デール帝国の不機嫌な王子

みすみ蓮華

ご機嫌なご主人の意味深な予言

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「…俺は今18、だよな?」
 トルドヴィンが見事にギリファンにフラれた翌日、ライマールはデール城内にある自身の研究室で、唐突にそんな問いを呟いた。


 もう暫くすれば父親になるからなのだろうか?確かに10代で子持ちになるというのは、それなりにプレッシャーがあるのかもしれない。が、今更年齢を確認したところでその事実は逃げようが無いだろうと、メルは主人の心理を自分なりに解釈して頷いて肯定した。


「えぇ、間違いなく18歳でございますよ?どんなにエイラ様と、もう暫く二人で過ごしたいと少々後悔なさったところで、半月もすれば生まれてきてしまいますし、その分生活の中心はお生まれになった王子様か姫様かに移譲しますから、今までの様にご自分の都合だけで動かれてばかりではいられなくなりますよ」


 えっへんと胸をそらしてメルがくどくどと説教すれば、扉近くに立っていたアダルベルトもウンウンと頷いて同意する。
 ライマールは予期していなかった蛇足に面を喰らったあと、いつもの様にムッとして「違う」と答えた。


「そんな事俺は思っていない。子供はまだこれからもっと・・・増やす。俺が今重要視しているのはそこじゃない。お前達は今25だな?」
「ボクまだ誕生日きてないんで正確には24ですが…え?まさかその歳でもう呆けたとか言いませんよね?というか、もっと・・・増やすって、一体何人作る気でいるんですか?そりゃぁご兄弟がいらした方が何かと安心でしょうが」
「確認しているだけだ。歳を忘れたわけではない。……最低でも1ダースは欲しい」


 微かに頬を染めながら、後半呟いた一言は、おそらく子供の数なのだろう。予想外に高い目標に、メルもアダルベルトも目を丸くする。


「最低でもって…12人も子供を産んだらエイラ様、途中で死んでしまいますよ!前々から思ってましたが、ライマール様の愛は重いです。重すぎます!」
「…死なれるのは困る。だが、子供は沢山欲しい」
「そういう事は夫婦でよく話し合って決めるものですぞ。しかし、歳など確認して何か気になる事でも?」


 呆れがちにアダルベルトが言えば、ライマールは「対した事では無い」と答えて、なにか考え込む仕草をした。
 アダルベルトは訝しげに首を傾げたが、聞き覚えがあり、且つ、聞きたくない台詞に、メルは顔色を瞬時に変える。


 ライマールの「対した事では無い」は、十中八九周りにとって「対した事大有り」なのだ。
 付き合いが長いだけに、メルはろくでもない何か・・を恐れ、悲鳴を上げる。


「何なんですか!?それ絶対対した事ある事なんですよね!?そういう時は絶対なんか起こるんです!!主に良く無い事が!!お願いですから、そういう思わせぶりな事言わないで下さい!!」
「お前は教えたら教えたで顔を青くするだろうが。そう悪い事では無い。…いや、悪い事……なのか?」


 首を捻りながら真剣に悩むライマールの言葉に、メルに続き、アダルベルトも無言で頬をピクリと引きつらせる。
 前年の竜の国の事件以来、アダルベルトはライマールに付き従うようになり、時折デール各地で発生する大量に湧くレイス討伐に参戦しては、ライマールの未来を見る力の的確さを改めて思い知ったのだ。
 メルほどでは無いが、人並外れたその力を空恐ろしいものがあると感じている。


 ライマールの力を知ってなお、恐怖を感じていないのはおそらくあの女王陛下だけだろう。
 もしかしたらその所為もあって、ライマールはエイラを盲信的に溺愛するのかもしれない。


 そんな分析をアダルベルトがしている中、ライマールはいつの間にか瞳を金色に染め、何かを確認する様に瞳を巡らせている。
 一体何が起こるというのかと、メルがビクビクと身を縮めていれば、ライマールはまたすぐに眼の色を戻して顔を上げる。


「ふむ…もう過ぎてしまったのか?視えないな。ドラゴ、ギリファンとクーべの様子を見に行ってこい」
「っは?用向きではなく様子を、ですか?」
「そうだ。それで時期が来たかどうかが判る」


 何のだ?と、メルとアダルベルトは顔を見合わせて首を捻る。
 しっしと手を振るライマールに促されて、アダルベルトは渋々部屋を出て両副団長の様子を見に部屋を出ていった。
 アダルベルトの背を見送っていると、メルはハッと何かに気がついてライマールに振り返った。


「ま、まさか義兄さんと姉さんの身に何か起こるんですか!?大怪我とか、事件に巻き込まれるとか…しっ、死っ……」
 唾を飛ばしながら真っ青で詰め寄るメルを、鬱陶しそうにライマールは振り払う。
 眉間に寄ったシワがその不機嫌さを物語っていた。


「悪い事は起きないと言った。…多分な。少なくともお前が想像している様な災難ではないし、未来などお前達がどうするかによって変わっていく。言うなれば転換期だ」
「転換期?えーっと、それってもしかして、とうとう二人は結婚するとかしないとかそういう話ですか!?」


 青くしていた顔を一転させて、メルはぱぁっと嬉しそうに目を輝かせる。
 何がそんなに嬉しいんだ?とライマールは苦笑して、少し困った様に首を傾げた。
「その辺はクーべ次第だと思うが、それも転換期の一過程に過ぎない。それよりもっと気にするべき事がある」


 気にするべき事?と、メルは不思議そうに首を捻ったが、ライマールはそれ以上は語らず、机の上の書類に目を通し始める。
 暫くして、アダルベルトが戻ってくれば、またライマールはそちらへと顔を向ける。
 戻ってきたアダルベルトは少々困惑した様子で、ライマールに二人の様子を報告をした。


「どうだった?」
「はぁ、ケルスガー副団長は別段変わった様子は見られませんでしたが、クーべ副団長は少々様子がおかしかったですな。仕事に身が入っていないというか何というか…」
「えっ?昨日会った時はお元気そうでしたが。何かあったんですかね?義兄さんにしては珍しいです」


 首を捻る2人を見ながら、何故かライマールはニヤリと口角を上げて「そうか」と楽しそうに頷く。
 ライマールのなんとなく嫌らしい笑みに、メルとアダルベルトは一歩後退り、顔を顰める。
 未だかつて、ライマールのこんな反応を見た事は長い付き合いのメルですらなかった。
 こうなると主人が何を考えているのかますます判らなくなり、メルとアダルベルトはなんとなく身を寄せ合い、ライマールの次の行動に警戒した。


 ライマールは二人のその反応を別段気にする様子もなく、念の為にと、アダルベルトに確認を取る。
「仕事に身が入っていないクーべは傍目で見て落ち込んでいる様に見えたか?それともただ疲れている様子だったか?」
「そう、ですな。言われてみれば何処か落ち込んでいる様な印象を受けましたぞ」
「ふむ。間違いないな?ならやはり転換期だな。あぁ、メル、ヤツと話す機会があったら当分ヤツを"義兄さん"と呼ぶのはよしておいた方が良い。ガランにもそう言っておけ」
「っは?な、なんでですか?…まぁ、確かに仕事場でそう呼ぶのは相応しく無いかもしれませんね」


 皇帝やクロドゥルフが居る様な公式な場では、なるべく気をつけているつもりではあったが、今までライマールは人の呼び名に対して寛容だった為、普段はあまり気にしていなかった。現にギリファンですらライマールを愛称で呼び、ライマールもそれを受け入れている。
 余談であるが、聞く話によると竜の国の国民達の間ではその愛称が広まり、今ではすっかり"ライム様"で通っているらしい。


 しかし、メルはあくまで家臣の一人なのだから、その辺はもう少ししっかりしておいた方が良いのだろうと頷いた。


「そういう事ではなくだな。ヤツを今"義兄さん"と呼ぶのは酷だと……いや、呼ばない方が酷なのか?ふむ…極力近寄らない様にしておけ。ギリファンにフラれたばかりでおそらく気が立っている」
「ああ、なんだ。そういう意味でしたか。姉さんにフラれたならそれは仕方ないですね〜………って、えええぇぇぇぇぇ!?」


 なんでも無いことの様にさらりとライマールが警告すれば、予想だにしない衝撃の事実にメルは廊下にまで響きそうな大声で驚愕し、アダルベルトも目を見開いてライマールを凝視した。

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