デール帝国の不機嫌な王子
運命の歯車 1
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夕餉はそのままライマールと共に過ごし、翌朝は熱もすっかりなくなり、問題なく朝餉に出席することができた。
給仕が黙々と食事を運ぶ中、イルミナがエイラやライマールの体調を案じる言葉を交わし、皇帝とクロドゥルフはギクシャクとその言葉に同意する。
普通の会話であるはずなのに、団欒と呼ぶには少々無理のある雰囲気が室内に漂う。
卓上に美しく盛られたパンの山が小高い丘へと姿を変える頃には、誰もがその口を食事へと集中させていた。
いつもよりも壺の中のスープの減りが早いことを訝しむ若い給仕の様子に、エイラは思わず苦笑を漏らす。
隣に座るライマールをちらりと見れば、緊張した面持ちで黙々とスクランブルエッグばかりを口へ運んでいた。
卵用に様々な調味料が目の前に用意されていたが、その存在はライマールの視界からは遮断されているようだった。
エイラはそっと息を吐き出すと、とても小さな声で、そっとライマールに声を掛けた。
「ライマール様」
「ああ……」
エイラに促され、ライマールは曖昧に返事を返すと、カタリとフォークを皿の上に添えた。
「ち、父上……」
「な、なんだ?」
少々裏返った声でライマールが皇帝を呼べば、皇帝はビクリと体を反応させ、ライマールへと注目する。
顔を上げれば、クロドゥルフやイルミナ、何故か給仕達までライマールに注目していた。
もっとも、給仕達は滅多に話し掛けてくることのない、二番目の王子の奇行に興味津々なだけなのだが。
ライマールは裏返ってしまった声を誤魔化し、ゴホンと咳払いをすると、膝の上のナフキンを握り締めながら、再び父に話し掛けた。
「今日の午後、少しの間でいいので、その、兄上……と一緒に、お時間を頂けませんか? 昨日の……話の続きがしたい、です」
ぽつぽつと話すライマールに、皇帝は少し目を見開くと、やがてその言葉を理解して、うっすらと目元を赤く染めた。
人目を気にし、悟られまいと大きくゆっくりと頷くその目には、ほんの少しだけ涙が揺らいでいた。
「分かった。宰相と話し合って時間を作ろう。いいな? クロドゥルフ」
「はい。父上」
クロドゥルフは頷きながら、ライマールの方へと顔を向けると、ホッとしたような笑みを浮かべてくる。
ライマールはクロドゥルフと目が合うと、居心地が悪そうに顔を背け、残りの食事を黙々と片付けた。
今後のことを思えば、フォークを握る手が微かに震える。
もし昨日よりも拒絶するような反応をされればと思うと、生きた心地はしなかった。
「ライマール様、大丈夫です」
ハッとして声のする方を見れば、エイラが柔らかく暖かな笑みを浮かべてライマールを見つめていた。
「大丈夫ですよ。きっと判ってもらえます」
ライマールはその笑顔に見惚れながらも、無言で小さく頷きかえす。
エイラはライマールの様子にホッと息を着くと、昨晩のことを思い出していた。
エイラが帝都にいるのは明日の朝までだ。それまでに出来ることをと、夕餉の時にライマールと話し合ったのが、イルミナから相談を受けていたツェナの話だった。
その話を口にした時、ライマールの顔が苦渋に歪み、エイラも後悔の念に捕らわれたが、やはり一人で抱えずに話し合うべきだと、エイラはライマールを説得した。
話し合ったところで、関係が修復されるとは断言できない。
しかしそれでも、互いに前へ進まなければ、この先もお互い胸にしこりを抱え苦しむだけではないだろうかとエイラは思ったのだ。
そんなことを考えていれば、ライマールがカタリと席を立ち上がる。
食卓を見れば、いつのまにか目の前の食事はすっかり綺麗に片付いていた。
「行ってくる。……ありがとう」
屈み込み、エイラの耳元でポツリと呟くと、そのままエイラのこめかみの辺りに軽くキスを落として、ライマールは部屋を出て行った。
一体何が起こったのかと、エイラはキョトンと硬直する。
「まぁ……本当に仲がよろしいんですねぇ……少し羨ましいです」
ため息交じりにイルミナが呟くと、エイラは遅れて赤面したのだった。
夕餉はそのままライマールと共に過ごし、翌朝は熱もすっかりなくなり、問題なく朝餉に出席することができた。
給仕が黙々と食事を運ぶ中、イルミナがエイラやライマールの体調を案じる言葉を交わし、皇帝とクロドゥルフはギクシャクとその言葉に同意する。
普通の会話であるはずなのに、団欒と呼ぶには少々無理のある雰囲気が室内に漂う。
卓上に美しく盛られたパンの山が小高い丘へと姿を変える頃には、誰もがその口を食事へと集中させていた。
いつもよりも壺の中のスープの減りが早いことを訝しむ若い給仕の様子に、エイラは思わず苦笑を漏らす。
隣に座るライマールをちらりと見れば、緊張した面持ちで黙々とスクランブルエッグばかりを口へ運んでいた。
卵用に様々な調味料が目の前に用意されていたが、その存在はライマールの視界からは遮断されているようだった。
エイラはそっと息を吐き出すと、とても小さな声で、そっとライマールに声を掛けた。
「ライマール様」
「ああ……」
エイラに促され、ライマールは曖昧に返事を返すと、カタリとフォークを皿の上に添えた。
「ち、父上……」
「な、なんだ?」
少々裏返った声でライマールが皇帝を呼べば、皇帝はビクリと体を反応させ、ライマールへと注目する。
顔を上げれば、クロドゥルフやイルミナ、何故か給仕達までライマールに注目していた。
もっとも、給仕達は滅多に話し掛けてくることのない、二番目の王子の奇行に興味津々なだけなのだが。
ライマールは裏返ってしまった声を誤魔化し、ゴホンと咳払いをすると、膝の上のナフキンを握り締めながら、再び父に話し掛けた。
「今日の午後、少しの間でいいので、その、兄上……と一緒に、お時間を頂けませんか? 昨日の……話の続きがしたい、です」
ぽつぽつと話すライマールに、皇帝は少し目を見開くと、やがてその言葉を理解して、うっすらと目元を赤く染めた。
人目を気にし、悟られまいと大きくゆっくりと頷くその目には、ほんの少しだけ涙が揺らいでいた。
「分かった。宰相と話し合って時間を作ろう。いいな? クロドゥルフ」
「はい。父上」
クロドゥルフは頷きながら、ライマールの方へと顔を向けると、ホッとしたような笑みを浮かべてくる。
ライマールはクロドゥルフと目が合うと、居心地が悪そうに顔を背け、残りの食事を黙々と片付けた。
今後のことを思えば、フォークを握る手が微かに震える。
もし昨日よりも拒絶するような反応をされればと思うと、生きた心地はしなかった。
「ライマール様、大丈夫です」
ハッとして声のする方を見れば、エイラが柔らかく暖かな笑みを浮かべてライマールを見つめていた。
「大丈夫ですよ。きっと判ってもらえます」
ライマールはその笑顔に見惚れながらも、無言で小さく頷きかえす。
エイラはライマールの様子にホッと息を着くと、昨晩のことを思い出していた。
エイラが帝都にいるのは明日の朝までだ。それまでに出来ることをと、夕餉の時にライマールと話し合ったのが、イルミナから相談を受けていたツェナの話だった。
その話を口にした時、ライマールの顔が苦渋に歪み、エイラも後悔の念に捕らわれたが、やはり一人で抱えずに話し合うべきだと、エイラはライマールを説得した。
話し合ったところで、関係が修復されるとは断言できない。
しかしそれでも、互いに前へ進まなければ、この先もお互い胸にしこりを抱え苦しむだけではないだろうかとエイラは思ったのだ。
そんなことを考えていれば、ライマールがカタリと席を立ち上がる。
食卓を見れば、いつのまにか目の前の食事はすっかり綺麗に片付いていた。
「行ってくる。……ありがとう」
屈み込み、エイラの耳元でポツリと呟くと、そのままエイラのこめかみの辺りに軽くキスを落として、ライマールは部屋を出て行った。
一体何が起こったのかと、エイラはキョトンと硬直する。
「まぁ……本当に仲がよろしいんですねぇ……少し羨ましいです」
ため息交じりにイルミナが呟くと、エイラは遅れて赤面したのだった。
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