死なない奴等の愚行

山口五日

第133話 野郎やりやがったな! ありがとうよ!

「ケ、ケルベロスさんっ! 大変です!」


 誰かの声がした。
 その声とともに俺の体を揺さぶられるのを感じて、ゆっくりと目を開ける。


「ん……んあっ、どうした……? タロスの寝返りで……十人くらいが圧死状態なのか?」
「誰ですかタロスって! 十人くらい圧死状態で、どんな状況ですか!? そうじゃないんです!」
「……じゃあ……どんな状況なんだよ……」


 ああ、そうだガルダか。寝ぼけてイモータルに居るんだと勘違いしていた。
 まだ完全に覚醒し切っていない頭。おかげで夢と現実の狭間に居るようで、意識が今にも夢の世界へと戻りそう…………ガルダ、もう少し寝かせてく、れ…………。


「馬車が大変なんです! それと博士という人の書置きが!」
「オーケー完全に目が覚めた」


 博士というワードが強烈過ぎて、夢から現実へと完全に引き上げられた。
馬車が大変と言っているがいったいどうなってしまったのか……博士の書置きがあるという事から嫌な予感がした。


「いったい何が……」


 寝ていたテントを出て、ガルダの後を追い掛けるようにして馬車へと向かう。


 そして、衝撃の現場を目撃してしまった。


 まず、幌馬車の以前の姿を説明すると、ほぼ木造で馬が二頭、御者の席があり、後部は防水加工された布の幌が施されていた十人以上は乗れた幌馬車。


 だが、今目の前にあるのは見た感じ金属で作られた直方体の箱。馬は居ないが、四つの車輪がある事から馬車であろうと思われる。そして箱には四方にガラスが取り付けられていて、座り心地の良さそうな椅子が数十人分取り付けられている。


 ……俺はこれに見覚えがあった。失った記憶の中……俺が居た世界に似たものがあったと思われる……バ、バ……バ……名前が出て来そうで、出て来ない。ただ、人を乗せて運ぶ乗り物だったような気がする。


「いったいこれは……」
「ケルベロスさん、これが博士って人からの書置きです」
「あ、ああ……」


 目の前の物体に困惑しながらも、とにかく博士の書置きを呼んでみる事に。


『せめて旅が快適になるように、“バス”という最近開発した馬車に代わる魔道具を用意していたのを忘れていた! 戻ったら既に寝ていたようだから、声を掛けずに馬車と取り換えておいたぞ。これで旅をするといいっ! はっはっはっ! 』


「はっはっはっ! ……じゃねえよ! あのジジイやりやがったな!」
「ケルベロスさん! 落ち着いてくださいっ! それに、この魔道具の扱い方が書かれているので、破いてはいけません!」


 俺が怒りのあまり破こうとしたのをガルダが慌てて止めた。
 そうだ……馬車がなくなった今、このバスという魔道具を使わないといけない。落ち着こう……それにしてもバスか…………うん、聞いた事あるような気がする。


 既視感を覚えながらも俺は、書置きに書かれていたバスの操作方法を読む。
 ただ、把握をする前に既にフェルやサーペントがバスの中で色々触っているのだが、大丈夫だろうか。


「このボタンを押すと音が鳴るんだね! ピンポーンって! それと、次停まりますって言ってるよ!」
(いったい何の意味が…………それと一番前の席、ボタンがいっぱいありますね……)


 ……急に爆発したりしないだろうか。いや、まああの二人ならいざ爆発したとしても大丈夫だと思うが……あ、でもサーペントはまだ完全な不老不死じゃなかったような……まあ爆発くらい問題ない気がする。


 とりあえず書置きを読み進めよう。


「…………よし、だいたい分かった。そんなに難しいもんじゃないみたいだ。それと俺が適任のようだな」
「え、そんな……教えていただければ俺達が……」
「いや、これは魔力を結構使うみたいだからな……たぶん長距離を移動するなら俺が適任だ。よし、朝食を食べたら早速これに乗って移動だ。皆にも伝えてくれ」
「は、はい。分かりました!」


 ガルダは他の皆のところへと戻って行く。フェルとサーペントを除く他の者は既に朝食の準備や、野営の片付けをしていた。


 一人になった俺は、バスをジッと見て態度には出さないが滅茶苦茶喜んでいた。


 書置きを読み終わった時、俺はジジイに感謝していた。
 俺の役割を作ってくれて、ありがとう、と……。


 良かった……これで何も役に立たない、お荷物から脱する事ができる……。


(ケルベロスさん、良かったですね……)


 …………ああ。


 俺と融合しているサーペントには、密かに喜んでいる事は筒抜けだった。

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