ウイニー王国のワガママ姫

みすみ蓮華

ワガママ姫とイジワル殿下 1

 夕刻
 私は1人、先日の舞踏会での出来事を思い出していた。


 16歳のデビュタントから既に3度目の舞踏会で、デビュタントを含めると4度目…


 とにかく最悪な舞踏会だったことには違いないのだ。


 テーブルに並べられたオードブルは、それはそれは美味しかったし、
 出張中のお父様の代わりに普段なかなか会えないお兄様が、
 エスコート役で付いてくれて、
 そのお兄様も、普段見慣れない紺色の騎士の正装で、
 お父様に似た黒髪黒目が際立って、
 誰もがうっとりするくらいかっこ良かった。


 私は私で、いつもよりふわっとカールさせたハニーブロンドのボブヘアーが、
 ローズピンクのドレスによくあっていて、
 2人並べば、
 誰にも見劣りしないだろうってくらいビシッと決まって、
 完璧な舞踏会になるはずだった。




 --あのクサレ殿下が現れるまでは!






 =====


 陛下達へご挨拶をし、
 お父様やお兄様のお知り合いにご挨拶を終え、
 ようやくひと段落と言った所で、


「アベル!」


 と、私とよく似た亜麻色のブロンドヘアとスカイブルーの瞳を宿したその人物が、
 手を降りながら此方へ近づいてきた。


 もっとも私の髪は亜麻色というよりハチミツ色と言った方がしっくりくる程、少し濃い色をしているのだけれども。


 私の従兄妹でこの国の国王の一人息子、
 つまる所、皇太子であらせられるレイノルド・イグニス=ルワード王子は、
 私の存在などまるで見えないとでもいう様な振る舞いで、
 私の兄のアベルに声を掛けた。


「何か御用ですか?」
 と、お兄様はレイに緊張した面持ちで訪ねる。


 年齢的にはお兄様の方が上で、従兄弟という事もあって、
 私が物心つく前から2人は仲が良い。


 お兄様が17才、レイが14才の頃から皇太子付きの近衛兵をしているので、
 公式の場では、例え非番であってもレイに対しては敬語で話す事にしているらしい。
 私もそれなりの対応はするけど、お兄様ほど厳密に使い分ける気はない。


 レイはチラッと私の方を見てから、遠慮がちにヒソヒソとお兄様に耳打ちをした。
 レイの話を聞いたお兄様は、
「えっ?」と驚いたような顔をした後、
 レイと2人して、何とも微妙な顔で私の方を見た。


「なんですの?2人して。ワタクシの顔に何かついてまして?」
 少しムッとして2人を見据える。


 こういう時は昔から決まって、
 2人もしくはどちらかにとって都合が悪い事が起きている。
 というのが定番だった。


「いや、その、何と言っていいか…」
 と、しどろもどろのお兄様の言葉を遮るようにして、
「そうだ!お前、社交界デビューしたんだから、俺がお前のダンスを採点してやろう。光栄に思え」
 なんて言いながら、えっらそうにレイが私に手を差し出したので、
 その手をバシッと払いのけ、


「貴方様と妙な噂になったら、とてもとても困るので、
 て・い・ちょ・う に!お断り申し上げますわ」
 と、満面の笑みで言い放った。


 実際の所、身分的にも血縁的にも、
 婚約者の第一候補ではと、社交界デビュー後直ぐに噂になっているのだ。
 いくら政略結婚が主流と言えど、レイが相手など正直たまったものではない。


「お前ね、仮にも一国の王子に対して、平手で叩いて返すってのは、一体全体何処が丁重だって言うんだ?」
「あら?レディーを誘うのに、横柄な態度で接する王子が居るなんて…まさか…そんな!夢にも思っていませんでしたわ!レイって王子だったんですね?今知りましたわ」


 大袈裟に口を抑えて驚いて見せる。
 こうなるともう、お互いに止まらない。


「ッハ!これだから世間知らずのお姫様は困るねぇ。俺が王子で皇太子で、生まれながらにして偉いってのは、城下の民ですら知ってるのに。アベル、こいつはちゃんと教育を受けているのか?」


 見下しながら人の頭をグリグリと撫で回す。
 力は加減しているけど、若干痛い上にセットした髪がぐしゃぐしゃになる。
 が、そんな事はお構い無しにさらに反撃に出る。


「まぁ!嘘でしょ!王子である事ですら信じられない事ですのに、皇太子ですって?!一体この国は将来どうなってしまうのでしょう。不安で不安でたまりませんわ」
 信じられないと言った表情で、両頬を抑えワザと怒りをあおってみせる。
 いよいよレイは青筋を立てて、歯ぎしり交じりで言い返してきた。


「それは俺への侮辱ととって、不敬罪でとっ捕まえてもいい訳だが?」
「あら!やれるものならやって御覧なさいな!これくらいの事で不敬罪を適用する王子の器が、全国民に知れ渡るでしょうね!」


「2人ともいい加減にしなさい!公衆の面前で!もういい大人なんだから、時と場所を弁えなさい」


 最終的に喧嘩の鎮静を図るのは、小さい時から常に兄の役目だった。

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