ウイニー王国のワガママ姫
ワガママに癖あり 6
アルダは王都にある【かかとの折れたハイヒール亭】の店主ヒルダの妹で、
私は幼い頃に、ある事件に巻き込まれた際、
とてもお世話になった人の1人だった。
そしてアルダはメルの亡くなった母親の友人でもあった。
「びっくりだよ全く!まさかこんな所にお嬢ちゃんが居るなんて!」
嬉しそうにアルダはぎゅうぎゅうと私の頭を大きな胸に押しつける。
「あ…はは。わ、たしも、ここ、にアル、ダ、が、居るなん、て思っ、てなかっ、たわ!」
頭を押さえつけられ、息がうまく出来ず言葉も途切れ途切れになってしまう。
その様子を周りにいた人達が呆気にとられて見ていた。
「ここじゃなんだから中に入りな。奥の部屋がいいね。あんたもそんな所に突っ立ってないで付いてきな」
唖然としていたクロエは、
「っは」っと意識を取り戻し、慌てて後をついてくる。
「ついでに泊めてもらえると嬉しいんだけど…?」
首を傾げながら、「お願い?」とばかりに両手を斜めに合わせる。
「ひ、ひめっ!」と小声で後ろから抗議の声が聞こえたけど、
聞こえないフリをした。
「あっはっは!うちで良ければいくらでも泊まっておゆき。夕飯もまだだろう?部屋に運んでやるよ。その後で色々話を聞かせておくれ」
豪快に笑うアルダの顔は、昔と幾らも変わらなかった。
=====
通された一番奥の部屋は、意外にも清潔で、
ゴテゴテした装飾もなく落ち着いた雰囲気だった。
客室というより、休憩室とか談話室といった感じがする。
「今、お茶を入れるから2人とも座って待ってな」
と、アルダが部屋の中にある壁の奥に消えて行った。
奥は給湯室になっているようだ。
小さなソファーに私が座ると、クロエは私の斜め後ろでキリッと立っていた。
一見落ち着いて見えるクロエだけど、
よく見ると緊張しているのか、肩に力が入っているのが判った。
「クロエ?ここはお城じゃないし、そんな畏まらなくても…私の隣に座ってよ。落ち着かないわ」
「しかし、私は…」
とクロエは続けようとするが、
「私も落ち着かないから座っときな」
と壁越しにアルダの声が聞こえ、渋々私の横に腰掛けた。
「アルダはね、私が6歳の時、人売りに攫われそうになって…凄くお世話になったの」
と、クロエに説明する。
「あの時はほんっとビックリしたねぇ〜。なんせ真夜中に品の良い夜着姿の小さな女の子が店に飛び込んで来て…よくよく話を聞いたら、公爵さまんとこのお嬢さんだって言うじゃないか。心臓が止まるかと思っちまったよ」
壁越しにアルダが答える。
「はー…姫は意外と苦労されているのですね」
納得しました。とクロエの緊張が幾分解けたのが判った。
「あの後も暫らくはうちの店に出入りして、最終的に公爵様にバレてそれからパッタリ顔を出さなくなって…メルもお嬢ちゃんについてったから、姉さんはとくに寂しがってたねぇ」
お茶を運びながらしみじみとアルダは語る。
アルダの姉のヒルダはメルの親代わりだった人で、
今でも時々暇さえあれば、メルは王都の店に足を運んでいる。
自分も向かいのソファーに座ると
「今じゃこんなに大きくなって…私も歳を取るはずだよ」
とアルダは大きく溜息をついた。
「私ももっとお店に顔を出せたら良かったんだけど、なかなか機会がなくて、ごめんなさい」
しゅんとしてアルダに謝る。
娼館に顔を出さなくなっても、あの店の人たちの事は忘れたことがなかった。
しかし、王宮に出入りするようになってからはレイと机を並べて勉学に励んだり、
暇さえあればお兄様と3人で過ごしたりと機会は中々訪れず、
気がつけば10年経っていた。
「バカお言いでないよ!本当ならあんたみたいな良いとこのお姫さんが、来ていい場所じゃ無いんだから。元気でやってればそれでいいのさ」
嫌な顔ひとつせず嬉しそうにアルダは嗜める。
私の立場上はわかった上でお説教をするけど、
やっぱり再会出来たことはアルダも嬉しいみたいだった。
「ところで、アルダはいつからフェンスに?」
「そうさね、そろそろ一年近くなるんじゃないかね?王都の店もお陰さんで上手く行ってて、私も昔から自分の店が欲しいと思っていたからね。姉さんと話し合ってここに2号店を構えることにしたのさ」
2号店だからハイヒールも2足。とても分かりやすいけど、
3号店が出たら3足になるのかしら?
なんてお茶を飲みながらぼーっと考えていると、
「私も聞いていいかい?」
とアルダは言う。
「嬢ちゃんはなんでフェンスにいるんだい?まさかまた実は今も寝てる。なんて事はないだろう?」
起きてるかーい?と冗談交じりに、私の顔の目の前でアルダは手を振る。
私は少しむぅっとして、
「ちゃんと起きてます!」
と言い、更にダールへ向かって旅をしている事を、簡潔に説明した。
「侯爵様に用事があって。それでちょっとお忍びで旅をしてるの」
それ以上は説明せず、お茶を口にする。アルダもそれ以上は追求する事は無かった。
「まぁ、何か訳があるんだろうけどね、公爵様やお兄さんに心配かけるような事はしちゃいけないよ。…そう言えばメルは一緒じゃないんだね?」
「うん。今回は長旅だしお忍びだから、お城の騎士さんが護衛をしてくれてるの」
そう言われ、クロエはアルダに軽く会釈をした。
へえぇぇ!とアルダは少し大袈裟に仰け反る。
「あんた、女だてらに騎士さんなのかい!すごいねぇ!この子が迷惑かけると思うけど、よろしく頼むねぇ」
アルダの言葉にまたむぅっとすると、私の反応を見たクロエがクスリと笑い、
お任せくださいとアルダに応えた。
私は幼い頃に、ある事件に巻き込まれた際、
とてもお世話になった人の1人だった。
そしてアルダはメルの亡くなった母親の友人でもあった。
「びっくりだよ全く!まさかこんな所にお嬢ちゃんが居るなんて!」
嬉しそうにアルダはぎゅうぎゅうと私の頭を大きな胸に押しつける。
「あ…はは。わ、たしも、ここ、にアル、ダ、が、居るなん、て思っ、てなかっ、たわ!」
頭を押さえつけられ、息がうまく出来ず言葉も途切れ途切れになってしまう。
その様子を周りにいた人達が呆気にとられて見ていた。
「ここじゃなんだから中に入りな。奥の部屋がいいね。あんたもそんな所に突っ立ってないで付いてきな」
唖然としていたクロエは、
「っは」っと意識を取り戻し、慌てて後をついてくる。
「ついでに泊めてもらえると嬉しいんだけど…?」
首を傾げながら、「お願い?」とばかりに両手を斜めに合わせる。
「ひ、ひめっ!」と小声で後ろから抗議の声が聞こえたけど、
聞こえないフリをした。
「あっはっは!うちで良ければいくらでも泊まっておゆき。夕飯もまだだろう?部屋に運んでやるよ。その後で色々話を聞かせておくれ」
豪快に笑うアルダの顔は、昔と幾らも変わらなかった。
=====
通された一番奥の部屋は、意外にも清潔で、
ゴテゴテした装飾もなく落ち着いた雰囲気だった。
客室というより、休憩室とか談話室といった感じがする。
「今、お茶を入れるから2人とも座って待ってな」
と、アルダが部屋の中にある壁の奥に消えて行った。
奥は給湯室になっているようだ。
小さなソファーに私が座ると、クロエは私の斜め後ろでキリッと立っていた。
一見落ち着いて見えるクロエだけど、
よく見ると緊張しているのか、肩に力が入っているのが判った。
「クロエ?ここはお城じゃないし、そんな畏まらなくても…私の隣に座ってよ。落ち着かないわ」
「しかし、私は…」
とクロエは続けようとするが、
「私も落ち着かないから座っときな」
と壁越しにアルダの声が聞こえ、渋々私の横に腰掛けた。
「アルダはね、私が6歳の時、人売りに攫われそうになって…凄くお世話になったの」
と、クロエに説明する。
「あの時はほんっとビックリしたねぇ〜。なんせ真夜中に品の良い夜着姿の小さな女の子が店に飛び込んで来て…よくよく話を聞いたら、公爵さまんとこのお嬢さんだって言うじゃないか。心臓が止まるかと思っちまったよ」
壁越しにアルダが答える。
「はー…姫は意外と苦労されているのですね」
納得しました。とクロエの緊張が幾分解けたのが判った。
「あの後も暫らくはうちの店に出入りして、最終的に公爵様にバレてそれからパッタリ顔を出さなくなって…メルもお嬢ちゃんについてったから、姉さんはとくに寂しがってたねぇ」
お茶を運びながらしみじみとアルダは語る。
アルダの姉のヒルダはメルの親代わりだった人で、
今でも時々暇さえあれば、メルは王都の店に足を運んでいる。
自分も向かいのソファーに座ると
「今じゃこんなに大きくなって…私も歳を取るはずだよ」
とアルダは大きく溜息をついた。
「私ももっとお店に顔を出せたら良かったんだけど、なかなか機会がなくて、ごめんなさい」
しゅんとしてアルダに謝る。
娼館に顔を出さなくなっても、あの店の人たちの事は忘れたことがなかった。
しかし、王宮に出入りするようになってからはレイと机を並べて勉学に励んだり、
暇さえあればお兄様と3人で過ごしたりと機会は中々訪れず、
気がつけば10年経っていた。
「バカお言いでないよ!本当ならあんたみたいな良いとこのお姫さんが、来ていい場所じゃ無いんだから。元気でやってればそれでいいのさ」
嫌な顔ひとつせず嬉しそうにアルダは嗜める。
私の立場上はわかった上でお説教をするけど、
やっぱり再会出来たことはアルダも嬉しいみたいだった。
「ところで、アルダはいつからフェンスに?」
「そうさね、そろそろ一年近くなるんじゃないかね?王都の店もお陰さんで上手く行ってて、私も昔から自分の店が欲しいと思っていたからね。姉さんと話し合ってここに2号店を構えることにしたのさ」
2号店だからハイヒールも2足。とても分かりやすいけど、
3号店が出たら3足になるのかしら?
なんてお茶を飲みながらぼーっと考えていると、
「私も聞いていいかい?」
とアルダは言う。
「嬢ちゃんはなんでフェンスにいるんだい?まさかまた実は今も寝てる。なんて事はないだろう?」
起きてるかーい?と冗談交じりに、私の顔の目の前でアルダは手を振る。
私は少しむぅっとして、
「ちゃんと起きてます!」
と言い、更にダールへ向かって旅をしている事を、簡潔に説明した。
「侯爵様に用事があって。それでちょっとお忍びで旅をしてるの」
それ以上は説明せず、お茶を口にする。アルダもそれ以上は追求する事は無かった。
「まぁ、何か訳があるんだろうけどね、公爵様やお兄さんに心配かけるような事はしちゃいけないよ。…そう言えばメルは一緒じゃないんだね?」
「うん。今回は長旅だしお忍びだから、お城の騎士さんが護衛をしてくれてるの」
そう言われ、クロエはアルダに軽く会釈をした。
へえぇぇ!とアルダは少し大袈裟に仰け反る。
「あんた、女だてらに騎士さんなのかい!すごいねぇ!この子が迷惑かけると思うけど、よろしく頼むねぇ」
アルダの言葉にまたむぅっとすると、私の反応を見たクロエがクスリと笑い、
お任せくださいとアルダに応えた。
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