ウイニー王国のワガママ姫
交渉と対話 7【フィオ編】
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アスベルグから南西へ進んで10日程経った頃、心配していた追手もなく、目的の街へ無事に入ることができた。
雪こそ降っていないものの、海から街中へ向かって強く凍てつく風が駆け上っていく。
街の中心街では冬の寒さを吹き飛ばすかのような賑わいを見せ、行き交う人々が新年を迎えるための準備に追われていた。
街角では焚き火で暖を取りながらトップルを煽る中年の男性達が話に花を咲かせている。
「フィオ、まさかここは…」
見慣れない光景に兄上が戸惑いながらキョロキョロと街を観察する。
リン・プ・リエンの王都はここよりも大きい街だが、この街のように人々が生き生きとした印象はあまり無い。
どこかしら陰湿な空気を漂わせていて、街の至る所に兵が常駐監視しているのだ。
都とは国柄を表す鏡だと僕は思う。
「もうすぐ着きますから、黙って付いてきて下さい。余計な事は話さない様にお願いしますよ」
城下の中心街を抜け、坂を登り、城門へと進んで行く。
丘の頂上には荘厳だが重苦しくない真っ白な美しい城が佇んでいる。
ーーウイニー王国 王城
お忍びで来るのは流石に初めての事だ。
僕は門兵の前に立ち、ニッコリ微笑んで挨拶をする。
「初めまして、僕は武器商人のテディと言うものなのですが、こちらにクロエさんという方は居られますでしょうか?以前大変お世話になりまして、王都に寄ったついでなのですが、是非ご挨拶をしたいと思いまして」
僕の言葉に門兵は「ああ!」と声を上げると、にっこり笑って「少々お待ちを」といって中に居た兵に声を掛ける。
「この者が案内致しますので、どうぞこちらへ」
特に警戒される事も無く、すんなり中へ通された。
「ありがとうございます」と礼を述べる。
「随分警戒心のない国だな」
と、兄上がボソリと言うのが聞こえた。
僕も苦笑しながら同意して頷く。
「それだけ平和な国なんですよ。本来ならば国とはこうあるべきだと僕は思いますけどね」
僕の言葉が意外だとでも言いたげに兄上が視線を送ってくる。
僕はそれにニコリと笑って返してみせる。
暫く進むと、兵舎近くの一般用の面会室に案内された。
おそらく兵士の家族などが訪れた際に使う場所なのだろう。
さして豪華とは言い難い、どちらかというと質素な小屋と言える建物だ。
中で待っていると、外からガシャガシャと鎧を鳴らす音が聞こえてきた。
コンコンとノックの音がすると「失礼します」と言って、件の彼女が現れた。
クロエさんは部屋に入り、僕と兄上の姿を確認すると一瞬だけ驚いた顔をしてから僕たちの前に座った。
「お久しぶりですね。半年振りぐらいですか?お元気そうで何よりです」
ニッコリ笑って彼女に話しかける。
しかし、彼女は厳しい顔でこちらをジッと睨み付けている。
「ええ、そうですね。そちらもお元気そうで。…リオネス様もお久しぶりです。と言っても覚えていらっしゃらないでしょうが」
クロエさんの言葉に兄上が首を傾げる。
本当に覚えていない様子に少し僕は呆れてしまう。
「彼女、昔13分隊に居たらしいですよ?兄上の元部下ってわけです。覚えていないんですか?」
「…スマン。分隊の管理は俺は直接行っていないから全員は把握していない」
兄上が申し訳なさそうに頭を下げると、クロエさんは少し困ったように手を降ってみせる。
「いえ、末端部隊でしたししょうがないと思います。ところで今日はどのようなご用件で?」
表情は無表情だが、僕達の思惑を見抜こうと紫色の瞳が鋭く光っている。
感情を表に出すまいとするその姿勢は、ゲイリーとは全く違う意味で騎士としてはかなり優秀なのだろうと感心する。
「実は非公式でレイ殿下と話し合いの場を作って頂きたいのです。表立ってしまうと少々マズいので」
「…私ではそう簡単にお目通り叶わないとお考えにならないのですか?」
彼女はそう言ってフッと口角を上げて微笑を浮かべる。
お茶を口に運びながら目を伏せるその姿は優雅な貴婦人と言ってもおかしくない。
「お目通り叶わない立場の人間がレティの護衛を任されますかね?それに僕ちゃんと覚えてますよ。副隊長さん?」
あの奇襲の際、アベルさんは確かにクロエさんを"オットマン副隊長"と呼んでいた。
ウイニーは王直轄の騎士団は無いが、近衛隊が存在するので、副隊長と言われれば副団長と同じ位の立ち位置になるはずだ。
お目通りが叶わない立場であるはずがないのだ。
僕の言葉にふぅ…と溜息を吐き出すと、諦めたようにクロエさんは言った。
「正確には隊長補佐なんですが…まぁいいでしょう。殿下にお伺いを立ててきますのでこちらでお待ち下さい」
「ありがとうございます。助かります」
アスベルグから南西へ進んで10日程経った頃、心配していた追手もなく、目的の街へ無事に入ることができた。
雪こそ降っていないものの、海から街中へ向かって強く凍てつく風が駆け上っていく。
街の中心街では冬の寒さを吹き飛ばすかのような賑わいを見せ、行き交う人々が新年を迎えるための準備に追われていた。
街角では焚き火で暖を取りながらトップルを煽る中年の男性達が話に花を咲かせている。
「フィオ、まさかここは…」
見慣れない光景に兄上が戸惑いながらキョロキョロと街を観察する。
リン・プ・リエンの王都はここよりも大きい街だが、この街のように人々が生き生きとした印象はあまり無い。
どこかしら陰湿な空気を漂わせていて、街の至る所に兵が常駐監視しているのだ。
都とは国柄を表す鏡だと僕は思う。
「もうすぐ着きますから、黙って付いてきて下さい。余計な事は話さない様にお願いしますよ」
城下の中心街を抜け、坂を登り、城門へと進んで行く。
丘の頂上には荘厳だが重苦しくない真っ白な美しい城が佇んでいる。
ーーウイニー王国 王城
お忍びで来るのは流石に初めての事だ。
僕は門兵の前に立ち、ニッコリ微笑んで挨拶をする。
「初めまして、僕は武器商人のテディと言うものなのですが、こちらにクロエさんという方は居られますでしょうか?以前大変お世話になりまして、王都に寄ったついでなのですが、是非ご挨拶をしたいと思いまして」
僕の言葉に門兵は「ああ!」と声を上げると、にっこり笑って「少々お待ちを」といって中に居た兵に声を掛ける。
「この者が案内致しますので、どうぞこちらへ」
特に警戒される事も無く、すんなり中へ通された。
「ありがとうございます」と礼を述べる。
「随分警戒心のない国だな」
と、兄上がボソリと言うのが聞こえた。
僕も苦笑しながら同意して頷く。
「それだけ平和な国なんですよ。本来ならば国とはこうあるべきだと僕は思いますけどね」
僕の言葉が意外だとでも言いたげに兄上が視線を送ってくる。
僕はそれにニコリと笑って返してみせる。
暫く進むと、兵舎近くの一般用の面会室に案内された。
おそらく兵士の家族などが訪れた際に使う場所なのだろう。
さして豪華とは言い難い、どちらかというと質素な小屋と言える建物だ。
中で待っていると、外からガシャガシャと鎧を鳴らす音が聞こえてきた。
コンコンとノックの音がすると「失礼します」と言って、件の彼女が現れた。
クロエさんは部屋に入り、僕と兄上の姿を確認すると一瞬だけ驚いた顔をしてから僕たちの前に座った。
「お久しぶりですね。半年振りぐらいですか?お元気そうで何よりです」
ニッコリ笑って彼女に話しかける。
しかし、彼女は厳しい顔でこちらをジッと睨み付けている。
「ええ、そうですね。そちらもお元気そうで。…リオネス様もお久しぶりです。と言っても覚えていらっしゃらないでしょうが」
クロエさんの言葉に兄上が首を傾げる。
本当に覚えていない様子に少し僕は呆れてしまう。
「彼女、昔13分隊に居たらしいですよ?兄上の元部下ってわけです。覚えていないんですか?」
「…スマン。分隊の管理は俺は直接行っていないから全員は把握していない」
兄上が申し訳なさそうに頭を下げると、クロエさんは少し困ったように手を降ってみせる。
「いえ、末端部隊でしたししょうがないと思います。ところで今日はどのようなご用件で?」
表情は無表情だが、僕達の思惑を見抜こうと紫色の瞳が鋭く光っている。
感情を表に出すまいとするその姿勢は、ゲイリーとは全く違う意味で騎士としてはかなり優秀なのだろうと感心する。
「実は非公式でレイ殿下と話し合いの場を作って頂きたいのです。表立ってしまうと少々マズいので」
「…私ではそう簡単にお目通り叶わないとお考えにならないのですか?」
彼女はそう言ってフッと口角を上げて微笑を浮かべる。
お茶を口に運びながら目を伏せるその姿は優雅な貴婦人と言ってもおかしくない。
「お目通り叶わない立場の人間がレティの護衛を任されますかね?それに僕ちゃんと覚えてますよ。副隊長さん?」
あの奇襲の際、アベルさんは確かにクロエさんを"オットマン副隊長"と呼んでいた。
ウイニーは王直轄の騎士団は無いが、近衛隊が存在するので、副隊長と言われれば副団長と同じ位の立ち位置になるはずだ。
お目通りが叶わない立場であるはずがないのだ。
僕の言葉にふぅ…と溜息を吐き出すと、諦めたようにクロエさんは言った。
「正確には隊長補佐なんですが…まぁいいでしょう。殿下にお伺いを立ててきますのでこちらでお待ち下さい」
「ありがとうございます。助かります」
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