デール帝国の不機嫌な王子
守りたい者 3
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ライマールとのダンスを楽しんだ後、翌日の事も考えて、二人は早めに会場を後にした。
翌日の朝食後、ライマールの準備が整うまで、エイラはぼんやりと昨日のことについて一人考えていた。
会場にいた貴族たちや騎士たちの反応は、まずまずといったところだった。
たった一度の舞踏会で、どうこうなるとは流石に思ってはいなかったが、きっとライマールの評価は多少なりとも変わったのではないだろうか?
ただ、皇后の反応だけがエイラは気にかかっていた。
ライマールと同じ黒髪に、面立ちもどちらかといえばクロドゥルフよりもライマールに近かった。
にも関わらず、皇后はクロドゥルフの母と名乗ったのだ。
ライマールとクロドゥルフのではなく、クロドゥルフの母と。
その直後のライマールの反応を見れば、明らかに傷ついた顔をしていたのに、皇后は一度もライマールを見ようとはしなかった。
考えてみれば……謁見の時も毎回の会食にも、皇妃は顔を出していなかった。
(もしかして、皇后様はライマール様の力を知っているのでしょうか?)
異質な力を持つ子を拒否する親はそう珍しいものではない。
皇后はラハテスナの縁戚だが、もしかしたらその力を目にしたことがなかったのかもしれない。
(理屈ではわかっていても、感情が追いつかないのであれば……)
もしかしたら、一番説得が難しいのは皇后なのかもしれないと、エイラは難しい顔で考え込む。
「エイラ様、イルミナ様がお会いしたいと、お越しなのですが」
ノックの音とともに侍女の声が扉の向こうで聞こえた。
なんの御用だろうかとエイラは首を傾げながら、チラリと部屋にあった大きな時計へ目を移す。
ライマールとの約束の時間まではまだ少し余裕があったので、「お通しして下さい」と、エイラは答えた。
部屋へと入ってきたイルミナは、深刻そうな様子で、申し訳なさそうにエイラに頭を下げてきた。
「突然申し訳ありません。無礼なのは重々承知しているのですが、どうしてもお話を聞いてもらいたくて……」
「構いません。次の約束の時間までまだ少し時間がありますので、私で宜しければお話下さい」
ニコリと微笑んでエイラがソファーへ案内すれば、イルミナは少しホッとした様子で、エイラと共にソファーへ腰掛ける。
侍女がお茶を持ってくると、イルミナは人払いをするようにと神妙な面持ちで侍女に命じた。
次女が粛々とお辞儀をして退出するのを見送ると、イルミナはエイラに向き直り、やはり緊張した様子で口を開く。
「不躾な質問になってしまうのですが……エイラ様はライマール様のことをどうお思いですか?」
「どう、とは……?」
思わぬ質問に、思わず聞き返してしまったが、ここは表向きにでもお慕いしていると答えておいた方が良かったのではないだろうか?
エイラは少し失敗したかなと自省する。
しかしイルミナはそんなことは気にしていない様子で、言葉を変えてエイラに質問しなおした。
「率直な感想をお聞きしたいのです。その、ライマール様の人となりをどう感じられましたか?」
詰め寄られているかのような錯覚に陥るほど、あまりにも真剣なイルミナにエイラは少々怯んでしまう。
彼女の様子を見る限り、好きとか嫌いとかそういったことが聞きたいわけではなさそうだ。
なんとなくだが、彼女はもしかして自分やメルのように、ライマールの本当の姿に気付いている、数少ない人物なのではないだろうか?
エイラは少しだけ思案して、「そうですね……」とイルミナに答える。
「不器用な方ですが、お優しい方だと思いますよ。なにより可愛らしい方だと思います」
微笑を浮かべて率直な感想を述べれば、予想外の返答だったのか、イルミナは目を丸くして「可愛らしい……?」と、目をパチパチと瞬かせた。
しかしすぐにブンブンと首を振って、イルミナはまた真面目な顔でエイラに向きなおる。
「やはりエイラ様ならば……。あの、お願いがあるのです。どうか、ライマール様に真実を聞いて頂けないでしょうか? 妹姫様だった……ツェナ様の事件について」
ライマールとのダンスを楽しんだ後、翌日の事も考えて、二人は早めに会場を後にした。
翌日の朝食後、ライマールの準備が整うまで、エイラはぼんやりと昨日のことについて一人考えていた。
会場にいた貴族たちや騎士たちの反応は、まずまずといったところだった。
たった一度の舞踏会で、どうこうなるとは流石に思ってはいなかったが、きっとライマールの評価は多少なりとも変わったのではないだろうか?
ただ、皇后の反応だけがエイラは気にかかっていた。
ライマールと同じ黒髪に、面立ちもどちらかといえばクロドゥルフよりもライマールに近かった。
にも関わらず、皇后はクロドゥルフの母と名乗ったのだ。
ライマールとクロドゥルフのではなく、クロドゥルフの母と。
その直後のライマールの反応を見れば、明らかに傷ついた顔をしていたのに、皇后は一度もライマールを見ようとはしなかった。
考えてみれば……謁見の時も毎回の会食にも、皇妃は顔を出していなかった。
(もしかして、皇后様はライマール様の力を知っているのでしょうか?)
異質な力を持つ子を拒否する親はそう珍しいものではない。
皇后はラハテスナの縁戚だが、もしかしたらその力を目にしたことがなかったのかもしれない。
(理屈ではわかっていても、感情が追いつかないのであれば……)
もしかしたら、一番説得が難しいのは皇后なのかもしれないと、エイラは難しい顔で考え込む。
「エイラ様、イルミナ様がお会いしたいと、お越しなのですが」
ノックの音とともに侍女の声が扉の向こうで聞こえた。
なんの御用だろうかとエイラは首を傾げながら、チラリと部屋にあった大きな時計へ目を移す。
ライマールとの約束の時間まではまだ少し余裕があったので、「お通しして下さい」と、エイラは答えた。
部屋へと入ってきたイルミナは、深刻そうな様子で、申し訳なさそうにエイラに頭を下げてきた。
「突然申し訳ありません。無礼なのは重々承知しているのですが、どうしてもお話を聞いてもらいたくて……」
「構いません。次の約束の時間までまだ少し時間がありますので、私で宜しければお話下さい」
ニコリと微笑んでエイラがソファーへ案内すれば、イルミナは少しホッとした様子で、エイラと共にソファーへ腰掛ける。
侍女がお茶を持ってくると、イルミナは人払いをするようにと神妙な面持ちで侍女に命じた。
次女が粛々とお辞儀をして退出するのを見送ると、イルミナはエイラに向き直り、やはり緊張した様子で口を開く。
「不躾な質問になってしまうのですが……エイラ様はライマール様のことをどうお思いですか?」
「どう、とは……?」
思わぬ質問に、思わず聞き返してしまったが、ここは表向きにでもお慕いしていると答えておいた方が良かったのではないだろうか?
エイラは少し失敗したかなと自省する。
しかしイルミナはそんなことは気にしていない様子で、言葉を変えてエイラに質問しなおした。
「率直な感想をお聞きしたいのです。その、ライマール様の人となりをどう感じられましたか?」
詰め寄られているかのような錯覚に陥るほど、あまりにも真剣なイルミナにエイラは少々怯んでしまう。
彼女の様子を見る限り、好きとか嫌いとかそういったことが聞きたいわけではなさそうだ。
なんとなくだが、彼女はもしかして自分やメルのように、ライマールの本当の姿に気付いている、数少ない人物なのではないだろうか?
エイラは少しだけ思案して、「そうですね……」とイルミナに答える。
「不器用な方ですが、お優しい方だと思いますよ。なにより可愛らしい方だと思います」
微笑を浮かべて率直な感想を述べれば、予想外の返答だったのか、イルミナは目を丸くして「可愛らしい……?」と、目をパチパチと瞬かせた。
しかしすぐにブンブンと首を振って、イルミナはまた真面目な顔でエイラに向きなおる。
「やはりエイラ様ならば……。あの、お願いがあるのです。どうか、ライマール様に真実を聞いて頂けないでしょうか? 妹姫様だった……ツェナ様の事件について」
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