死なない奴等の愚行

山口五日

第177話 サーペントは女性になってしまったようです

「どうして女に……というか、サーペント女だったのか?」
「いや……私も初めて知りました……」


 サーペント自身も人間の姿になった事……自分が女性だという事に驚いているようだった。


「博士やマヤなら詳しいかもしれないけどな……。なあ、同じモンスターなんだから何か知らないか?」
「ふむ……儂はずっと変わらないがのう……。世界の果てに来た影響か……あるいは不老不死になった影響か……まあ、そのような姿になって何か支障がある訳ではないのだろう? 言われて気付くくらいじゃし」
「え、ええ、まあ確かに特に異常はないですね……」
「でもよ、ケルベロスと融合はできるのか?」


 確かに。これまで中身のない甲冑がバラバラになって、俺の体に装着されるような感じだった。果たして融合はできるのだろうか。できなかったら俺はこれから自分の身一つで戦わなければならないので、大ピンチだ。


「どうでしょう……ケルベロスさん、ちょっと一度試してみましょうか」
「ああ……確かめておかないと、いざっていう時が怖いしな」


 シャラから受け取ったカップを地面に置いて、いつも通りサーペントとの融合を意識する。すると俺とサーペントの体が光り出す。そして一瞬でいつものように俺が甲冑を纏うようにして融合が完了する。


 どうやら融合は問題なくできるらしい。よく考えてみれば、サーペントと俺はそもそも博士とマヤの二人によって融合状態にあるのだ。よほどの事がない限りは、このように二人が一つになれなくなる事態には陥らないかもしれない。


(無事に融合できましたね)
「そうだな。この状態だと、前と同じように俺の頭だけに声が聞こえるんだな」


 とりあえず胸を撫でおろす。良かった……こんなところで融合できなくなる事態になれば、今すぐ帰らせていただきたいところだ。


「良かった……とりあえず融合できるなら、俺は問題…………どうした、シャラ?」


 シャラが俺の腕、延いてはサーペントの腕を引っ張っていた。


「は、早く、サーペントさん離れてください! ずるいですよ! そんなにケルベロスさんと密着するだなんて!」
「……は?」


 どうやらシャラはサーペントに嫉妬しているようだった。密着って……いや、確かに密着してはいるけど……肌と肌を重ね合わせている訳じゃないんだから……。


 シャラの慌てぶりに俺は唖然とする。そして、離れない俺とサーペントに対して、しまいには目から涙を溢しながら騒ぐ。


「離れてくださいぃぃぃぃッ! 私のケルベロスさんなんですぅぅぅぅぅぅッ! 別に独占するつもりはないですけど、私よりも先にまぐわうなんてズルいですぅぅぅぅぅッ!」
「まぐわう言うなっ! これから融合する時、気まずくなる!」


 シャラには困ったものだ。しかし、これ以上騒いでいたらモンスターを呼び寄せてしまうかもしれない。彼女を静める為にも、一度融合を解くか……な、サーペント。………………あれ? サーペントさん?


 サーペントが沈黙してしまった。あれ? 今になって何か異常が?
 嫌な予感がして胸騒ぎを覚えたが、落ち着いてサーペントの声を聞こうとすると、小さな彼女の声が聞こえて来る。


(ま、まぐわっ! い、いやいや、そんな行為ではないですし! でも、確かに普通に抱き合うよりも、より密な密着をしてますし……。それにケルベロスさんの……アレだけでなく、ケルベロスさん自身が中に入っている訳ですから……普通のまぐわいよりも凄い事をしてるんじゃ!?)
「お前もか!」


 サーペントはどうやら見た目だけでなく、心も女性になってしまったみたいだ。
 というか、こんな事で童貞を卒業した事になるなんて嫌だ。普通に卒業させて欲しい。


 俺とサーペントが分離するとシャラはようやく騒ぐのをやめる。だが、俺の腕を抱き締めるようにして掴み、暫く離してくれなかった。

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