デール帝国の不機嫌な王子
鈍感を埋める外堀
=====
扉にはめ込まれたガラスが割れてしまうのではないかと思う程に、乱暴な音を立てて飛び出して行ったアディに気後れして、ベルンハルトは呆気に取られて立ち尽くす。
「何か気に障る様な事を言ってしまったかな……」
兄に続いて騎士学科に通っていた時も、学校を退学してヌイグルミ職人を目指して修行をしていた時も、女性と付き合うどころか実の所、殆どまともに話をした事がなかったのだ。
祖父や父が持つ爵位のどれかを継承すれば頻繁に社交界に顔を出すような機会もあったのだろうが、徴兵義務がある貴族を継ぐ事は、職人になりたいベルンハルトには荷が重過ぎた。
家の義務から逃げ出して、自身の心の赴くままに今の道を選んだ。
後悔はしていないものの、こんな調子だからアディに対して何か不快な事を言ってしまったのだろうし、ギリファンにフラれてしまったのだろうと嘲笑する。
いまだ結婚もせず、家族との折り合いも悪いままのベルンハルトを見かねた祖父が、今まで無縁だった社交シーズンに連れ出して、そこで出会ったのがギリファンだった。
アディに行った通り、勝気で芯のしっかりしたギリファンをベルンハルトは一目で気に入り、付き合いを重ねる度に身分を越えて、分け隔てない彼女の清廉な気質に益々惹かれたのだ。
(乙女心は複雑だって聞くけど、ホントに難しいものなんだなぁ……)
残された茶器を片付けながら、ベルンハルトは肩を竦める。
兄からギリファンがアッサリ身を引いたと聞かされた時、やはり自分では役不足だったのかとかなり落ち込んだ。
ギリファンには守ることが出来ないからと答えたものの、結局の所、自分が彼女を最後まで信じる事が出来なかっただけの話なのだ。
最後の悪あがきで求婚したあの日、幼馴染と言った彼に手を引かれて馬車から出てきた彼女を目にした時から答えは目に見えていた。
トルドヴィンが彼女を見る目と彼が彼女の為にした事を目の当たりにすれば、嫌でも自分では敵わないと悟ってしまう。
好きと言う理由だけで隣に立てる程、安い花ではないのだと。
「それとも全力で引き止めれば、ファンは振り向いてくれていたのかな?」
ポツリと呟いて、いや、あり得ないなとまた嗤う。
彼女の困惑した顔を見て、自分の方が愛しているなんてどうやって主張出来るだろうか。
今だに引きずるこの気持ちは確かに恋だと言えるが、深い愛情と呼べる程に育っていたと胸を張れる自信もない。
「初恋は実らない、か……」
果たしてこの先誰かを好きになれるだろうか?
自分に誰かを守る事なんて出来るだろうか?
最近ではそんな事すら考えてしまう。
流し台に手を着いて、ふぅ……っと小さく溜息を吐き出していると、店のベルがチリンチリンと小さな音を立てて来客を告げる。
まだ仕事中だったと思い出して、慌てて店内に顔を出す。
「いらっしゃいませ。すみませんバタバタと。何かご入用でしたら気軽に声を掛けて下さいね」
客足が少ない上に数日店を空けた所為で、貯金が僅かながらあるとはいえ、ギリギリの生活は実はかなり切羽詰まっている。
今は悩んでいる場合じゃないと、ベルンハルトは気持ちを切り替えて、いつも通り愛嬌のある笑みを浮かべて客に挨拶をした。
======
前日の憂いを振り切る様に、ベルンハルトは今日も大通りへと足を運ぶ。
一人でも多くの客に足を運んでもらう為、午前中は朝食がてら客足の多い飲食店へ赴き、ビラやポスターを貼らせてもらったりしている。
今の切り詰めた生活で、食費を考えると外食はあまりしたくはなかったが、近所の店と仲良くなっておいて損はないし、外観は派手でも裏通りで目立たない場所にある自分の店を宣伝するにはこの方法しか今の所思いつかなかった。
こうした地道な努力を重ねて常連客になるような貴族の目にとまりさえすれば、そこそこ安定した収入は得られる様になるだろう。
いつ上客が現れてもいい様にと半ば自分に言い訳をしつつ、いつもの店でシュネーバルを幾つか買って店へと戻る。
独立してからこれが日課となってしまっているから、店の店員には顔を覚えられているし、最近では注文をする前に商品を包んで貰える程親しくなっていた。
消費した分のシュネーバルを二階のキッチンにある菓子受けに入れて、下の工房へと降りて行く。
唯一実家から持ってきた魔法で動く古いオルゴールのスイッチを入れ、店の扉にかけられている壁掛け看板を裏返し店を開ける。
幼い頃、屋敷の倉庫で見つけたオルゴールはかなり古い時代の物らしく、誰も見向きもしない様な場所で眠っていたマジックアイテムだった。
父や兄が見つけていたら、騎士の家にそんな物が在るなんて!と、真っ先に壊していたであろうオルゴールを、ベルンハルトはこっそり隠し、守ってきた。
案の定、兄が店番をしに来た時、オルゴールのスイッチを入れるベルンハルトを見て、兄は顔を顰めていたのだから、今まで隠してて良かったと苦笑する。
今日はどんなヌイグルミを作ろうかと工房の奥へ入り、モヘアと呼ばれる布の上に幾つかの型紙を置いて布とにらめっこをする。
形を作るのも好きだが、ベルンハルトは形になる前のこの段階が何よりも好きだと胸を躍らせる。
腕一つにしても微妙に違う型が幾つもあり、その一つ一つを組み合わせるとどんな子が出来るのかを想像するだけでワクワクする。
同じ型でも綿の詰め方や瞳の位置が違うだけで全く別のテディベアが出来上がる。
その小さな発見が楽しくて、売る客は居なくとも、今では自然と手が動いてしまうのだ。
黙々と手を動かしていると、昼前になってチリンチリンと客の到来を告げる合図を耳にする。
昨日に続き、今日も客が来たと顔を綻ばせ店先に出ると、昨日怒らせてしまったアディがソワソワと落ち着かない様子で俯きがちに立っていた。
「いらっしゃ……あれ、アディさん?こんにちは」
まだ怒ってるのかな?と内心不安に思いつつも、微笑んでアディに挨拶をする。
するとアディはチラリと顔を上げた後、ベルンハルトを見るなり目を見開いて、真っ赤になって顔を背けた。
『こん、にちは。あの、き、昨日はごめんなさい。ええと、その……チョットイライラしてて、その、や、八つ当たりしちゃったの。……ハル、怒ってる?』
『いいえ。まさか!良かった。僕はあまり気が利かない方なので何か失礼な事をしてしまったのかと……もしかしてそれを言うためにいらしたんですか?』
そこまで気にする事でも無かったのにと驚いていると、アディは何か迷った挙句コクリと小さく頷いた。
『本当にごめんなさい!ハルは何も悪く無いのに。ヌイグルミを貰って……一人で舞い上がって……』
『ヌイグルミ?すみません後半部分がうまく聞き取れなかったので、もう一度言ってもらえますか?』
『な、なんでもないの!とにかく謝りたくて!そ、それで、その……あ、後、ヌイグルミのお礼……そう、うん。お礼もしたくって!』
緊張しているのか、モゴモゴと言いよどんだと思えば、アディは耳まで真っ赤にして慌てた様子で捲し立てる。
何故そこまで焦っているのかは判らなかったが、自分以上に気にしていたんだなとベルンハルトは苦笑を漏らした。
『そんなに気にしないで下さい。お礼も入りませんよ。大事にして貰えるだけで十分ですから』
『そんな訳にはいかないわ。ツィシーが……あ、メルの妹さんがあのヌイグルミは凄くいい物だって言ってたもの!だ、だ、だっ、だからっ!お手伝いをしようと思って!今、やりたい事も思い浮かばないし、客引きとかお店番とか、得意だから!……め、迷惑?』
恐る恐る上目遣いで尋ねられ、ベルンハルトはパチパチと瞬きをする。
彼女は幼い面立ちながら容姿は整っているし、以前見た宴会での踊りを思い出せば、客引きが得意なのは嘘ではないだろうなぁと納得する。
しかしそんな目算の上で作った物では無かったし、給与を払ってあげられる程余裕のある状態とも言えず、困り顔で眉尻を下げた。
『迷惑なんて……僕の店は見ての通り、裏通りに面していてなかなかお客さんが来ないので願ったり叶ったりではあるんですが……恥ずかしながら自分の生活で手一杯でお給料を払って差し上げる事が出来る状態じゃないんですよ』
『お金なんて要らないわ!踊っていればお客さんがくれるもの!私のやりたい事が見つかるまでの間だけでもお手伝いさせて。このままじゃ気が済まないもの!』
どうやら彼女は言い出したら聞かない性格らしく、一歩も引く様子はなかった。
真剣な面持ちで見上げてくるアディを見下ろしながら、ベルンハルトは口を歪める。
(彼女、メルさんの想い人なのに、良いのかなぁ……)
個人経営で他に店員もいないので、客や近所の人からあらぬ誤解を受けてしまう可能性があるのではないかと考え込む。
自分の事はいいにしても、そうなったらアディやメルに迷惑がかかるに違いないと、"客引き"という蜜の様な言葉を天秤に掛けて項垂れた。
『うーん、しかしですねぇ……』
迷いながら慎重に言葉を選んでいると、業を煮やしたアディが徐にカウンターに置いておいたビラをガッチリと掴んで扉の前まで駆け出す。
『大丈夫!ちゃんとお客さん連れてくるから!物は試しって言うでしょ?待ってて!!』
『えっ!?あ……』
待って下さい!と言う間もなく、アディは外へと飛び出して行く。
(なんていうか……嵐みたいな女の子だなぁ)
裏路地を元気良く掛けて行く足音を聞きながら、ベルンハルトは諦めの苦笑を浮かべて溜息をついた。
扉にはめ込まれたガラスが割れてしまうのではないかと思う程に、乱暴な音を立てて飛び出して行ったアディに気後れして、ベルンハルトは呆気に取られて立ち尽くす。
「何か気に障る様な事を言ってしまったかな……」
兄に続いて騎士学科に通っていた時も、学校を退学してヌイグルミ職人を目指して修行をしていた時も、女性と付き合うどころか実の所、殆どまともに話をした事がなかったのだ。
祖父や父が持つ爵位のどれかを継承すれば頻繁に社交界に顔を出すような機会もあったのだろうが、徴兵義務がある貴族を継ぐ事は、職人になりたいベルンハルトには荷が重過ぎた。
家の義務から逃げ出して、自身の心の赴くままに今の道を選んだ。
後悔はしていないものの、こんな調子だからアディに対して何か不快な事を言ってしまったのだろうし、ギリファンにフラれてしまったのだろうと嘲笑する。
いまだ結婚もせず、家族との折り合いも悪いままのベルンハルトを見かねた祖父が、今まで無縁だった社交シーズンに連れ出して、そこで出会ったのがギリファンだった。
アディに行った通り、勝気で芯のしっかりしたギリファンをベルンハルトは一目で気に入り、付き合いを重ねる度に身分を越えて、分け隔てない彼女の清廉な気質に益々惹かれたのだ。
(乙女心は複雑だって聞くけど、ホントに難しいものなんだなぁ……)
残された茶器を片付けながら、ベルンハルトは肩を竦める。
兄からギリファンがアッサリ身を引いたと聞かされた時、やはり自分では役不足だったのかとかなり落ち込んだ。
ギリファンには守ることが出来ないからと答えたものの、結局の所、自分が彼女を最後まで信じる事が出来なかっただけの話なのだ。
最後の悪あがきで求婚したあの日、幼馴染と言った彼に手を引かれて馬車から出てきた彼女を目にした時から答えは目に見えていた。
トルドヴィンが彼女を見る目と彼が彼女の為にした事を目の当たりにすれば、嫌でも自分では敵わないと悟ってしまう。
好きと言う理由だけで隣に立てる程、安い花ではないのだと。
「それとも全力で引き止めれば、ファンは振り向いてくれていたのかな?」
ポツリと呟いて、いや、あり得ないなとまた嗤う。
彼女の困惑した顔を見て、自分の方が愛しているなんてどうやって主張出来るだろうか。
今だに引きずるこの気持ちは確かに恋だと言えるが、深い愛情と呼べる程に育っていたと胸を張れる自信もない。
「初恋は実らない、か……」
果たしてこの先誰かを好きになれるだろうか?
自分に誰かを守る事なんて出来るだろうか?
最近ではそんな事すら考えてしまう。
流し台に手を着いて、ふぅ……っと小さく溜息を吐き出していると、店のベルがチリンチリンと小さな音を立てて来客を告げる。
まだ仕事中だったと思い出して、慌てて店内に顔を出す。
「いらっしゃいませ。すみませんバタバタと。何かご入用でしたら気軽に声を掛けて下さいね」
客足が少ない上に数日店を空けた所為で、貯金が僅かながらあるとはいえ、ギリギリの生活は実はかなり切羽詰まっている。
今は悩んでいる場合じゃないと、ベルンハルトは気持ちを切り替えて、いつも通り愛嬌のある笑みを浮かべて客に挨拶をした。
======
前日の憂いを振り切る様に、ベルンハルトは今日も大通りへと足を運ぶ。
一人でも多くの客に足を運んでもらう為、午前中は朝食がてら客足の多い飲食店へ赴き、ビラやポスターを貼らせてもらったりしている。
今の切り詰めた生活で、食費を考えると外食はあまりしたくはなかったが、近所の店と仲良くなっておいて損はないし、外観は派手でも裏通りで目立たない場所にある自分の店を宣伝するにはこの方法しか今の所思いつかなかった。
こうした地道な努力を重ねて常連客になるような貴族の目にとまりさえすれば、そこそこ安定した収入は得られる様になるだろう。
いつ上客が現れてもいい様にと半ば自分に言い訳をしつつ、いつもの店でシュネーバルを幾つか買って店へと戻る。
独立してからこれが日課となってしまっているから、店の店員には顔を覚えられているし、最近では注文をする前に商品を包んで貰える程親しくなっていた。
消費した分のシュネーバルを二階のキッチンにある菓子受けに入れて、下の工房へと降りて行く。
唯一実家から持ってきた魔法で動く古いオルゴールのスイッチを入れ、店の扉にかけられている壁掛け看板を裏返し店を開ける。
幼い頃、屋敷の倉庫で見つけたオルゴールはかなり古い時代の物らしく、誰も見向きもしない様な場所で眠っていたマジックアイテムだった。
父や兄が見つけていたら、騎士の家にそんな物が在るなんて!と、真っ先に壊していたであろうオルゴールを、ベルンハルトはこっそり隠し、守ってきた。
案の定、兄が店番をしに来た時、オルゴールのスイッチを入れるベルンハルトを見て、兄は顔を顰めていたのだから、今まで隠してて良かったと苦笑する。
今日はどんなヌイグルミを作ろうかと工房の奥へ入り、モヘアと呼ばれる布の上に幾つかの型紙を置いて布とにらめっこをする。
形を作るのも好きだが、ベルンハルトは形になる前のこの段階が何よりも好きだと胸を躍らせる。
腕一つにしても微妙に違う型が幾つもあり、その一つ一つを組み合わせるとどんな子が出来るのかを想像するだけでワクワクする。
同じ型でも綿の詰め方や瞳の位置が違うだけで全く別のテディベアが出来上がる。
その小さな発見が楽しくて、売る客は居なくとも、今では自然と手が動いてしまうのだ。
黙々と手を動かしていると、昼前になってチリンチリンと客の到来を告げる合図を耳にする。
昨日に続き、今日も客が来たと顔を綻ばせ店先に出ると、昨日怒らせてしまったアディがソワソワと落ち着かない様子で俯きがちに立っていた。
「いらっしゃ……あれ、アディさん?こんにちは」
まだ怒ってるのかな?と内心不安に思いつつも、微笑んでアディに挨拶をする。
するとアディはチラリと顔を上げた後、ベルンハルトを見るなり目を見開いて、真っ赤になって顔を背けた。
『こん、にちは。あの、き、昨日はごめんなさい。ええと、その……チョットイライラしてて、その、や、八つ当たりしちゃったの。……ハル、怒ってる?』
『いいえ。まさか!良かった。僕はあまり気が利かない方なので何か失礼な事をしてしまったのかと……もしかしてそれを言うためにいらしたんですか?』
そこまで気にする事でも無かったのにと驚いていると、アディは何か迷った挙句コクリと小さく頷いた。
『本当にごめんなさい!ハルは何も悪く無いのに。ヌイグルミを貰って……一人で舞い上がって……』
『ヌイグルミ?すみません後半部分がうまく聞き取れなかったので、もう一度言ってもらえますか?』
『な、なんでもないの!とにかく謝りたくて!そ、それで、その……あ、後、ヌイグルミのお礼……そう、うん。お礼もしたくって!』
緊張しているのか、モゴモゴと言いよどんだと思えば、アディは耳まで真っ赤にして慌てた様子で捲し立てる。
何故そこまで焦っているのかは判らなかったが、自分以上に気にしていたんだなとベルンハルトは苦笑を漏らした。
『そんなに気にしないで下さい。お礼も入りませんよ。大事にして貰えるだけで十分ですから』
『そんな訳にはいかないわ。ツィシーが……あ、メルの妹さんがあのヌイグルミは凄くいい物だって言ってたもの!だ、だ、だっ、だからっ!お手伝いをしようと思って!今、やりたい事も思い浮かばないし、客引きとかお店番とか、得意だから!……め、迷惑?』
恐る恐る上目遣いで尋ねられ、ベルンハルトはパチパチと瞬きをする。
彼女は幼い面立ちながら容姿は整っているし、以前見た宴会での踊りを思い出せば、客引きが得意なのは嘘ではないだろうなぁと納得する。
しかしそんな目算の上で作った物では無かったし、給与を払ってあげられる程余裕のある状態とも言えず、困り顔で眉尻を下げた。
『迷惑なんて……僕の店は見ての通り、裏通りに面していてなかなかお客さんが来ないので願ったり叶ったりではあるんですが……恥ずかしながら自分の生活で手一杯でお給料を払って差し上げる事が出来る状態じゃないんですよ』
『お金なんて要らないわ!踊っていればお客さんがくれるもの!私のやりたい事が見つかるまでの間だけでもお手伝いさせて。このままじゃ気が済まないもの!』
どうやら彼女は言い出したら聞かない性格らしく、一歩も引く様子はなかった。
真剣な面持ちで見上げてくるアディを見下ろしながら、ベルンハルトは口を歪める。
(彼女、メルさんの想い人なのに、良いのかなぁ……)
個人経営で他に店員もいないので、客や近所の人からあらぬ誤解を受けてしまう可能性があるのではないかと考え込む。
自分の事はいいにしても、そうなったらアディやメルに迷惑がかかるに違いないと、"客引き"という蜜の様な言葉を天秤に掛けて項垂れた。
『うーん、しかしですねぇ……』
迷いながら慎重に言葉を選んでいると、業を煮やしたアディが徐にカウンターに置いておいたビラをガッチリと掴んで扉の前まで駆け出す。
『大丈夫!ちゃんとお客さん連れてくるから!物は試しって言うでしょ?待ってて!!』
『えっ!?あ……』
待って下さい!と言う間もなく、アディは外へと飛び出して行く。
(なんていうか……嵐みたいな女の子だなぁ)
裏路地を元気良く掛けて行く足音を聞きながら、ベルンハルトは諦めの苦笑を浮かべて溜息をついた。
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