第1話 日常からの変化

この日、日本では記録的猛暑が記録されていた。




とある高校にて。




「おーい。村畑〜。寝るなー。授業中だぞー。」


  教壇に立つ五十歳前後の男の先生が教室の最前列で机に突っ伏して爆睡している生徒の頭を教科書ではたきながら言う。


「せんせー、もうそいつのことは諦めましょうよー。」
「そうですよー。そいつが寝てんのはいつものことじゃないですかー。」




周りの生徒が声をあげる。
寝ている生徒に先生は少し呆れた目を向けながらも授業を再開する。




結局その生徒は放課後まで目を覚ますことはなかった。




キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り教室の生徒たちは帰りの仕度をし、教室を出た。






「ふぁ〜。」
教室に誰もいなくなってから目を覚ました村畑と呼ばれた生徒は周りを見渡す。


「みんなまだ学校来てねえのかよ。少し早く着きすぎた過ぎたな。」
そう呟き、汗ばんだ制服をパタパタと扇ぎながらふと時計を見る。


「え…授業終わってる…」
途方に暮れたような表情で固まり、その後気怠そうに朝来たままの鞄を取りそのまま教室を出た。




「あーあ。まーた1日無駄にしたなぁ…。
このあとどうしよう。」
1人帰り道で、つい溢れる。






真夏の猛暑と夕暮れ時の独特な涼しさが混じったようなわずかな風を感じながらカフェに寄った。アイスココアを頼み、席に着くと一冊の小説を取り出した。
小学生の頃から憧れた怪物、吸血鬼ヴァンパイアの物語だ。


闇夜を自由自在に飛び回り、闇に紛れて獲物を狩る。決して群れることなく、されども圧倒的な力を持つ西洋の伝説の存在。
孤高の夜の支配者 《ヴァンパイア》。




「かっこよすぎる…
正義とか、悪とか、そんなの関係ないとばかりに力を振るう。
絶対の存在。これは男だと惚れるだろ…。
なりてえーーーー。」


つい呟いてしまうと、周りの客の視線が集まってしまった。
慌てて視線を小説に戻し、自分の世界に帰る。


日も落ち、あたりに静けさが漂い始めたころ、やっと数日間かけて読み終えた一冊を名残惜しそうに鞄に入れて店を出た。


近頃はこの辺りはとても物騒らしく、毎日のように通り魔事件のことがニュースになっていた。


なんでも、老若男女問わずに夜1人でいた者が襲われているらしい。


被害者が30を超えたあたりから世間ではそのニュースは日常となっていた。
被害者がいくら出ても人は自分に影響がなければ無関心でいられるものだ。
この少年も例外ではなかった。


路地を曲がり、いつもの通学路である裏通りを通った時、視界の端を１つの影が過ぎ去っていった。
カラスか何かだろうと気にも留めなかったが、次の曲がり角を曲がると何者かが立っていた。
微かな街灯の明かりがそれを照らすと、少年は足を止めてしまった。


'それ'は見ていた。自分を。
つい、'目を合わせて'しまった。
闇が、こちらに突きつけられている。
奴が一歩ずつ近づいてきた。
動けない。
脚の震えが止まらない。
ガチガチと歯が鳴り止まない。
鳥肌が全身を染める。





『我が力を継げる素材…遂に…遂に見つけたぞ』






















そして…


























『○月△日、また、悲しい事件が起こったと思われます。
今回の事件はこれまで同様現場には大量の血痕が散乱してはおりました。
しかし、被害者は確認されませんでした。
警察はこれを連続通り魔事件とし、捜査を進めています。』






















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おれは目を覚ました。
いつもの自分の部屋。自分のベッドだ。


昨夜のことがよく思い出せない。
ナニカ、あったと思うが…
ただ、体がいつもより調子がいい。
ベッドから起き上がり、カーテンを開けた。


「ぐぁ…！？」
目が焼けるような痛みに襲われる。
慌ててカーテンを閉めたが、痛みが止まない。
うずくまり悶える。
逃げられない痛みから部屋を転げ回る。


太陽がこんなに眩しいことがあっただろうか。
そこで、いつも読んでいた小説をふと思い出す。
太陽が苦手な存在が１つ…
思い浮かんでしまった…


まさかと思い姿見に飛びつく。
鏡を覗いてみると首から上が無い…いや、服以外が見えない。


「これは…」


そう。なってしまったのだ。


吸血鬼。またの名を








《ヴァンパイア》に…


こうしておれの日常は突然の終わりを告げ、新しい種族へと生まれ変わったのだった。