ウイニー王国のワガママ姫
2章 エピローグ
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魔法大国イスクリス。ここまで来るのに結局2ヶ月近く掛かってしまった。
家を飛び出して来た時はまだ初秋だったいうのに、今はもう季節で言えばすっかり冬だ。
ウイニーではきっと雪も降り始めているだろう。
しかしこの国は魔法以外の方法で雪が降ることはない。
年中温暖なイスクリスは、ラハテスナのライリ女王様からもらった衣装でも暑いくらいだった。
ダニエルと別れたあの日、そのまま女王陛下の元へ行き私は女王に願いを告げた。
************
『答えが出たようじゃな。早速聞こうではないか』
数日振りに姿を拝見した女王は、初めて謁見した時よりもその妖艶な雰囲気が増していた気がした。
眠虎に寄り掛かり、楽しそうな微笑を浮かべるその黄金の瞳は、私の奥にある何かを見透かしているかの様だった。
私はゆっくりと顔を上げ、力強い声で女王に宣言した。
『私の願いは、生きている限り、大事な人と出会い続けたいです』
私が宣言すると、女王は少しだけ「おや?」という顔をした。
『なんというか、まさかそうくるとはのう…その願い、見方によっては大層な願いとなるが覚悟はあるのかの?』
私は迷うことなくコクリと頷いた。
大事な人と出会い続ける。という事は、その分大事な人と別れ続ける。という事にもなる。
その大事な人がいい人か、悪い人かも判らない。
それでも私は今までであってきた人と後悔することなんて無かった。
むしろこれから先もずっと出会って行きたいとそう思ったのだ。
私の想いを理解したのか、女王は満足そうに「うむ」と頷いた。
『よかろう。その願い、真名に込めて妾がそなたにその名を授けよう』
女王はスクッと立ち上がると、天蓋付きの玉座から前へ進む。
スッと右手を伸ばすと、天蓋のかかる支柱の間には何もないはずなのに、まるでそこに膜でもあるかのような揺らぎが発生した。
その揺らぎから、女王の手がぬるりと伸びて出てくる。
その腕は幼い子供の愛らしい腕ではなく、もっと成熟した女性の長く細い腕で、長い指には伸ばした赤い爪が美しい光沢を放っていた。
その光景に驚いていると、膜の奥から徐々にその姿が露わになってくる。
そこから出て来たのは、ジャハー様と同じ位の年齢のまさに妖艶と言える女性の姿だった。
すらっと伸びた背に、細い腰、豊満な胸をしたまさに大人の女性と言わざるを得ない女王の姿は、誰もが虜になるような美しい美姫と言う言葉がぴったりだった。
唖然として見上げる私に、黄金の瞳が優しくも怪しい微笑を浮かべる。
静かに私の目の前まで進むと、ゆっくりと女王は屈み込み、しなやかなラベンダー色の髪を少し掻き上げると、右手を伸ばし、私の額の中心にその親指をそっと乗せて、部屋中に反響するような不思議な声で言葉を発した。
『汝、レティアーナ・ビセットに、我、ライリ・ミナー・ヌールが真名を捧げる。願わくばこの者の願いと共に、神獣と神の祝福を』
女王が触れている箇所に暖かな熱を感じる。
それは波紋のように全身に広がり、やがて、私の身体の中心に収縮されていった。
『これより、汝、レティアーナ・ビセットはレティアーナ・アサル・ビセットと生まれ変わった事を宣言する。…その真名、大事にするがよい』
蜂蜜…その日からそれが私の真名となった。
************
女王曰く、名前を変えるだけでも周囲や自分の運命に影響を与えるらしい。
特に私はミドルネームが無かったので、そこに真名を加えることでこの先の運命が90度以上は変わると女王は言っていた。
少なくとも、あの歪みは消えた筈だと女王は言った。
「お嬢様、街に入ったのはいいですが、この先のどうなさるおつもりなんですか?」
町の活気に目を輝かせながらメルが私に尋ねてきた。
ここにくるまでの間にメルはすっかり肌が黒くなり、チャームポイントのそばかすがあまり目立たなくなっていた。道中でもまた背が伸びてるみたいだし、すっかり男らしくなっちゃってまぁ。
「そうね、結局2ヶ月近くも掛かってしまったから帰りを考えると半年も無いのよね…うーん。薬を優先した方が良いのかしら?半獣族の件は後回しね。後は情報収集しつつ運が良ければ師事出来る魔法使いを探しましょう」
お兄様の結婚式まで約半年、ダールを経由して帰ったとしてもそう長い事留まる事は出来ないだろう。
他の国を回る時間も魔法をしっかり習う時間もあまりありそうにない。
そうなるとテディの手助けを少しでも出来た方がいいだろう。幸いこの国なら魔法使い便は使い放題のはずだ。
「わかりました。なんだか忙しくなりそうですね!」
剣をとるよりお使いが大好きなメルらしいこのやる気に満ちた表情がなんともまぁ輝いてる事。
苦笑しながら私はメルの肩を叩き見上げる。
「やる気充分で頼もしいんだけど、まずは住む場所を探しましょ。あと、メルはまずイスクリス語憶えてね」
メルは「うっ…」と喉を詰まらせてから、しょんぼりと「解りました」と肩を落として返事をする。
私は満足気に頷くと、メルの手を取り悠然とイスクリスの街を歩きだす。
色取り取りの魔法の光が街中を照らし浮遊する。それはまるで、一つ一つに数ある多くの未来が詰まっているかの様に輝きを放ち、山のように高い建物は日の光を覆い隠そうと立ちはだかってくる。
空を見上げ、グッと腕を伸ばし、太陽を掴んで見せる。
私が掴むのは瞞しの未来じゃない。そこにある確かな未来を掴んで見せる!
外套から覗かせる2つの長い金糸は風に導かれるように街中を流れ漂う。
やがてそれは喧騒の中に溶けるように街の奥へと消えてゆく。
2つの長い金糸が更に長さを増して街の中を風に煽られるのは、もう少し先の話である。
魔法大国イスクリス。ここまで来るのに結局2ヶ月近く掛かってしまった。
家を飛び出して来た時はまだ初秋だったいうのに、今はもう季節で言えばすっかり冬だ。
ウイニーではきっと雪も降り始めているだろう。
しかしこの国は魔法以外の方法で雪が降ることはない。
年中温暖なイスクリスは、ラハテスナのライリ女王様からもらった衣装でも暑いくらいだった。
ダニエルと別れたあの日、そのまま女王陛下の元へ行き私は女王に願いを告げた。
************
『答えが出たようじゃな。早速聞こうではないか』
数日振りに姿を拝見した女王は、初めて謁見した時よりもその妖艶な雰囲気が増していた気がした。
眠虎に寄り掛かり、楽しそうな微笑を浮かべるその黄金の瞳は、私の奥にある何かを見透かしているかの様だった。
私はゆっくりと顔を上げ、力強い声で女王に宣言した。
『私の願いは、生きている限り、大事な人と出会い続けたいです』
私が宣言すると、女王は少しだけ「おや?」という顔をした。
『なんというか、まさかそうくるとはのう…その願い、見方によっては大層な願いとなるが覚悟はあるのかの?』
私は迷うことなくコクリと頷いた。
大事な人と出会い続ける。という事は、その分大事な人と別れ続ける。という事にもなる。
その大事な人がいい人か、悪い人かも判らない。
それでも私は今までであってきた人と後悔することなんて無かった。
むしろこれから先もずっと出会って行きたいとそう思ったのだ。
私の想いを理解したのか、女王は満足そうに「うむ」と頷いた。
『よかろう。その願い、真名に込めて妾がそなたにその名を授けよう』
女王はスクッと立ち上がると、天蓋付きの玉座から前へ進む。
スッと右手を伸ばすと、天蓋のかかる支柱の間には何もないはずなのに、まるでそこに膜でもあるかのような揺らぎが発生した。
その揺らぎから、女王の手がぬるりと伸びて出てくる。
その腕は幼い子供の愛らしい腕ではなく、もっと成熟した女性の長く細い腕で、長い指には伸ばした赤い爪が美しい光沢を放っていた。
その光景に驚いていると、膜の奥から徐々にその姿が露わになってくる。
そこから出て来たのは、ジャハー様と同じ位の年齢のまさに妖艶と言える女性の姿だった。
すらっと伸びた背に、細い腰、豊満な胸をしたまさに大人の女性と言わざるを得ない女王の姿は、誰もが虜になるような美しい美姫と言う言葉がぴったりだった。
唖然として見上げる私に、黄金の瞳が優しくも怪しい微笑を浮かべる。
静かに私の目の前まで進むと、ゆっくりと女王は屈み込み、しなやかなラベンダー色の髪を少し掻き上げると、右手を伸ばし、私の額の中心にその親指をそっと乗せて、部屋中に反響するような不思議な声で言葉を発した。
『汝、レティアーナ・ビセットに、我、ライリ・ミナー・ヌールが真名を捧げる。願わくばこの者の願いと共に、神獣と神の祝福を』
女王が触れている箇所に暖かな熱を感じる。
それは波紋のように全身に広がり、やがて、私の身体の中心に収縮されていった。
『これより、汝、レティアーナ・ビセットはレティアーナ・アサル・ビセットと生まれ変わった事を宣言する。…その真名、大事にするがよい』
蜂蜜…その日からそれが私の真名となった。
************
女王曰く、名前を変えるだけでも周囲や自分の運命に影響を与えるらしい。
特に私はミドルネームが無かったので、そこに真名を加えることでこの先の運命が90度以上は変わると女王は言っていた。
少なくとも、あの歪みは消えた筈だと女王は言った。
「お嬢様、街に入ったのはいいですが、この先のどうなさるおつもりなんですか?」
町の活気に目を輝かせながらメルが私に尋ねてきた。
ここにくるまでの間にメルはすっかり肌が黒くなり、チャームポイントのそばかすがあまり目立たなくなっていた。道中でもまた背が伸びてるみたいだし、すっかり男らしくなっちゃってまぁ。
「そうね、結局2ヶ月近くも掛かってしまったから帰りを考えると半年も無いのよね…うーん。薬を優先した方が良いのかしら?半獣族の件は後回しね。後は情報収集しつつ運が良ければ師事出来る魔法使いを探しましょう」
お兄様の結婚式まで約半年、ダールを経由して帰ったとしてもそう長い事留まる事は出来ないだろう。
他の国を回る時間も魔法をしっかり習う時間もあまりありそうにない。
そうなるとテディの手助けを少しでも出来た方がいいだろう。幸いこの国なら魔法使い便は使い放題のはずだ。
「わかりました。なんだか忙しくなりそうですね!」
剣をとるよりお使いが大好きなメルらしいこのやる気に満ちた表情がなんともまぁ輝いてる事。
苦笑しながら私はメルの肩を叩き見上げる。
「やる気充分で頼もしいんだけど、まずは住む場所を探しましょ。あと、メルはまずイスクリス語憶えてね」
メルは「うっ…」と喉を詰まらせてから、しょんぼりと「解りました」と肩を落として返事をする。
私は満足気に頷くと、メルの手を取り悠然とイスクリスの街を歩きだす。
色取り取りの魔法の光が街中を照らし浮遊する。それはまるで、一つ一つに数ある多くの未来が詰まっているかの様に輝きを放ち、山のように高い建物は日の光を覆い隠そうと立ちはだかってくる。
空を見上げ、グッと腕を伸ばし、太陽を掴んで見せる。
私が掴むのは瞞しの未来じゃない。そこにある確かな未来を掴んで見せる!
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