デール帝国の不機嫌な王子
それぞれの休日 2 @トルドヴィン
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建物の中へ入ると、槍を模した長い木の棒を手にした、若い男達が組手を行っていた。
その中でただ一人、ポニーテールを振り乱しながら槍を難なく操る女性の姿があった。
軽装の防具を身につけて、一心不乱に槍を操るその姿は、普段肩で息をしながらトルドヴィンに向かって錫杖を突きつけて来る女性と、直ぐには一致しなかった。
凛々しく真剣な顔つきは、確かにギリファンなのだが、額から大量の汗を流し、俊敏に動き回る様は、今まで見た事も無い程神々しく、活き活きと輝いていた。
騎士として訓練を積み、副団長として兵士達の上に立つトルドヴィンには、ギリファンの実力が相当なものである事は直ぐにわかった。
呆然としてギリファンを見つめるトルドヴィンを見て、メルが満足そうにうんうんと頷く。
「どうです?面白いもの見れましたか?」
メルが少し自慢げに話し掛けると、トルドヴィンはどこか夢見心地で曖昧に頷いて返事を返した。
「凄いね…ファーはいつから道場に?」
「んーっと、確か中等部からだった様な…ボクは小さかったのであんまり憶えてないですが、それ位の時期だった様な気がしますよ」
「そんなに前から!?……知らなかったな…」
もう30年近くギリファンの側に居るというのに、今の今までギリファンが道場に通っていた事も、槍の使い手だったという事実も、全くもって知らなかった。
トルドヴィンはその事に軽くショックを覚え、硬直する。
これでも長い事片想いをしてきたし、物心つく前からギリファンの事をよく理解しているつもりだった。
にもかかわらず、こんな大きな事実に今の今まで全く気付かなかったなんて、自分はどれだけ間抜けなのかとかなりヘコんでしまう。
しかしギリファンが巧みに技を繰り出す姿は鮮やかで、武人としての血が騒ぐのか、すぐ真剣にその姿を目で追っていた。
打ち込みがひと段落した所で、入り口で呆然と立っているトルドヴィンとメルに漸くギリファンが気がつく。
ギリファンは2人の姿に気がついた途端、顔色を青くし、口をパクパクとして大袈裟に後ずさった。
トルドヴィンは気にする様子もなく、ニコリと微笑んでギリファンに手を振れば、今度は真っ赤になって踵を返し、師範と思われる老人に二言三言、言葉交わすと、怒った様子でこちらの方に向かってきた。
「何故お前達がここにいる!メル!何故こいつをここに連れてきた!!」
「だって義兄さんが姉さんに用事があるからって。わざわざ家まできてくれたのに追い返すのは忍びないじゃないですか」
「だ・れ・が!義兄さんだっ!!こんな奴、石でも投げて追い返せばいいだろう!!もしくはザックに噛ませればいいんだっ!」
「酷いですねぇファーは。折角楽しい休日を一緒に過ごそうと思って誘いに来たのに。しかし、朝から槍を振り回す女性だったとは…通りで今だに独身な訳ですよ」
「やかましい!!余計なお世話だ!!何を企んでいるのか知らんが、生憎だったな。私はこの後も色々と予定が詰まってるんだ。下らん用ならとっとと帰れ」
キリキリと睨みつけるギリファンの視線を浴びながら、またやってしまったとトルドヴィンは笑顔を貼り付けたまま、自分の悪癖にウンザリする。
直ぐ横からはメルの批難を訴える視線も感じ、どうしたものかと頭を掻く。
「あー…まぁ、そう言わずに。槍を持とうが杖を持とうが私は構わないんで。因みにどんな予定なんだい?買い物ならば荷物持ち位は手伝うよ?」
「お、お前に関係、無い…だろう!?今更取り繕ったって何も出ないぞ。いいから帰れ!他の者にも迷惑だ!」
真っ赤になりながら口ごもるギリファンを見て、トルドヴィンもメルも特に予定は無いんだなと思い至る。
しかし、ここで帰ってしまえば折角休日を合わせたのにまるで意味がないと、トルドヴィンは食い下がる事にした。
「ふむ。確かに私には関係ないね。では、私は私の好きにさせてもらおう。今日は一日中ファーの後をついて回ろう。君の休日って凄く興味があるしね」
ニコニコとトルドヴィンが宣言すれば、ギリファンは顔を真っ青にする。
赤くなったり青くなったり毎度見ていて飽きないなと、トルドヴィンが感心していれば、ギリファンは一目散に道場の奥へと逃げて行った。
唐突に逃げられ、予期していなかったトルドヴィンとメルはその背をポカンと眺めていた。
「…そう来るとは思わなかったなぁ。逃げられたら追いかけたいとそうは思わないかい?」
「……いえ、流石に付き合ってられません。これ以上姉さんの顰蹙を買うのも面倒なので、後は好きにして下さい」
「ハハハ。そうか。まぁ、助かったよ。ありがとうね。メル、良い休日を」
外へ出て行こうとするメルに手を振れば、メルもニッコリ笑って、「義兄さんも」と挨拶を返す。
トルドヴィンはメルが居なくなると、早速奥へと逃げてしまったギリファンの後を悠々と楽しそうに追ったのだった。
建物の中へ入ると、槍を模した長い木の棒を手にした、若い男達が組手を行っていた。
その中でただ一人、ポニーテールを振り乱しながら槍を難なく操る女性の姿があった。
軽装の防具を身につけて、一心不乱に槍を操るその姿は、普段肩で息をしながらトルドヴィンに向かって錫杖を突きつけて来る女性と、直ぐには一致しなかった。
凛々しく真剣な顔つきは、確かにギリファンなのだが、額から大量の汗を流し、俊敏に動き回る様は、今まで見た事も無い程神々しく、活き活きと輝いていた。
騎士として訓練を積み、副団長として兵士達の上に立つトルドヴィンには、ギリファンの実力が相当なものである事は直ぐにわかった。
呆然としてギリファンを見つめるトルドヴィンを見て、メルが満足そうにうんうんと頷く。
「どうです?面白いもの見れましたか?」
メルが少し自慢げに話し掛けると、トルドヴィンはどこか夢見心地で曖昧に頷いて返事を返した。
「凄いね…ファーはいつから道場に?」
「んーっと、確か中等部からだった様な…ボクは小さかったのであんまり憶えてないですが、それ位の時期だった様な気がしますよ」
「そんなに前から!?……知らなかったな…」
もう30年近くギリファンの側に居るというのに、今の今までギリファンが道場に通っていた事も、槍の使い手だったという事実も、全くもって知らなかった。
トルドヴィンはその事に軽くショックを覚え、硬直する。
これでも長い事片想いをしてきたし、物心つく前からギリファンの事をよく理解しているつもりだった。
にもかかわらず、こんな大きな事実に今の今まで全く気付かなかったなんて、自分はどれだけ間抜けなのかとかなりヘコんでしまう。
しかしギリファンが巧みに技を繰り出す姿は鮮やかで、武人としての血が騒ぐのか、すぐ真剣にその姿を目で追っていた。
打ち込みがひと段落した所で、入り口で呆然と立っているトルドヴィンとメルに漸くギリファンが気がつく。
ギリファンは2人の姿に気がついた途端、顔色を青くし、口をパクパクとして大袈裟に後ずさった。
トルドヴィンは気にする様子もなく、ニコリと微笑んでギリファンに手を振れば、今度は真っ赤になって踵を返し、師範と思われる老人に二言三言、言葉交わすと、怒った様子でこちらの方に向かってきた。
「何故お前達がここにいる!メル!何故こいつをここに連れてきた!!」
「だって義兄さんが姉さんに用事があるからって。わざわざ家まできてくれたのに追い返すのは忍びないじゃないですか」
「だ・れ・が!義兄さんだっ!!こんな奴、石でも投げて追い返せばいいだろう!!もしくはザックに噛ませればいいんだっ!」
「酷いですねぇファーは。折角楽しい休日を一緒に過ごそうと思って誘いに来たのに。しかし、朝から槍を振り回す女性だったとは…通りで今だに独身な訳ですよ」
「やかましい!!余計なお世話だ!!何を企んでいるのか知らんが、生憎だったな。私はこの後も色々と予定が詰まってるんだ。下らん用ならとっとと帰れ」
キリキリと睨みつけるギリファンの視線を浴びながら、またやってしまったとトルドヴィンは笑顔を貼り付けたまま、自分の悪癖にウンザリする。
直ぐ横からはメルの批難を訴える視線も感じ、どうしたものかと頭を掻く。
「あー…まぁ、そう言わずに。槍を持とうが杖を持とうが私は構わないんで。因みにどんな予定なんだい?買い物ならば荷物持ち位は手伝うよ?」
「お、お前に関係、無い…だろう!?今更取り繕ったって何も出ないぞ。いいから帰れ!他の者にも迷惑だ!」
真っ赤になりながら口ごもるギリファンを見て、トルドヴィンもメルも特に予定は無いんだなと思い至る。
しかし、ここで帰ってしまえば折角休日を合わせたのにまるで意味がないと、トルドヴィンは食い下がる事にした。
「ふむ。確かに私には関係ないね。では、私は私の好きにさせてもらおう。今日は一日中ファーの後をついて回ろう。君の休日って凄く興味があるしね」
ニコニコとトルドヴィンが宣言すれば、ギリファンは顔を真っ青にする。
赤くなったり青くなったり毎度見ていて飽きないなと、トルドヴィンが感心していれば、ギリファンは一目散に道場の奥へと逃げて行った。
唐突に逃げられ、予期していなかったトルドヴィンとメルはその背をポカンと眺めていた。
「…そう来るとは思わなかったなぁ。逃げられたら追いかけたいとそうは思わないかい?」
「……いえ、流石に付き合ってられません。これ以上姉さんの顰蹙を買うのも面倒なので、後は好きにして下さい」
「ハハハ。そうか。まぁ、助かったよ。ありがとうね。メル、良い休日を」
外へ出て行こうとするメルに手を振れば、メルもニッコリ笑って、「義兄さんも」と挨拶を返す。
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