ウイニー王国のワガママ姫

みすみ蓮華

ワガママ姫の正義論 2

 =====




 今日のお昼は、商店街で買ったサンドウィッチだった。
 硬めのライ麦パンに、目玉焼きとベーコン、レタスとチーズが挟まっている。


「美味しい」ともぐもぐ口いっぱいに頬張っていると、
 クロエがクスクスと笑い出した。


「あ…ごめんなさい。はしたないよね」
 と私は顔を赤くする。


「いえ、姫はいつも幸せそうにお食事をなさるので、可愛らしいなと思いまして」
 確かに。とテディもにこにこ頷く。


「だっ…って、おいしいんだもん」


 何と無く決まりが悪くなって、顔を俯ける。
 今度は少しづつ、ちびちびと口に運ぶことにした。
 居心地が悪いので話題を振ってみる。


「そういえばクロエ、私に聞きたいことって、もういいの?」
 昨日あれから、結局街に着いても、演奏直後にあんな事があったので、
 すっかり忘れていたのだった。


「ええっと…」とクロエはチラッとテディを見た。
 テディはそれに気づき、


「あ、聞かれたくないことでしたら、席を外しましょうか?」
 と立ち上がった。


「ん。いいよ別に。テディはもうお友達だし」
 いいんですか?とテディは首を傾げ、またその場に座り込んだ。
 クロエも少し戸惑っているけど、おそるおそる口を開いた。


「ええと…これは、私の興味本位でしかないのですが…」
 なんとなく、言いづらそうにクロエは目を逸らす。


「うん?」
「姫が殿下を振ったという噂は…その、本当なのでしょうか?」
「え?」
 っと言ったのはテディで、私はというと、
「んぐっ?!」
 と口に含んでいたパンを、喉に詰まらせてしまった。


「げっほげほ!な、なんでそんな事聞くの?」
 涙目になりながら、お茶でパンを流すと、咳きをしつつ、クロエに問い返す。


「すみません。騎士にあるまじきとは、判っているのですが…ただ、初めてお会いした時、殿下と普通にお話しされていたので、噂は本当なのだろうか?と純粋に疑問に思いまして」
 違う違う!と手を思い切り左右に降ってみせる。


「話すと長くなるから端折はしょるけど、まず初めに、レ……殿下との婚約の噂がどっかから出てきて、この間の舞踏会で、確証じみた噂が拍車をかけてたから、振ったように仕向けただけの話よ。ちょっと、やり過ぎたかなとは、思うけど…元々そういう関係ではないの!」


 はぁ…?とクロエは生返事をする。
 うっ…なんか信じてなさげな…
 テディはなんだか、微妙な顔をしているし。


「でも、姫と殿下は仲が宜しいんですよね?」
 とクロエの眉間にシワがよる。頭には絶対クエスチョンマークが浮かんでる筈だ。


「良いか悪いかで言ったら…良い…のかしら?喧嘩ばっかりしているけれど。でも本当にそういうのじゃなくって、兄みたいな存在に近いと思うわ。小さい頃から机を並べて、悪戯して、喧嘩して、叱られて……そういう風に殿下を見ることは無理よ」
 と私は言い放つ。


「それにね、私はお父様やお兄様みたいに、自分で自分の相手を見つけたいもの。噂に流されるなんて御免だわ」
 なるほど。とクロエはようやく納得してくれたようだった。


 一方、テディは難しい顔をしていた。
「テディ?どうかしたの?」
 常にニコニコなのに。
 さっきもだけど、何か深く考え込む癖があるのかな?


「ええと…その、殿下自身は、レティの事をどう思ってるのでしょう?」
 んん?なんでレイ?


 今度は私の頭にクエスチョンマークが浮かび上がる。
 首を傾げてテディを見る。


「いえ、噂の最初の時点で否定しなかったのでしたら、満更でも無かったのかなぁと、思ったんですが」
 ああ…と納得する。


「んーどうだろう?それはないんじゃないかなぁ?殿下は恋愛に興味ない人だし、結婚相手は決められても文句なさそうな所があるし。あー…それに私はトラブルばっかり持ってくるから、出来れば御免蒙りたいって言ってたな」


 思い出してちょっとムッとする。
 するとクロエがぶっと噴き出し、「確かに」と小さな声で呟いた。


「クロエ減給」
 むぅっと、クロエを睨みつける。


「生活できなくなるので勘弁してください」
 と悪びれもせず、クスクスとクロエは笑いながら言った。


 そのやりとりを見ていたテディは、
 いつの間にかまたにこにことこちらを見て微笑んでいた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品