筒を取り出して、水で汚れを洗い流してくれた。
「あ、ありがとう」
「たいしたことは話してませんよ?ただ、彼女の身柄は僕達で預かると言いました」
これで大丈夫です。と言ってテディはニッコリ微笑む。
「身柄を預かるって、だって、あんなに喰い掛かろうとしてたのに…?」
「ちゃんと話し合えば誠意は通じるものですよ」
訝しむ私に対して、ニコニコとテディは嬉しそうに話す。
う、うーん…?誠意とかそういう問題なのかしら?
「まぁ、いいじゃないですか。無事解決です。疲れましたし話は宿に行ってからにしませんか?貴女もそれで構わないですよね?」
テディが女の子に向かってそう言うと、女の子は少しだけ警戒しつつもコクンと頷いた。
私は女の子に近寄って、彼女の前にしゃがみ込む。
「もう大丈夫よ。私はレティって言うの。こっちはメルで、こっちがテディ。貴女のお名前は?」
「ピア」
「素敵な名前ね。ピア。私とお友達になってくれる?」
私はそう言ってピアに手を差し伸べる。
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