死なない奴等の愚行

山口五日

第136話 よからぬことを考えているお客さんはいらないよ

 商人に売ってくれと言われるのならまだ平和的だ。
 だが、時には非平和的な奴等も居る。


「てめえら! 全員降りろぉ!」
「…………」


 まあ、なんという事でしょう。各々が思い思いの武装をした柄の悪い連中がバスを取り込んでいるではありませんか。そしてバスを降りろと要求を……まあ怖い。


 ……いや、正直怖くはない。こっちにはフェルやサーペントが居るので、大して脅威ではない。だが、ちょうど休憩をするのに都合が良い開けた場所でバスを止めた途端に数十人がバスを取り囲んだ。


 このバスを狙っての行為なのか、それともここを狩場としている盗賊なのか……。
 いずれにしろ、さっさと片付けよう。こんな奴等と接していたら子供の教育上にも宜しくないと思うし……。


「大人しくこの魔道具を渡すって言うなら命は助けてやるよ!」
「女には少し構って貰うがなぁ! ヒャッハッハッハ!」


 ――ファァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼


「「「「「うおっ!?」」」」」
「おお、思ったよりも大きな音が鳴ったな」
(ケ、ケルベロスさん! 何かするなら事前に言っておいてください! ビックリするでしょう!)


 悪い。あまりにもあいつらの言動が耳障りで。
 車内を見てみると「でっかい音だった!」と笑っているフェルを除いて、全員が耳を塞いで驚いていた。


 バスの説明に書いてあった周囲に警戒を促したり、威嚇したりするのに使うといいと書いてあった機能でクラクションと言うらしい。威嚇には使えそうだが、警戒を促すには音が大き過ぎる。こんなのを突然鳴らされたら、慣れていないと身が竦んでしまって警戒どころではないだろ。


「び、ビビらせやがって! でけえ音がしただけじゃねえか……」
「何なんだ、あの音……聞いた事ねえ……」
「ドラゴンとかもしかすっと、あんな鳴き声をすんのかもしんねえな」
「いや、ありゃ悪魔の咆哮だ」


 ただ音を鳴らしただけだが、連中はすっかり困惑していた。それほど衝撃的な音が響いたのが分かるだろう。


 ……さて、それでこいつらをどう対処すればいいのかが問題なのだが…………手っ取り早いのが、立ち塞がる盗賊をガン無視して発車する。この手段はあまりにも乱暴なので最後の手段ではあるが……相手は完全に悪人だ。手心を加えなくても良いとも思われる。


 それにこのままだと、どちらにせよフェルやサーペントに奴等の相手をして貰う事になる。バスにやられるか、フェル達にやられるかの違いだ。


「おいっ! さっさと出て来いって言ってんだろ!」


 ――ファァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼


「「「「「ひいっ!」」」」」
(ケルベロスさん! だから事前に言ってくださいと、さっきも言ったでしょう!)


 悪い。連中の事を一生懸命考えてあげているのに、あまりにも身勝手だから……。


(味方の事も考えてくださいよ……)


 いや、本当に悪かったって。でも、もうクラクションを鳴らす事はない。もう、決めたからな。


「フェル、サーペント頼んでいいか?」
「あいつらをやっつければいいんだよね? 任せて」
(承知いたしました。特に秀でた実力者は居ないようですし……)


 俺はハンドル近くに設けられているボタンを一つ押した。すると、車体の前と真ん中辺りにある扉の内、真ん中の方の扉がスライドして開く。


 そこからゆっくりとフェルとサーペントが車外へと出る。
 出て来た事に、最初盗賊達はようやく獲物が出て来たと笑みを深めたが、二人しか出て来ない事に武器に手を掛けた。


 そして一分も経たない内に、車外で立っているのはフェルとサーペントだけとなっていた。当然の結果だろう。


 危険はないが、バスに乗り換えてからというもの荒事が増えた。もう少し落ち着いた旅をしたいものだが…………透明化になる機能なんかは付いていないだろうか?


 そんな期待をしながら、二人が盗賊を相手にしている間、俺は博士の書き置きを読み返し、取り付けられているボタンやレバーの機能を改めて確認をした。


 …………何も説明のないボタンとか、いったいどんな機能が備わっているんだ?
 興味と恐怖が入り混じり確かめる気になれないのであった。

「死なない奴等の愚行」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「コメディー」の人気作品

コメント

コメントを書く