第174話　シャラ大活躍

　宙を舞う巨大カマキリモンスター。自ら飛んでいる訳ではない。吹っ飛ばされたのだ。誰に？　…………シャラです。


　おかしい。確かにハーフモンスターなので、一般人よりは強い。だが、それはあくまで一般人と比べてだ。俺とサーペントの融合状態と比べれば遥かに劣る。


　それなのに……あれほど苦戦していたモンスターを……いや、待て。そもそも、あれはシャラなのか？


「シャ、シャラ、だよな？」
「？　そうですよ。何を言ってるんですか、ケルベロスさん。私に決まっているじゃないですか」


　何を当たり前な事を訊いているんですかと首を傾げる彼女。そう思ってしまうのは仕方ない。だが、そんな当たり前な事を訊かないと彼女だと分からないのだ。


　モンスターが彼女の方を振り向こうとした時の事だった。シャラが光に包まれたと思えば、光を失った時、そこにはシャラの姿はなかった。代わりに、紫を基調とした甲冑を身につけた人物が立っていた。
　甲冑は体の起伏に沿って作られているようで、女性である事は辛うじて分かるが、顔も隠れていて誰かは分からない。


　甲冑の人物がシャラだと分かったが、まるで俺がサーペントと融合している状態と似ている。いったいどうなっているのだろうか。


　しかし、それを問うのは後だ。まだ、モンスターを倒した訳ではない。


「キシャァァァァァァァァァァァァァァッ！！」


　吹っ飛ばされたモンスターは怒り心頭の様子だ。
　先程まで自分の周りを動き回って、攻撃していたが、真っすぐ鎌を振り回しながら迫って来た。俺達を殺すという意思が感じ取れる。


　攻撃が通じないので、俺はせいぜい避けるなり、鎌を剣で受け止めるくらいしかできない。
　だが、今のシャラなら……と、目を向けてみると、既に彼女は動き出していた。


「ケルベロスさんにはもう手出しさせませんっ！」


　そう言って、走り出して迫るモンスターを正面から彼女も突っ込む。


「ん！？」


　そんな彼女の姿を見て違和感を覚えた。そして、その違和感の正体にすぐに気付く。彼女は何も武器を持っていなかったのだ。もしかすると収納魔法や、俺のガンのように取り出しができる魔道具を持っているのかもしれない。


　いったい、いつになったら武器を出すのかとやきもきしながら見ていたが、結局彼女は出す事はなかった。


「はあぁぁぁぁぁっ！」


　モンスターの鎌による攻撃を避けながら接近し、シャラは懐に潜り込んだ。そして両手で胴体に触れると、その手が赤い光が放つ。


「キシャッ！？」


　そして触れた部分で小規模な爆発が起き、再びモンスターが宙を舞った。


　二、三度、地面を弾み、地面に倒れ伏すモンスター。先程は、すぐにこちらに向かって来たが、暫く足や鎌を意味もなく地面を引っ掻き、いずれ動かなくなる。どうやら倒したようだ。


「ケルベロスさん！　やりましたよ！」
「あ、ああ……うん。お疲れ様…………ごめん、早速だけど、それ何？　なんか見た目がだいぶ変わってるけど」
「はい！　これは博士に貰いました！」
「博士に？」


　おい、博士。これのおかげでモンスターに勝てたが、変な機能を付けていないだろうな。
　俺は不安だったが、一方でその博士お手製の魔道具を纏うシャラは特に気にしていないようで、嬉しそうに性能を話してくれる。


「ケルベロスさんとサーペントさんの融合を見て作ったらしいですよ。ケルベロスさんを驚かせたくて、ここまで内緒にしていたんです。この甲冑を纏えば、身体能力の向上は勿論。更に、触れる事で、相手の魔力を暴走させる事ができるんです」
「暴走？」
「具体的に言うと爆発します。体内で。まあ、あれだけ巨体だと、表面に近い部分を爆発させる事しかできないみたいですね。最後はもっと深くを意識しましたけど」


　だから最初の一撃は浅かったとシャラは反省する。
　最後の一撃によって胴体が少し傷を負っているようにしか見えないものの、体内の方は見た目とは想像できないほどにぐちゃぐちゃになっているという事か……エグイな……。


　まあ、博士の魔道具というのが少し気になるが、何はともあれモンスターを倒せたのだから良しとしよう。