死なない奴等の愚行

山口五日

第160話 納骨堂には何かいるそうです

「ここがー納骨堂ねー」
「…………うん」
「…………」


 三人でセーレの王のペットが入ったとされる納骨堂にやって来た。なんというか……嫌な予感がある。あと一歩で納骨堂の敷地内に入るのだが、その一歩を踏み込めないでいた。


 なぜか分からないが、嫌な予感がする。死にかける事が多いせいか、死の気配というか、そういったものが感じ取れるようになった。確か踏み込んだ瞬間に死ぬとか言ってたよな……。


「じゃー行きましょうかー」
「ちょ! 待て待て!」
「えー? どうしたのー?」
「どうしたのー? じゃない! 不用意に踏み込んだら危ないだろ!」
「大丈夫よー。私達、死なないしー」
「そうだろうけどな……ん?」


 俺とマヤが遣り取りしていると何か音がした。具体的に言うなら誰かが突然倒れるような……。


 カーシャが納骨堂の敷地内で倒れていた。


「カーシャァァァァァァァ!?」
「あらあらー、本当に死んじゃうのねー。たぶん意識を失ってるだけだと思うけどー」


 急いで足を引っ張って敷地の外にカーシャを出してやる。確かにマヤの言う通り息はしているが、すぐに目覚めそうにない。


「いったいどうなってるんだ……。これじゃあ中に入れないだろ」
「んー? なんとなく分かったかなー」


 マヤが二回手を打ち鳴らした。
 すると三人の体を薄い光の膜で包み込まれる。どうやら魔法を使ったようだ。


「これは?」
「中に充満している呪いを防ぐ魔法よー」
「呪いを防ぐ……ん? 呪い?」
「そう、呪いー。カーシャさんの体を見てー、呪いの力を感じたのー」
「呪いなんて、どうしてそんなものが……」
「んー……ちょっと待ってくださいねー」


 するとマヤは目を瞑り、数秒ほどで目を開けた。そして納骨堂の建物に視線を向ける。


「んー、呪いを使うモンスターが居るみたいですねー。これは……リッチですかー? 納骨堂という場所柄、死霊系のモンスターは生まれやすいけどー、リッチなんて珍しいですねー。まあ、結界を張りましたから呪いは大丈夫ですのでー問題ありませんよー」
「いや、呪いも問題だけど今はリッチが居ること自体が問題じゃないか?」


 リッチといえば確か死霊系のモンスターでも最強の部類に入るはずだ。このままペットを捜索して大丈夫だろうか。中に入ると死んでしまうという話は聞いていたが、その原因が分かってしまえば話が違う。


 このままペットを探しに行くより、一度戻りサラに状況を伝えて人員をもう少し回して貰うべきかもしれない。


「…………油断した」
「おお、カーシャ。大丈夫か?」


 意識を取り戻したカーシャは立ち上がる。俺は彼女が意識のない間で分かったリッチの事を伝えた。そして、これからペットを探しに行くのか、それとも一度納骨堂の状況を伝えに戻るべきかを相談しようとしたが、それよりも先にカーシャは指針を示す。


「……リッチを倒す」
「いや、それ仕事の内容違って来るからな」


 カーシャが珍しくやる気に満ち溢れていた。どうやら呪いで一度やられてしまった事が悔しいらしい。


「マヤの魔法で守られてる……あとは倒すだけ……」
「いや、倒すだけって言ってもな……」
「それじゃあ、行きましょうかー」
「いやいやいやいや、待て待て待て待て!」


 二人が納骨堂の建物に向かって歩いて行くのを止める。だが、二人とも問題ないとばかりに歩みを止めようとしない。いや、俺も二人がリッチに負けるなんて事は全く思っていないんだ。これまでの二人の戦闘能力からリッチは問題なく倒せると思う。


 問題は……二人が戦って、この納骨堂が無事に済むか分からない。


 余裕を持って倒せるように他の団員を呼びたかったが、二人が行くと言って聞かないので仕方なく呪いに満ちた納骨堂へと踏み込む事になった。

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