せっかく吸血鬼《ヴァンパイア》になれたのに異世界転移させられて伝説に。(推敲中)
第9話 平和と友達とココア
少女があまりの光景に固まっていると、夜に終わりが来た。
周囲に太陽の光が戻り、まるで夢でも見ていたかのようだったが、目の前の人物の存在がそれを否定する。
真っ黒の外套に身を包み、フードで顔を隠していた青年の素顔が見えた。
フードからはみ出たオレンジ色の短髪に蒼白な顔、赤い瞳。そして先ほどの出来事からは想像も出来ないほどの無邪気な笑顔を向けて少女に言う。
「やあ、怪我はないかい?
おれはムラマサってんだ。君は?」
少女は引きつった笑顔で答える。
「私は…ユリス…ユリス=スペストと申します。助けていただいて、本当にありがとうございました。」
そう言い、深々と頭を下げた。
今日はお礼言われてばっかだな。気持ちいい…などとにやつき、笑いながら答える。
「いやいや、気にしないでくれ。勝手に助けに来たんだ。」
「あ、あの、そ、それで…あの人達は…どうなったのですか…?」
ユリスが疑問を抱くのも無理はない。ユリスを囲っていた5人のうち1人は蹴とばされて飛んで行った。だが、他の4人の姿がない。
実を言うとムラマサの闇によって装備ごと吸収されて消滅していたのだが、そんなことをわざわざ正直に言って怖がらせる必要はない。
「ああ、奴らならアジトにお返ししといたよ。そんなことより、この店、ユリスの店なのか?」
ユリスを助けに入ってからずっと気になっていたことを尋ねた。
こじんまりとしつつもどこか品のあるような、そんな喫茶店を守るように立ってユリスは男達に囲まれていた。
「はい!頑張ってやっと開いた自慢のお店なんです!」
ユリスは誇らしげに満面の笑みで両手を広げて言った。
おれは人間だった頃、まだ日本の高校生だった頃からひとりで放課後喫茶店に寄ってココアを片手に時間も忘れてくつろいでいるのが何よりも大好きだった。
まさか異世界にきて早速行きつけ候補ができるなんて。
素晴らしすぎる。寄ろう。寄らせてもらおう。ここは是非とも行っておきたい。
「なあ、よかったら寄って行ってもかまわないか?」
ユリスは目を輝かせて答えた。
「もちろんです!!
あなたは恩人なんです!是非是非ごちそうさせてください!!何かご希望のものはございますか!!」
「ははは!ありがとな。じゃあさ!ココアはあるかい?」
「もちろんです!!お食事は!何かご希望はありますか?」
「いや、食事はさっきとったばっかでな。サンドイッチ一つ入りそうにねえや。ははは!だからココア一杯だけ頼むよ。」
ハボの屋敷に居た時から何一つ口にはしていなかったが、ただ遠慮の口実というわけでもなかった。
先ほど男達を闇の力で吸収してから、空腹感も喉の渇きも一切感じない。
奴らの血をいただいたわけではないのだが、自身の血肉となっているようだ。満足感はあるが、ココアは別腹ってやつだ。
異世界のココアに胸を躍らせながらユリスに案内されるままに店内へと入り、窓際の席に座った。
少し待っているとカウンターからニコニコしたユリスが出てきた。
「お待たせしましたー!当店、カフェ フルール特製アイスココアです!!」
そうユリスが言い、テーブルの上にコースターを置き、グラスを重ねた。
まるでパフェの器のようなグラスに並々に注がれたココアの上に真っ白な生クリームが添えてある。
ココアがこぼれないよう、まずはそのまま一口。少し水位が下がったところで生クリームをかき混ぜてもう一口。
(う…うまい…通おう。決めたぞ。)
「ユリス…」
神妙な面持ちで名前を呼ばれたユリスは緊張した声で応えた。
「は、はい!?お口に合いませんでしたか?」
ムラマサの顔を伺ったが、表情からは読み取れない真剣な顔だった。
「いやいやいやいや。美味すぎだ…こんなに美味いココアは初めてだ。
この鼻の奥までほんのり香る甘味。そしてその香りを裏切らないココア本来の旨味、その上それを殺さないように、且つこのココアにマイルドな味と舌触りを足す生クリーム。
絶品だ!!!!!!!」
突如とても満足した満面の笑みで熱弁を始めたムラマサにはびっくりしたが、褒められて嬉しくないわけがない。
「ありがとうございます!そんなに喜んでいただけて私もとっても嬉しいです!」
こんなたわいのない会話を少しして、おれは店を出た。
ハボに沢山お小遣いをもらったのだ。このまま帰っても勿体ない。
ちなみに、独りではない。初めて王都にきて早速迷子になったことを話すと、ユリスが案内します、と申し出てくれたのでその言葉に甘えることにしたのだ。
ユリスを抱えて空を飛んで繁華街に向かったり、店の買い物を金貨であっさり済ませたりとしていたのを見たユリスの口が驚きのあまりふさがらなくなることが何度もあったが、日が暮れるまでこの日は二人で本当に楽しんだ。
ユリスを家まで送り、おれはハボの屋敷へと帰った。
周囲に太陽の光が戻り、まるで夢でも見ていたかのようだったが、目の前の人物の存在がそれを否定する。
真っ黒の外套に身を包み、フードで顔を隠していた青年の素顔が見えた。
フードからはみ出たオレンジ色の短髪に蒼白な顔、赤い瞳。そして先ほどの出来事からは想像も出来ないほどの無邪気な笑顔を向けて少女に言う。
「やあ、怪我はないかい?
おれはムラマサってんだ。君は?」
少女は引きつった笑顔で答える。
「私は…ユリス…ユリス=スペストと申します。助けていただいて、本当にありがとうございました。」
そう言い、深々と頭を下げた。
今日はお礼言われてばっかだな。気持ちいい…などとにやつき、笑いながら答える。
「いやいや、気にしないでくれ。勝手に助けに来たんだ。」
「あ、あの、そ、それで…あの人達は…どうなったのですか…?」
ユリスが疑問を抱くのも無理はない。ユリスを囲っていた5人のうち1人は蹴とばされて飛んで行った。だが、他の4人の姿がない。
実を言うとムラマサの闇によって装備ごと吸収されて消滅していたのだが、そんなことをわざわざ正直に言って怖がらせる必要はない。
「ああ、奴らならアジトにお返ししといたよ。そんなことより、この店、ユリスの店なのか?」
ユリスを助けに入ってからずっと気になっていたことを尋ねた。
こじんまりとしつつもどこか品のあるような、そんな喫茶店を守るように立ってユリスは男達に囲まれていた。
「はい!頑張ってやっと開いた自慢のお店なんです!」
ユリスは誇らしげに満面の笑みで両手を広げて言った。
おれは人間だった頃、まだ日本の高校生だった頃からひとりで放課後喫茶店に寄ってココアを片手に時間も忘れてくつろいでいるのが何よりも大好きだった。
まさか異世界にきて早速行きつけ候補ができるなんて。
素晴らしすぎる。寄ろう。寄らせてもらおう。ここは是非とも行っておきたい。
「なあ、よかったら寄って行ってもかまわないか?」
ユリスは目を輝かせて答えた。
「もちろんです!!
あなたは恩人なんです!是非是非ごちそうさせてください!!何かご希望のものはございますか!!」
「ははは!ありがとな。じゃあさ!ココアはあるかい?」
「もちろんです!!お食事は!何かご希望はありますか?」
「いや、食事はさっきとったばっかでな。サンドイッチ一つ入りそうにねえや。ははは!だからココア一杯だけ頼むよ。」
ハボの屋敷に居た時から何一つ口にはしていなかったが、ただ遠慮の口実というわけでもなかった。
先ほど男達を闇の力で吸収してから、空腹感も喉の渇きも一切感じない。
奴らの血をいただいたわけではないのだが、自身の血肉となっているようだ。満足感はあるが、ココアは別腹ってやつだ。
異世界のココアに胸を躍らせながらユリスに案内されるままに店内へと入り、窓際の席に座った。
少し待っているとカウンターからニコニコしたユリスが出てきた。
「お待たせしましたー!当店、カフェ フルール特製アイスココアです!!」
そうユリスが言い、テーブルの上にコースターを置き、グラスを重ねた。
まるでパフェの器のようなグラスに並々に注がれたココアの上に真っ白な生クリームが添えてある。
ココアがこぼれないよう、まずはそのまま一口。少し水位が下がったところで生クリームをかき混ぜてもう一口。
(う…うまい…通おう。決めたぞ。)
「ユリス…」
神妙な面持ちで名前を呼ばれたユリスは緊張した声で応えた。
「は、はい!?お口に合いませんでしたか?」
ムラマサの顔を伺ったが、表情からは読み取れない真剣な顔だった。
「いやいやいやいや。美味すぎだ…こんなに美味いココアは初めてだ。
この鼻の奥までほんのり香る甘味。そしてその香りを裏切らないココア本来の旨味、その上それを殺さないように、且つこのココアにマイルドな味と舌触りを足す生クリーム。
絶品だ!!!!!!!」
突如とても満足した満面の笑みで熱弁を始めたムラマサにはびっくりしたが、褒められて嬉しくないわけがない。
「ありがとうございます!そんなに喜んでいただけて私もとっても嬉しいです!」
こんなたわいのない会話を少しして、おれは店を出た。
ハボに沢山お小遣いをもらったのだ。このまま帰っても勿体ない。
ちなみに、独りではない。初めて王都にきて早速迷子になったことを話すと、ユリスが案内します、と申し出てくれたのでその言葉に甘えることにしたのだ。
ユリスを抱えて空を飛んで繁華街に向かったり、店の買い物を金貨であっさり済ませたりとしていたのを見たユリスの口が驚きのあまりふさがらなくなることが何度もあったが、日が暮れるまでこの日は二人で本当に楽しんだ。
ユリスを家まで送り、おれはハボの屋敷へと帰った。
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