ウイニー王国のワガママ姫
Coffee Break : 赤獅子
それは、ダールを去る1日前の事。
私は侯爵様とマリアン夫人と一緒に夕飯を食べながらいつも通り歓談していた。
「とうもろこしばかりで飽きませんか?」
マリアン夫人はいつも気を使ってくれる。
婦人の笑顔を見ていると、お母様もこんな風に笑ったのかしら?とつい想像してしまう。
「いいえ。ワタクシ、ダールのとうもろこし大好きですわ。王都ではスープくらいしか知りませんでしたがパンになったり、お菓子になったり、知らない料理がいっぱいで毎日楽しみですの」
平べったいとうもろこしのパンを口に頬張りながら私は夫人に言う。
今日はとうもろこしのパンの他に豆のスープとポポクの香草蒸しが振る舞われていた。
頬を押さえて美味しそうに食べる私を見て、侯爵も夫人も満足そうに笑う。
「レティアーナ嬢はすっかりダールに染まりましたな。はぁ〜明日はとうとうここを去ってしまうと思うと離し難い」
と、侯爵は肩を落とす。
「まぁ!貴方ったら。でも本当、娘がもう1人出来たみたいで楽しかったから寂しくなりますね」
マリアン夫人も落ち込む侯爵の手をぽんぽんと叩きながら嘆息する。
本当に仲のいいご夫妻だなぁと思いながら、どうしたものかと私も少し困ってしまう。
「ワタクシも母が居りませんし、父や兄と食卓を囲むことも少ないですから、こうして侯爵様ご夫妻と過ごせてとても楽しかったですわ。またウイニーに帰国する時にこちらに伺っても?」
おずおずと侯爵夫妻に尋ねると、侯爵も夫人も嬉しそうに頷いた。
「もちろんだとも。ベルンにいる間もダール近くを通るのであれば是非いつでも来て欲しい。ここはもう貴方の家も同然なのだから」
と、侯爵は上機嫌で私に言った。
夫人も侯爵に続いて、
「ええ、ええ是非また来て欲しいわ。娘はもうここにはいないし、息子もまだ寮にいるし夫と2人だけで食事をするのも飽きていたところなんですよ」
と笑いながら言った。
その言葉を聞いて侯爵様は「飽きたって…酷いな……」と少しへこんでいた。
くすくすと笑いながら私は更に2人に話しかける。
「お2人は本当に仲睦まじい夫婦ですのね。ワタクシもそういう相手を見つけたいですわ」
「そう見えるかね?まぁ、私もコレがいないと何もできなくなってしまうからなぁ」
少し照れながら侯爵が言う。
強面だけどこういう所を見ると侯爵様は意外と繊細な人なんだなと思う。
「ふふふ。なんたって赤獅子ですものね」
と、マリアン夫人は意味深にニンマリ笑う。
赤獅子?そう言えばダニエルもそんなこと言ってたっけ。
一方侯爵はそれを聞いて少しバツの悪い顔をしていた。
2人の様子を不思議に思いながら私は2人に尋ねる。
「あの、私も人づてに侯爵様が"赤獅子"って呼ばれていたと聞いたのですが、やっぱり神獣と関係が?」
「うっ…誰だ、まだ私をそんな風に呼ぶのは…まさかペペスが…」
と、侯爵は顰めた顔で項垂れる。
ペペスって、ダニエルと同じ名字…
「あの、もしかして侯爵様はペペス男爵と呼ばれる方とお知り合いですか?」
私がそう言うと侯爵は目を見開いて「何?!」と声を上げた。
「レティアーナ嬢はペペスを知っておられるのか?やはりあいつが…ぐぬぬ……余計な事を〜!」
もしかして、あまり仲がよろしくないのかしら?
…だとしたらダニエルの事は言わない方がいいわよね。
「いえ、直接知っている訳ではなくて…ええと、出来ればそのペペス様の事を伺っても?」
顔を赤くして項垂れていた侯爵は、私がそう言うとカッと目を見開いて、怒涛の如く語り始めた。
「ペペス!あいつはなぁ、昔リヴェル騎士団で隊長をやっていたんだが、それ以前に私とは筒井筒の仲でな、小さい頃からそれはもう2人でよくバカをやったもんで、女の子にちょっかいを出したり、カエルを鞄に……いや、これはあまりレティアーナ嬢に話すべき話ではないな。とにかくまぁ、悪友だった」
カエルを鞄に…ってまるでレイと私の話を聞いているみたいだわ。
と思ったのは流石に内緒だ。
「思春期を過ぎて、成人して、お互い社交界へ出るようになっても暫くは2人でバカをやっていたんだが、あいつが結婚を機に騎士団を辞めて妻の実家のある領地に移るという話が突然出てきてなぁ」
うーむ…と侯爵は何か思い出したのか腕を組みながら項垂れる。
「仲が良かっただけにそれはそれは私はとてもショックでなぁ、そんな事認められるか!とそれはそれは暴れてなぁ。ペペスも流石にこれには困り果てて、終いにはトップルの呑み比べ勝負で決めようという事になった」
トップルの呑み比べって…流石はダニエルのお父様と言えるのかしら?
話を聞いてるとなんだかダニエルがもう1人いるみたいだし。
血は争えないってこういう事を言うのね。
依然バツが悪そうな顔の侯爵はいい淀みながら話を続ける。
「結果として、ペペスが勝ったんだが、その時私はもうべろんべろんに酔っ払ってしまってなぁ…ダールを離れるというペペスに、とうとう私は顔を真っ赤にしたまま泣くに泣いて、まるで赤子のような獅子王だったと…翌朝ペペスに言われてしまった訳だ」
あ、つまり、赤い髪の獅子ではなくて、赤子のようなという意味で『赤』獅子………
マリアン夫人はすっかり拗ねてしまった侯爵様を見ながらクスクスと楽しそうに笑っていた。
「息子や娘には内緒にしておいて下され」
と、ぽつりと侯爵は言ったのだった。
私は侯爵様とマリアン夫人と一緒に夕飯を食べながらいつも通り歓談していた。
「とうもろこしばかりで飽きませんか?」
マリアン夫人はいつも気を使ってくれる。
婦人の笑顔を見ていると、お母様もこんな風に笑ったのかしら?とつい想像してしまう。
「いいえ。ワタクシ、ダールのとうもろこし大好きですわ。王都ではスープくらいしか知りませんでしたがパンになったり、お菓子になったり、知らない料理がいっぱいで毎日楽しみですの」
平べったいとうもろこしのパンを口に頬張りながら私は夫人に言う。
今日はとうもろこしのパンの他に豆のスープとポポクの香草蒸しが振る舞われていた。
頬を押さえて美味しそうに食べる私を見て、侯爵も夫人も満足そうに笑う。
「レティアーナ嬢はすっかりダールに染まりましたな。はぁ〜明日はとうとうここを去ってしまうと思うと離し難い」
と、侯爵は肩を落とす。
「まぁ!貴方ったら。でも本当、娘がもう1人出来たみたいで楽しかったから寂しくなりますね」
マリアン夫人も落ち込む侯爵の手をぽんぽんと叩きながら嘆息する。
本当に仲のいいご夫妻だなぁと思いながら、どうしたものかと私も少し困ってしまう。
「ワタクシも母が居りませんし、父や兄と食卓を囲むことも少ないですから、こうして侯爵様ご夫妻と過ごせてとても楽しかったですわ。またウイニーに帰国する時にこちらに伺っても?」
おずおずと侯爵夫妻に尋ねると、侯爵も夫人も嬉しそうに頷いた。
「もちろんだとも。ベルンにいる間もダール近くを通るのであれば是非いつでも来て欲しい。ここはもう貴方の家も同然なのだから」
と、侯爵は上機嫌で私に言った。
夫人も侯爵に続いて、
「ええ、ええ是非また来て欲しいわ。娘はもうここにはいないし、息子もまだ寮にいるし夫と2人だけで食事をするのも飽きていたところなんですよ」
と笑いながら言った。
その言葉を聞いて侯爵様は「飽きたって…酷いな……」と少しへこんでいた。
くすくすと笑いながら私は更に2人に話しかける。
「お2人は本当に仲睦まじい夫婦ですのね。ワタクシもそういう相手を見つけたいですわ」
「そう見えるかね?まぁ、私もコレがいないと何もできなくなってしまうからなぁ」
少し照れながら侯爵が言う。
強面だけどこういう所を見ると侯爵様は意外と繊細な人なんだなと思う。
「ふふふ。なんたって赤獅子ですものね」
と、マリアン夫人は意味深にニンマリ笑う。
赤獅子?そう言えばダニエルもそんなこと言ってたっけ。
一方侯爵はそれを聞いて少しバツの悪い顔をしていた。
2人の様子を不思議に思いながら私は2人に尋ねる。
「あの、私も人づてに侯爵様が"赤獅子"って呼ばれていたと聞いたのですが、やっぱり神獣と関係が?」
「うっ…誰だ、まだ私をそんな風に呼ぶのは…まさかペペスが…」
と、侯爵は顰めた顔で項垂れる。
ペペスって、ダニエルと同じ名字…
「あの、もしかして侯爵様はペペス男爵と呼ばれる方とお知り合いですか?」
私がそう言うと侯爵は目を見開いて「何?!」と声を上げた。
「レティアーナ嬢はペペスを知っておられるのか?やはりあいつが…ぐぬぬ……余計な事を〜!」
もしかして、あまり仲がよろしくないのかしら?
…だとしたらダニエルの事は言わない方がいいわよね。
「いえ、直接知っている訳ではなくて…ええと、出来ればそのペペス様の事を伺っても?」
顔を赤くして項垂れていた侯爵は、私がそう言うとカッと目を見開いて、怒涛の如く語り始めた。
「ペペス!あいつはなぁ、昔リヴェル騎士団で隊長をやっていたんだが、それ以前に私とは筒井筒の仲でな、小さい頃からそれはもう2人でよくバカをやったもんで、女の子にちょっかいを出したり、カエルを鞄に……いや、これはあまりレティアーナ嬢に話すべき話ではないな。とにかくまぁ、悪友だった」
カエルを鞄に…ってまるでレイと私の話を聞いているみたいだわ。
と思ったのは流石に内緒だ。
「思春期を過ぎて、成人して、お互い社交界へ出るようになっても暫くは2人でバカをやっていたんだが、あいつが結婚を機に騎士団を辞めて妻の実家のある領地に移るという話が突然出てきてなぁ」
うーむ…と侯爵は何か思い出したのか腕を組みながら項垂れる。
「仲が良かっただけにそれはそれは私はとてもショックでなぁ、そんな事認められるか!とそれはそれは暴れてなぁ。ペペスも流石にこれには困り果てて、終いにはトップルの呑み比べ勝負で決めようという事になった」
トップルの呑み比べって…流石はダニエルのお父様と言えるのかしら?
話を聞いてるとなんだかダニエルがもう1人いるみたいだし。
血は争えないってこういう事を言うのね。
依然バツが悪そうな顔の侯爵はいい淀みながら話を続ける。
「結果として、ペペスが勝ったんだが、その時私はもうべろんべろんに酔っ払ってしまってなぁ…ダールを離れるというペペスに、とうとう私は顔を真っ赤にしたまま泣くに泣いて、まるで赤子のような獅子王だったと…翌朝ペペスに言われてしまった訳だ」
あ、つまり、赤い髪の獅子ではなくて、赤子のようなという意味で『赤』獅子………
マリアン夫人はすっかり拗ねてしまった侯爵様を見ながらクスクスと楽しそうに笑っていた。
「息子や娘には内緒にしておいて下され」
と、ぽつりと侯爵は言ったのだった。
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