ウイニー王国のワガママ姫

みすみ蓮華

1章 エピローグ

 翌日、ダールの城で無礼講の大きな宴が催された。


 会場には、見たこともないような大きさの絨毯が敷かれ、
 その上に、各々が持ち寄った酒や食事が雑然と並べられた。


 王城の兵士も騎士団の兵士も肩を並べ、
 ダール城で働く侍女達さえも、絨毯の上に座り込んで話に花を咲かせていた。
 豪快なリヴェル侯らしい宴に私も酔いしれた。


 食事もひと段落した所で、
 会場奥にいたテディがいつの間にか私の後ろまで来ていた。
「レティ」
 と、私に耳打ちをする。


 私はうんうん。と頷き一度自室へ戻ると、
 ヴェルを片手に会場へ戻った。
 テディもリュートを片手に会場へ戻ってきた。


 その姿に気がついた兵士たちが、私たちに注目する。
 私とテディは目を合わせると、庶民的な祝いの舞曲を演奏する。


 ヴェルとリュートの協奏は会場に心地よく響き、
 お兄様はコルネリアの手を取り、中央まで移動しクルクルと踊り出す。
 それに続くように侍女や兵士も輪になり踊り出した。


 こうして宴は明け方まで続けられたのだった。


 私とテディは演奏を終えると、楽器をしまいに会場を後にした。
「レティ、ちょっと付き合ってもらっていいですか?」
 とテディは部屋へ向かう前に、
 そのまま私の手を引っ張り、城の最上階に辺る城壁まで移動した。


 空には少しだけ欠けた月が浮かんでいた。
「少し冷えますね。これ着て下さい」
 テディはそう言って、ジャケットを私の肩に掛けた。


「え、いいよ。大丈夫。テディが風邪引くよ」
 私がジャケットを返そうとすると、
「いいからいいから」と、結局押し付けられてしまった。


 星空を眺めながら、暫く沈黙が続く。
 城下を見ると、街の至る所から篝火の揺らめきが、星の様に輝いていた。
 テディはまた、何も言わずに城壁に寄りかかり、リュートを奏で始める。


 静かな曲に耳を傾けていると、
 テディは突然演奏をやめ、躊躇いがちに口を開いた。


「レティ、僕、明日、国に帰ります」
「そう…」
 この茶番がなければ、テディは用事が済めば直ぐに帰っていた筈だった。
 結局私は、手伝いを口実に引き止めたかっただけなのかもしれない。
「せっかく友達が出来たのに…寂しくなるわ」


 城下を眺めながら、テディが掛けてくれたジャケットをギュッと両手で握りしめる。
 城下では、見回りの兵の松明が、ゆらゆらと奥に向かって移動しているのが見えた。


 テディは私ににこっと笑いかけると、ぽんぽんと私の頭を撫でた。


「僕、レティとはまた何処かで会う気がしますよ」
「そうかな?」
「ええ。これでもカンは良い方なんです」
「そっか、そうだね!また会えるよね!」


 私もにこっとテディに笑いかけると、
 テディも「絶対にまた会えます!」と笑顔で答えてくれた。


「それまでに何か約束をしませんか?」
「約束?」
 んー。とテディは宙を仰ぐ。


「そうですねぇー。例えば僕は、次に会った時はレティと一緒に色々な所に旅に行きたいです」
 私はテディの言葉に目を瞬く。
 テディ一緒に色々な場所に行けたら、
 それはとても楽しい旅になるだろうなと胸が高鳴る。
 勿論、私の身分では、そんな事出来るとは思えないけど…


「それは…とても難しい気がするけど、でも、テディと一緒なら楽しそうね。私は海の向こうへ行ってみたいわ!あと、やっぱり竜の国!」
 目を輝かせてテディを見上げると、テディも嬉しそうに、にこにこと頷く。


「いいですね。僕も海の向こうは、まだ見たことがありません。じゃあ、約束の印にコレ渡しておきます」
 そう言って、テディはズボンのポケットから懐中時計を取り出し、私の手にぎゅっと握らせた。


 ゼンマイ式の懐中時計は燻しの銀製で、蓋は蔦柄の透かし彫りになっていた。
 中を開けると、大小変わった形の歯車に、様々な宝石が散りばめられていて、
 裏返すと、ユニコーンの柄があしらわれていた。


「こ、こんな高価なもの…大事なものでしょ?」
「大事なものだから預けるんですよ。次に会った時まで大事に預かってて下さい」
 ね?と首を傾げて、私の手を両手で包む。


「で、でも私ここまで高価なものは持ってきてないわ。うぅ…」
「僕はあの帽子でいいですよ。あれはレティの大事なものでしょう?」


 確かにお気に入りの帽子ではあるけれど、
 そこまで大事かと言われたらそうでもない気がする。


「あれは別に、テディが気に入ったのならあげてもいいんだけど、私が持ってきた中で、価値があるのは…このヴェル位かしら?」
 そう言ってヴェルを渡そうとすると、テディは首を横に振った。


「流石にそれを持ち歩けません。僕、割と襲われやすいですから、それ、きっと壊しちゃいます。なので、あの帽子がいいです」


「そう…じゃあ、そうする。私も大事に預かるわ」
「はい!約束です」


 私たちは再開の約束をして、握手を交わす。
 別れの悲しみよりも、次の再開への期待が膨らみ、
 その日の夜は、久々に熟睡することができた。


 翌朝、テディの出発を見送りにクロエと侯爵、
 それにお兄様と一緒に、城門の前でさよならの挨拶を交わした。
 テディは昨日の約束で私から預かったキャスケットを被り、
 いつもの笑顔でみんなを見渡した。


「テディ殿。また来るといい。今度は最上級のトップルを用意して待っていよう」
 侯爵がテディと握手を交わす。


「それは楽しみですね。クロエさんにアベルさんも。お世話になりました」
 テディがそう言うと、2人は微妙な顔で「いえ…こちらこそ」と返事をした。


 それを見たテディは肩を竦め、
「出来れば、僕がここに居たことは、報告しないで頂けると助かるのですが?」
 と困った顔で2人に言った。


「そうは行きません。少なくとも殿下には報告させて頂きます」
 クロエがハッキリそう言うと、
 テディは更に苦笑して、「じゃあ、それでいいです」とだけ答えた。


「もしかして、テディの事知らないのって、私だけ?テディって、やっぱり貴族なんだよね?」


 みんなを見渡すと、侯爵は楽しそうに笑い、お兄様は困った顔で私を見て、
 クロエは目を伏せて、澄したまま微動だにしなかった。
 みんな教えてくれる気は無いらしい。


「そうですね…レティが僕の事を、特別に思ってくれたら教えてあげます」
 少しだけ顎に手を当て、考えたような仕草をした後、
 ニコニコといつものようにテディは言った。


 その言葉に、私以外の3人が目を瞠る。
 特に、お兄様は顔が真っ青になっていた。


 みんなの様子を不思議に思いながら、私は首を傾げる。
「特別?」
「ええ。特別です」
 テディは笑顔のまま深く頷く。
「それならもうテディは特別だわ!だって初めてのお友達ですもの!」


 ギュッとテディの手を両手で握ると、何故だか周りから苦笑が漏れた。
 そして何故だかお兄様は、ほっと溜息をついていた。


「う……そういう意味ではないです。まだ教えられませんっ」
 テディは珍しく笑顔を引きつらせて、拗ねたように私の手を振りほどいた。


「次、会う時までに、僕の言った言葉の意味考えておいてください。後、約束忘れないでくださいね?」
 テディはそれだけ言って馬に跨る。
 呆気に取られたものの、私はテディを見上げ笑顔で答える。


「え?う、うん。次あった時はちゃんと本当のお名前教えてもらうわ!私だけ知らないなんて悔しいもの!」
 私の応えに満足したのか、満面の笑みを浮かべて、テディは手綱を握りしめる。


「また会いましょう!」とだけ言って、手を振りながら、テディは城を後にした。
 山の斜面を下るテディの後ろ姿が、徐々に小さくなっていき、やがて坂道の影に消えて行った。




 それから2日後、私はダールから王都へ向けて帰路に就く。
 更に6日後、王都に着いた私を待っていたのは、帰国したお父様のお説教だった。






 数日もすれば、またワガママ姫の新しい噂で王都は賑わう。
 話題に事欠かない私の物語は、まだ序章に過ぎない。

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