ウイニー王国のワガママ姫

みすみ蓮華

交渉と対話 8【フィオ編】

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 四半刻もしないうちにクロエさんは戻ってきて、城内の客室の方へと案内される。
 そこで待っていると程なくしてこの国の皇太子、レイノルド・イグニス=ルワードがやって来た。


 レイは端整な顔で優雅な大人びた笑みで僕に握手を求めた。
「フィオディール殿!いや、久しい!何年振りになるか?お互いスッカリ見違えたと言うべきか。この厳しい季節にも関わらず、遠路遥々ようこそお越し下さった」
「殿なんてやめて下さいよ。貴方と私の仲じゃないですか。昔みたいにフィオって呼んでください。しかしそうですねぇ3年か4年か…それくらいになりますかね?突然押し掛けてしまってすみません」
 社交辞令の挨拶を返しながら、僕もレイ握手に応じた。


「もうそんなになるか?しかし相変わらずだなフィオは。…っと、リオネス殿もお久しぶりで。エルネスト王の戴冠式以来か?」
 レイは兄上にも同じように手を差し出して兄上と握手を交わす。
「そうですね。私はあまり国外へ出ることがありませんでしたから。弟がいつも世話になってるみたいで、今回は今回で弟共々私までご迷惑をおかけして申し訳ない」
「いえ、こちらこそフィオディール殿にはお世話になりっぱなしで。どうぞ、おかけになって下さい」


 レイに着席を促され、僕と兄上はソファーに座る。
 レイの後ろにはクロエさんが控えていた。
「早速だが、どのようなご用件でこちらにいらしたのかお聞きしても?」
 僕はコクリと頷いて早速本題を口にした。


「リン・プ・リエンの問題にこちらを巻き込むのも心苦しいのですが、この兄が馬鹿をやらかしてくれました所為で他にもう手立てが無くって…もう、こうなったら恥を忍んでレイに協力して頂けないかと思いまして」
 僕がそう話すと、隣の兄上は珍しく萎縮して居るのが目の端に映った。
「詳しく?」
 とレイが話の先を促す。


「話すと途方もなく長くなるので端折りますが、この兄が兄王の不興を買いまして、命の危険が有るんですよ。僕、本来ならこの人の首を陛下に差し出さないといけないんですが、実の兄を殺すなんてとてもとても…恐ろしいと思いませんか?」
 レイとクロエさんも少し目を見開いたが、直ぐにその表情を戻していた。


「つまり、亡命をお望みで?」
 ニッコリ僕は微笑んで頷いてみせる。
「レイは話が早くて助かります。ただ、望んでいるのは一時的な亡命で、兄上だけで構いません」
 その言葉に兄上がギョッとした。
「俺だけって…お前はどうするつもりなんだ?」
「それは兄上の知るところじゃありませんよ。ただ、落ち着いたらちゃんと迎えに来る予定ですよ?」
 僕たちのやり取りをじっと見ていたレイは、眉間にシワを寄せて難しい顔で質問をする。


「リン・プ・リエンは一応同盟国だ。その貴方がたの複雑そうな理由は分からんが、現王が貴方がたの兄君で在らせられる以上、ここにリオネス殿が居ると知られれば引き渡さざるを得なくなりますが?」
「そうですね、そうなったらもう仕方ないでしょう。まぁ、こちらも極力そうなる前に片を着けようと思いますが、バレ無いように尽力して頂けると助かります」


 腕を組み、う〜ん…とレイが唸ってみせる。
「その話、わが国には何らメリットもないし、むしろデメリットだらけのように感じるのだが?」
「そうですねぇ〜…」と、僕は宙を仰いで考えてみせる。
「この先は2人で話しませんか?悪い話にはならないと思いますよ?」
 ニッコリ微笑んで僕がそう言うと、クロエさんが兄上に「別室へご案内します」と言って兄上と一緒に退室した。


 2人がいなくなると、レイはどかりとテーブルに足を投げ出して背もたれに寄りかかる。
「で?悪い話にならないってのはどの辺りだ?」
 胡乱な目でこちらを見ているが、話はちゃんと聞く気でいる辺りが彼の人あたりの良さを現しているんだと内心頷く。


「信じる信じないは勝手なんですが、実は僕、既に一国の主だったりするんですよね」
「は?」
 突然何言ってるんだこいつは?とありありと顔に書いてあるのに僕は満足して頷く。


「いい反応です。地図出しましょうか?」
 そう言って僕は懐から地図を取り出す。
「ここから南東、ダールから北東…の、この辺りですかね?この周辺の森は既に僕が5年前から開拓して所々に大きな街や村を形成しています。正確な規模はまだ算出中ですが最低でも3万人は人が住んでますよ。まぁ、国と言っても全然宣言してませんし僕がコソコソ隠れて作ってたので住人以外は知らないでしょうね」


 僕の説明にレイは慌てて飛び起きて、喰い付く様にテーブルに両手をつく。
「ちょ、ちょっとまて!3万の住人だと?!この森って確か死霊やらとんでもないモンスターやらがうようよ居るとかで誰も近寄れない場所だよな?お陰でウイニーでもリン・プ・リエンでも無い未開の森の筈だぞ!?」


 あり得ないだろ…と口を押さえてレイは呟く。
 僕自身もここまでの規模をよく何処にもバレずにやって来れたと思っているのだから当たり前の反応だ。


「コソコソやってきたおかげで、まだようやく都市レベルに辿り着いた人口ですが、ちゃんと機能はしてるんですよ?もっとも、今はリン・プ・リエンが緊迫した状況なので、遊びに来て下さいなんて気軽に言えませんが」
「まさか不興云々はそれ絡みか?」


「ご明察です」と笑顔で答えてみせる。
 マジありえねぇ…とレイは益々頭を抱えた。
「お前は腹に一物抱えた男だとは思っていたが、まさか本当に何かやらかすとは思ってなかったぞ…」
 ふふふっと笑ってみせ、僕は話を続ける。


「ただ、僕の兄2人はそのようなものが存在しているかもしれない。くらいの認識でどこにどれだけの規模の物が在るかまではわかっていないんです。まぁ、そこを詳しく話してしまうと話が進まないので、僕の兄を匿ってくれたら。のメリットをお話ししましょう」

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