死なない奴等の愚行

山口五日

第139話 目覚めるとそこは花園

 詳細不明の機能をフェルのおかげで色々試す羽目になり、魔力が枯渇。おかげでその日はこれ以上移動する事ができない。


 なんとか残りの魔力でみんなのもとまで戻ると俺はすぐに意識を失った。フェルに運転させる手もあったが、彼女に運転させたらバスがどうなるか……いや、バスは丈夫そうだから、それよりも周りの被害の方が心配だ。


 その為、魔力を捻り出して運転したが、到着すると気が緩んだのか意識を手放してしまった。


 ……それから何時間経っただろうか。


 目が覚めた時には辺りが暗くなっていた。野営の為のテントで寝ていると思ったが、どうやら車内のようだ。


 幌馬車の時もそうだったが、俺、サーペント、ガルダは外で寝ている。馬車やバスの中は女性陣と子供が使用していた。


 俺が席で意識を失ってしまったから、そのまま車内で寝かせてくれたのだろう。そうなると、みんなは外で…………いや、違う。


 耳を澄ますと微かに寝息が聞こえて来る。


 暗闇に包まれた車内。目を凝らしてよく見てみると、人が横になっているのが分かる。誰が横になっているかというと…………女性と子供たち。


「おう…………」


 ガルダよ……そしてサーペントよ……どうして俺をこの場に置いて行ったのだ……。


(ああ、起きたんですかケルベロス)


 俺の目覚めた事を察したようでサーペントの声が頭に響いた。


 起きた……で、どうして俺はここに取り残されたんだ?


(いや、別に悪意はないですよ。ただですねミーアさん達がさすがに疲弊している今日はバスの中でゆっくりお休みになって貰いたいと言うので……。私としても今日ばかりはゆっくり休んで貰いたいと思いまして……)


 気遣いはありがたいけどな……。歳下といえど女性だ。それもそれなりに女性の体をしている。彼女達が無防備に寝ている中に取り残されたら、こっちが気を遣う。


「ん……んふぅ……」
「…………」


 そして時折艶めかしい寝息が嫌でも自分の男としての部分を刺激する。いや、何かする訳ではないが。


(じゃあ、別に何も問題ないじゃないですか。彼女達も別に気にしていないようですし……じゃあ、おやすみなさい……)


 いや、気は休まらな……まあ、いいや。悪いな起こして……。


(いえ……それでは……)


 サーペントの声が完全に聞こえなくなる。どうやら再び寝てしまったようだ。
 俺はこの状況で再び寝る気にはなれないので、とりあえずバスから出ようと思った。だが……。


 俺は今、バスの最後尾にある横長の椅子に横になっている。扉の開閉の装置がある操作席までの通路には、みんなが寝ていて足の踏み場がない。窓から出ようかと思ったが、窓は外の空気を入れ替える程度にしか開かないのだ。そうなると、バスの中央と先頭にある扉から出るしかない。


 席の上を歩いて操作席まで移動するしかないか……などと思った時だ。


「ケルベロスさん……」
「うおっ!?」


 接近にまるで気付かなかった。いつの間にか、席の下から顔を出すシャラが居た。


「しっ……みんな起きちゃいますよ」
「わ、悪い……だけど、驚いた。さっきまで、みんなと寝ていたのに……」
「ふふっ……私の半分を作っているモンスターは気配に関して敏感なんですよ。私自身は気配を悟られなくて隠れんぼをした時なんか、最後まで見つからないので鬼ばかりやっていました」


 楽しそうに微笑みながらそうシャラが言った。
 あまりハーフモンスターの体質に関して詳しく聞いた事がなかったが、モンスターの力を多少持っているのか。ガルダがゴブリンと戦えるのもモンスターの力かもしれないな。


「……ところで、ケルベロスさん」
「ん? どうし、っ!」


 シャラの顔が視界いっぱいになるほど近付いて来た。思わず声が出そうになったが、彼女が俺の口に人差し指をあてて来たので出かけた声を飲み込む。


 そして指が離れると、俺は彼女の顔が近い事に戸惑いながらも尋ねる。


「な、何だ? どうした?」
「……その……ケルベロスさんにお願いがあるんです……」
「お願い?」


 こうして面と向かってお願いをされるなんて初めての事だ。できる限りの事はしてあげたいと思うが…………いったいなんだろうか。何処か行きたいところがあるとか……それとも、買い物をしたいとか……。


 シャラのお願いとやらを自分なりに予想しているなか、彼女は願いを口にする。


「私と……愛し合って、いただけませんか?」
「…………」


 俺の中で時間が停止した。

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