ウイニー王国のワガママ姫

みすみ蓮華

Coffee Break? : 運命?

 とび色の男は、侯爵の城に着くと、
 案の定、門前で止められた。


「武器も防具も間に合っている。早々に立ち去られよ」
 と門番が言い放った。


 さてどうしたものか。と、考え込む。
 自分の身分を明かしてしまえば、簡単なような気もするが、
 異国の地でそんな事をすれば、外交問題に発展してしまうだろう。
 ましてや海軍拠点だ。


 ここは一つ、ウイニーの王子の力を借りるか。
 と、彼は、「うん」と小さく頷く。


「…そのような事を仰って、後悔なさいませんか?王都ではレイ殿下に懇意にして頂いて、こちらを紹介されたのですが」


 無数の武器の中から、チラッとウイニー王家の紋章の付いた短剣を見せる。
 以前、ウイニーの皇太子と手合わせをした際、
 兵舎からちょっと借りた(?)物だった。


 鎌かけでしかないが、どうだろうか?


 すると門番はギョッとして、
「し、しばしおまちを!」
 と言って、慌てて1人が城の中へ走って行った。


 暫くすると先ほどの兵士が戻ってきて、
「大変失礼致しました。どうぞこちらへ」
 とすんなり中に通された。


 中の客間で待っていると、侯爵が直々に現れて、
 幾つか武器を見せてくれと商談に入ることができた。
 その後は、本命の海軍演習見学や、新型の戦艦の話なども聞けて、
 有意義な時間を過ごした。


 ずいぶん長いこと居座ってしまい、そろそろ帰ろうかとした所、
 一緒に夕飯もどうかと誘われたが、
 宿をとってあるので。と、丁重に断り、城を後にした。






 宿に着くと食堂で軽く食事をし、トップルをあおる。
 客は少なかったが、一応何か面白い話は無いかと話し掛けてみると、
 王都の皇太子が従兄妹の姫君にフラれたという、
 なんとも平和な噂ぐらいで、めぼしい情報は特になかった。


 12時を過ぎた頃、流石に明日に響くと思い、二階の部屋へ上がった。
 自室に入ろうとした時、奥の部屋から、カチャリという音が聞こえた。


 そちらを見ると、ネグリジェ姿の少女が、
 フラフラとこちらに歩いて来るのがわかった。
 手にはクマのぬいぐるみが握られている。


 奥に設置してあるランプの明かりが、
 少女の蜂蜜色の金糸をキラキラと照らしていた。


 こんな時間にこのような格好でウロウロと、危なっかしい子だなぁ…
 と、首を傾げて観察していると、同じ場所をフラフラと歩き回っている。
 酔っ払っている…訳でもなさそうで、どうやら寝ぼけているのだろうと納得する。


「お嬢さん、どうかしましたか?」
 と声をかけてみる。


 済んだ青い瞳がランプの灯りでキラキラして、
 人形みたいに可愛らしい子だなぁと、
 しげしげ観察してみるが、やはり何処かボーっとしている様に見える。


 少女はピタッと彼の目の前で止まり、
 暫くすると背伸びをして、ふわりと彼の首に抱きついた。
 彼はびっくりしてどうしていいのかわからず、
 オロオロとそのままでいる他なかった。


「あ、あの…?」
 と声を掛けると、
「お兄様…」
 と虚ろな目で語りかけて来た。


 どうやら寝ぼけて、自分の兄上と勘違いしているようだと納得する。


 彼はそっと少女の背中を優しく包むと、
「こんな時間に歩き回っては危ないですよ?さぁ、お部屋に戻って休んで下さい」
 と優しく声を掛けた。


 すると少女は安心したのか、彼の首に回していた手を外し、
「おやすみなさい」と言うと、
 彼の頬にキスをして、フラフラと部屋へ帰って行った。


 取り残された彼は、
 顔を真っ赤にして少女の後髪を呆然と見つめていたが、
 彼女が部屋に入った後ようやく、
「お…………やすみ…なさい」
 と絞り出すように呟いた。

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