せっかく吸血鬼《ヴァンパイア》になれたのに異世界転移させられて伝説に。(推敲中)

村畑

第7話 恩と迷子

床にへたり込んだままのハボと話していると、先程の執事がふらふらしながら駆け込んできた。


「ハボ様!!ご無事ですか!!闇が!!あの闇が先ほどこの部屋に!!」


慌てふためき混乱している様子の執事にハボが冷静に声をかける。


「まずは落ち着け、セバス。あれは我々の味方だ。あの闇の正体は私の客人で友人の彼、ムラマサだよ。」


「なっ!?こ、こちらの御仁のお力でしたか!
ムラマサ様この度は本当にそのお力をお貸しいただきありがとうございました。
是非とも今晩お礼をさせて下さい!」


執事のセバスはそう礼を言い、深々と頭を下げた。


するとハボも立ち上がりながら賛同し、
「そうだな、ムラマサ!今回の件は本当に助かった。いつもは聖騎士が駆けつけるまでこのセバスが衛兵達と時間を稼いでくれるんだが、まさか一人でやっつけちまうとはな。見事だったぜ。
今晩は宴にしよう。準備しておくから、夜まで王都を見て回って来たらどうだ?」


「ははは!友達の家が襲撃されたんだ、当たり前のことをしただけだよ!気にするな気にするな!
でも王都の街は見てみたいな。
うん、じゃあおれは少し出てくるよ!」


そうハボに伝えて、襲撃者たちからはぎ取った真っ黒い外套を羽織り外へと向き直した。




「あ、ムラマサ!これ持ってけ!」


ハボは1つの皮袋をおれに放ってきた。
中身を確認すると、数枚の金貨が入っていた。


「それだけありゃあどの店に入っても困ることはない。好きに見てこい!
まぁ、お前から譲ってもらったブラックウルフの一割分にもなんないがな!がっはっは!!」


ハボの大笑いしながらのセリフに感謝の意を示し、外套のフードを被りながらおれは屋敷を出た。
















「ご主人様、あの…大丈夫なのでしょうか…」


「大丈夫とは?」


「い、いえ、あれほどの力の持ち主…危険はないのですか…?」


「危険があるか無いかと聞かれりゃ…そりゃあるだろうな。」


セバスは鬼の形相で主人であるハボに詰め寄る。


「では何故!!!!!?
アレは!あの力は到底並の人間では到達し得ません!!!!せめて取り込むなら人間にしては!!私は関係を続けることには反対です!!!」


「セバス。彼は私の友だぞ…?」
ハボの眼が鋭くなった。


「うっ…し、失礼致しました…」


「まあいい。彼を取り込んだのは確かにこちらにつける為だ。人間離れしたあの力はとても魅力的だしな。
しかし、そんなことよりも彼は純粋なんだ。
放置して奴らに取り込まれたほうが厄介だ。わかってくれ、セバス。」


「覚悟は…あるのですね…では、私もお供しましょう。
地獄の底まで…」


「ふふっ。すまんな。本当に、こんな主で…」


ハボはセバスにどこか申し訳なさげに微笑みかけ、それに応える様にセバスは微笑みながら深々と頭を下げた。












一方おれは、迷っていた。


ハボの屋敷は市街地から少し離れている。屋敷が大きすぎるために市街地になど到底建てられない。
屋敷を出て、街の喧騒が聞こえる方へとおれは向かっていた。だが、見つけてしまったのだ。路地裏へと繋がる道を。


興味をそそられる…異世界で裏路地。
事件に巻き込まれるかもしれない。




なんて思って安易に知らない土地で知らないところに入り込んでしまったのが間違いだった。
事件に巻き込まれるなんて幸運、そうそうなかった。


諦めて市街地に戻ろうと引き返したつもりだったのだが、全く知らない所に出てしまった。
スマホのマップがないと知らない地を歩くことがこうも難しいとは…不覚だった。


少しの間ぶらぶらとしていたが、あまりにもつまらなすぎたのである実験をすることにした。
せっかく魔法の存在する異世界に来たんだ。空を飛びたい。
まずはその為にどう魔力や闇を使って自分を宙に浮かせるかだ。


最初に足の裏に魔力を集めて一気に放出してみた。
身体がまっすぐ伸びたまま、頭から地面に突き刺さった。まるでやり投げの選手に放られた槍のように。


「ぐふっ!?失敗…まあそんなにうまくいかないか。さて、どうするかな。」


しばらく色々と実験をするうちに一つ、効率の良い方法を見つけた。
空気中に自分の魔力を溶け込ませ、その魔力で自身をコントロールする。すると空中ですら意のままに動き回れるようになった。


魔力を溶かす範囲を広げるとその分行動範囲も広くなった。


やっと見つけた成功に早速応用を加えていく。
空気中に溶かした魔力に得意の闇を混ぜてみる。
これで飛んだ時に姿を隠せられれば、と思っていたが予想外の効果をもたらした。


結果から言えば姿を隠すことには失敗した。
だが、それ以上の効果だった。なんと、闇が溶け込んだ空間内は飛行どころか一瞬での移動が可能なのだ。
瞬間移動。カッコイイ。


勿論おれは調子に乗った。
飛び回った。宙も地も。


これを使って空へと飛びあがり、王都を見渡して街を把握していると、ヴァンパイアになってから強化されていた耳が悲鳴を聞きとった。




これは…事件のにおいがする!!!!








おれは早速新しい能力を使う機会が楽しみでたまらず、うっきうきで飛んで行った。



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