ウイニー王国のワガママ姫

みすみ蓮華

恋とか愛とか 4

「ちょっと、出掛けてくるから」
 男性2人の部屋にひょこっと顔を出して、一言言うとサッサと外へ出ようとする。
 すると慌てて2人して私を止めに来た。


「で、出かけるって何考えてんですか!街中とはいえお嬢様1人で見知らぬ街に出掛けるなんて危険です!」
「メルの言う通りだ。ハニー1人でフラフラ出掛けたらあっという間に人攫いにあうぞ!」
 自己防衛くらい!と言おうとした所で、レイにされた事を思い出す。


 確かに、私1人だと危険かも…


「でも2人して付いてきたら今度は荷物が危ないわ。ここの客室の鍵ちょっと頼りないもの」
 一番安い宿を選んだ所為か、見た目は清潔感があって問題ないんだけど、如何せん、鍵が私でも解錠出来そうな鍵だった。


 私に解錠を教えてくれたのはメルなわけだけど。


 そのメルも私の言わんとする事は分かっていたみたいで「うむむー」と唸っている。
「鍵番に関してはメルが一番安心出来ると思うけど…」
 と言ってチラッとダニエルを見上げる。
 メルも私と同じ事を考えた様で、同じようにダニエルを見上げていた。


 当のダニエルは気付いてるんだかいないんだか、ニッと笑って、
「おう!じゃあ護衛は俺に任せろ!」
 と胸を張って言ってきた。


 腐っても男爵家の出で、旅も長い所為かダニエルもそれなりに剣を扱えるみたいで、たまに出会うモンスターを難なく倒す姿は確認済みではあるのだけど、やはり何処か不安というか頼りないと言うか…


 まぁ、メルを連れて行こうにも、鍵番をダニエルに頼む方が不安だわ。


「じゃあ、行きましょうダニエル。夕飯までには戻るから」
 仕方なしにとても不安そうなメルを置いてダニエルと2人街に出る。


 まだ夕暮れにも程遠い時間帯なので人を集めるのは大変かもしれない。
 今日は休日でもないし、ヴェルは元々隣のイスクリスの楽器だからこの地域ではおそらく珍しくはないかもしれない。
 そう考えるとウイニーで稼ぐ時より若干不安を感じる。


「それで、どこに行くんだ?買い物か?なんかデートみたいだなっ」
 私の不安とは真逆に、ダニエルは2人で出かけるのが嬉しいと言わんばかりに浮かれている。
 なんだか久々に親と出かける子供みたいね。と私は内心苦笑した。


「買い物じゃないわ。貴方は私の護衛に徹してくれればいいから」
 言った後で、少し突き放した言い方になってしまったと後悔する。
 ダニエルもその言葉に少しへこんだ様子を見せた。


「ハニーは相変わらず冷たいねぇ…2人で居る時くらい少しくらい意識してくれてもいいんじゃないか?」
「意識…なら多分、少ししてるわ。貴方の思惑通りの意味ではないかもしれないけど。貴方を解ろうとする努力はしてるつもりよ?」


 周囲に気を配りながら、前を見据えて私はダニエルに言う。
 するとダニエルは少し篭った声で「そうか…」と呟いた。


 商店街を抜けて、占い通り近くの飲食屋台が立ち並ぶ広場へ出て来た。
 公園と併設されるように出来ているその一角は、占い目当ての観光客と、食事目当ての臣民がごった返して賑わっている。
 昼はとうに過ぎているというのに、人の出入りは激しいようだ。


「ここが良さそうね」
 噴水を背後にしてヴェルを取り出し、調律を始める。
「なんだそれ?ここで弾くのか?」
 ダニエルは腕を組みながら興味深げに腕を組むと、後ろから覗き込んだ。


「そうよ。貴方は変な人が来ないように後ろで見張ってて?」
 そう言うとダニエルはコクリと頷いて、噴水の淵に寄りかかるようにして待機した。


 すぅーっと何時ものように息を吸い込む。
 ここではウイニー語は通じないが、イスクリスが近いためイスクリス語が公用語になっている。
 お腹に力を入れていつもの口上を元気良くイスクリス語で述べる。


 行き交う人々も、屋台で食事をしていた人も、皆こちらに注目し始めた。
 屋台の距離はそこまで遠くないが、近くもない程よい距離だ。


『まずは古代の神話からー』と、古い神々に捧げる曲を弾き始める。
 雑多の中、ヴェルの高い音が緩やかに響き渡る。
 足を止めてくれる人はやはりウイニーよりも少ないが、まずまずと言ったところだった。


 英雄を讃える曲から、舞曲まで様々な曲を思う存分弾き続けた。
 観衆を何とか引きつけ最後にまた、明るい曲を引き、お辞儀で締めた。


 ケースを覗き込むとやはりいつもより少ない気がしたが、2日ぐらいは何とかなる額になった。


「なんていうか…凄いな……」
 後ろからダニエルがポツリと呟くのが聞こえた。
 しかし私は少し不満だった。
「ウイニーならもっと稼げるんだけど、ヴェルの産地が近い所為かあまり芳しくないわね。人が多いからと思ったんだけど、逆に多すぎて、ヴェルの繊細な音はここではかき消されてしまうみたい」


 もうちょっと落ち着いた場所を選ぶべきだったと後悔する。
 本場のヴェル奏者を見ていないから、もしかしたら私の腕が悪い可能性もある。
 色々悩んでいると、それでもダニエルは手放しで褒めてくれた。


「いや、十分だろう!あんなに不思議な曲を聴いたのは初めてだ!感動したぞ!」


 クロエも同じこと言ってたわね。と苦笑する。
 そこで私は、はたと気がついた。


 私の腕が良いか悪いか判断できないけど、ヴェルに賭けてみても良いんじゃないだろうか?
 幸いにも人の集まりが悪かったので私は割と早くに演奏を終了した為、まだ日も高かった。


「ダニエル。場所を移動しましょう」
 ヴェルをしまいケースを抱えるとクルリと踵を返し、目的地のある方向へ移動する。
 ダニエルは慌てて私についてくる。


「移動するって、何処にだ?さっきよりいい場所があるのか?」
 私の顔を覗き込むと様にしながらダニエルは訝しんで声をかける。
 私は少しだけ口角を上げて、ニヤリとして言い放つ。


「王宮の前でやるわ」

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