ウイニー王国のワガママ姫

みすみ蓮華

Coffee Break? : ???

 リン・プ・リエン王国から南にある森林地帯は、
 数年前まで、どの国も手をつけてない未開の地だった。


 そこに住まうモンスターは、通常各国でみられるモンスターと違って、
 強靭な種が多く生息している為だった。
 それでも、何とか5年の歳月をかけて人が住める位に開拓が進み、
 拠点にはそれなりに大きな街まで出来ていた。


 ーー連邦を巡り東回りで拠点に戻ると、仕入れた武器や防具を兵士に託す。


 彼はここ数年各国を回り、視察しつつ、めぼしい物をみつけては、
 買い付けるのが仕事になっていた。


「おかえりなさいませ」
 と側近が、その人物に声を掛けてくる。


「守備はどうですか?」
「上々です。諜報の者の報告では、気取られている様子もなく、相変わらずこちらの報告を鵜呑みにしているとか」
 側近の報告を聞くと、彼はクスクスと無邪気に笑った。


「兄上は私の事を、"自分に従順な幼い子供"だとでも思っているのでしょうね」


 実際、彼の見た目は年齢よりも幼く見えた。
 年齢は18歳で、ウイニーの皇太子より一つ下とあまり変わりないのだが、
 その笑顔があまりにも屈託がない為、どうしても幼く見えてしまうのだ。


 休む間も無く、会議室へ向かう。席には既に、主要な家臣達が集まっていた。


「報告をお願いします」
 と彼は席に着きながら、家臣達に報告を促す。


「開拓地の方は順調に広がっています。既に王国の領土の3分の1の大きさにまで達しています」
 うむ。と、頷くその顔は、やはり愛嬌のある笑顔だ。


「街の方もだいぶ物も人も増えていましたね。帰りに少し各地域を見てきましたが、後数年もすればリン・プ・リエンに負けないくらいの活気が出てくるでしょう」


「軍備の方はどうですか?」
 と、彼は穏やかに家臣に声をかける。


「は。軍備の開発はかなり進んでいます。しかし、やはり人手不足が否めませんね。兵士が不足しているため、訓練にも限界が近づいているかと」


 はぁ…と、家臣達から嘆息が漏れる。
 ふぅむ…と、彼も思案顔になる。


「国内からの引き抜きも、そろそろ限界ですかね。一度王都へ戻って、それとなく催促してみますが…そろそろ国外からも人を引き抜く時期かもしれませんね」
 彼がそう言うと、家臣の一人が恐る恐る口を開いた。


「国外…ですか…しかし、他国からとなると、ここから南の竜の国か、西のウイニー,ベルン連邦くらいしか…」


 東の地は不毛の大地が広がるだけで、人は住んでいない。
 住んでいたとしても、それを確認するだけの余裕は、今はまだ無いのが現状だ。
 竜の国は、山脈に囲まれている国で、他国からの侵入が容易にはいかない。
 更に、その山脈には国を守護するドラゴンが住んでいる為、
 訓練を終えた兵士でも、生きて山を越えられるかどうか怪しい。


「竜の国はリスクが高すぎますね。往復出来たとしても、犠牲者が出て兵力ダウンして帰ってくるのが関の山です。連邦は言語の壁が厚いですし…そうなると、やはりウイニーの…」


 そこまで言いかけて彼は黙ってしまった。
 ウイニーはリン・プ・リエンと表面上は同盟関係にあるが、
 過去の戦争から、決して仲がいい国とは言い難い。
 下手に刺激して反感を買えば、協力は疎か、同盟関係が崩れる可能性も否めない。


 あそこの皇太子とは、兄達よりも自分の方が仲が良いことは良いのだが…


「王都へ寄った後に、そのままウイニーに視察へ行ってきます。当面は開拓の方は置いておいて、兵士個々の強化に重点をおきましょう。勿論兵士募集、開拓民募集はそのまま引き続き行ってください」


 その後、細かい取り決めを行い、会議は終了した。


 翌日には王都へ移動し、彼は兄上と呼んだ人物と面会をした。
 彼はダメ元で、人員の要請を兄上と呼んだ人物に打診したが、
 やはりあまりいい反応は見られなかった。
 面会を終えると、その足でウイニー王国へ向かった。


 まずはフェンスに入り、使い道のなかった武器を売る。
 旅費もそれだけでは足りないだろうと、彼は情報収集がてら、
 酒場を回ることにした。


 各国を回る時は、往々にして一人だった。
 周りの国が比較的平和な所為もあるが、
 開拓地のモンスターが、通常よりも強い為、腕には自信があったし、
 旅で死ぬ位なら、自分はそれまでの器だったということだと腹を括っていた。


 家臣として開拓について来た者も、そこは重々承知していた。
 自分が死んだとしても、
 計画を破棄して兄の下で何事もなくやって行けばいい。とも言ってあった。


 宿を取ると荷物を置き、リュートを片手に町にでる。
 広場を抜け、なんとなく町の南側に、フラフラと足を運んだ。


「酒場酒場…あぁ、そこのご婦人、この辺で人がよく集まる酒場はありませんか?」
 1人の黒髪の女性が、彼の目の前を通り過ぎようとしていた。
 急いでいる様子だったが、他に人が見当たらなかったので声をかけてみた。


 赤い色の服を来た女性は、ジロリと彼を見ると、
 彼の手にリュートがあることを確認するし、目を光らせて返事をした。


「あんた、吟遊詩人かい?流しをしたいならうちに来るといい。この辺は娼館ばっかりだけど、うちは表通りに面してて、泊まりよりも『話して呑んで』が目的の人間がよく集まるから、丁度いいだろ?」
 それは丁度いい。と笑顔で頷き、彼は、何の疑問も持たずに女性について行った。


 おおむね唄は好評で、客足も多く、旅費も結構稼ぐ事が出来た。
 店主と思しき女性にも、「あんたのおかげで商売繁盛だよ」と感謝されたが、
 情報収集をと酒を頼み、客に話を聞こうとすると、
 見知らぬ男に手を握られたり、背中を摩られたりと、
 どうも背筋に悪寒が走ることが、ちょくちょくあった。


 不審に思い、周りをよく見ると、女性が店主しか見当たらないことに気がつく。
 彼は、ここはそういう店なのか…と納得し、早々に切り上げることにした。


 翌日は、なんとか手に入れた情報を元に、西の港街イオドランを目指す事にした。
 なんでも、海軍に新しい戦艦が入港したとの噂だった。


 開拓地には海はないが、
 海軍の訓練や軍備も、何かのヒントになるかもしれないと立ち寄る事にした。


 まだ少し連邦で手に入れたガラクタ…
 もとい、武器が幾らか残っていたので、
 それをダシに侯爵に近付けないだろうかと思案する。


 街に入ると、軍港といった外観とは裏腹に、
 それなりに活気付いている印象を受けた。


 フェンスに比べると、どうしても堅い雰囲気はあるが、
 それでもこの国が、とても平和な国だという様子が見て取れた。


 街角の一角では、人だかりが出来ていて、その中心から、
 不思議な音色の音楽が聞こえて来ていた。
 彼は聞いたことのない音色に、好奇心からふと足を止め、人山の奥を覗いた。


 中央では大きな帽子を被った、少年とおぼしき人物が、
 ヴァイオリンの様な形をした、小さな楽器を楽しそうに演奏していた。


 時折、帽子の間から蜂蜜色の綺麗な金糸が、チラチラと見えていたが、
 帽子で顔が隠れていて、ここからではよく見えなかった。


 奥にいるのは護衛だろうか?
 やはりここからでは、影になっていてよく見えないが、
 すらっとした、自分と同じくらいの背の高さの人物が、
 控えているのが見て取れた。


 不意に、港の方から潮風がビューっと吹いた。
 彼のとび色の髪がフワッと揺らぐ。


 ハッと意識を取り戻したかの様に、
「いけないいけない」
 と言いながら、彼は侯爵の住まう城へ歩き出した。

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