死なない奴等の愚行

山口五日

第129話 用は済んだのでさっさと街からサヨナラバイバイ

「…………」
(…………)


 街で無事複製石を売って門へと戻って来ると人だかりができていた。
 俺は嫌な予感がした。サーペントも俺と同じ気持ちという事が融合している為に分かる。


 絶対この人だかりはフェル達に関係している、そんな気がした。


「いったい何があったんだか……」
(その……申し訳ないですが、フェルさんが……その……)
「まあ、何かするとすればフェルだな……」


 ガルダ達ハーフモンスターが何かするとは考えられない。街の壁の破壊をもくろんでいたフェルが第一容疑者だ。


 いったい何が起きているのか確認する為に人込みを掻き分けて門へと近付く。門番が通常出入りの確認をするはずだが、この人の多さで門番の確認なく外へと出た。
 幌馬車を停めていたはずの方を見てみると……。


「おお……」
(やはりですか……)


 幌馬車を中心に武装した連中が倒れていた。そして街の衛兵が幌馬車を囲み、フェルと睨み合っている。囲んでいる衛兵に中には高圧的に接して来た門番の男も居た。


「あ、お前は! 戻って来るのが遅いぞっ!」


 俺に気付いた門番の男は物凄い剣幕でこちらに駆け寄って来る。口調は乱暴だが、高圧的でなくなり、余裕がない様子。だいぶ焦っているようだ。


 ……正直、気分が良い。


(良い性格してますね)


 いや、街に来た時の最初の対応が普通だったら、こんな事は思わないぞ。
 こいつに限っては、「ぷぷっ、ざまぁ(笑)」と言いたくなるが。


(絶対に言わないでくださいね……余計に面倒臭い事になると思いますから……)


 分かってる。心の中だけ……心の中だけで嘲笑う事にする。


 そんな遣り取りをしていると、門番の男は俺のもとへと来た。
 そして門番の男は俺の胸倉を掴もうとした。だが、サーペント(鎧)を纏っていたので掴むところがなく諦め、俺を睨みつけながら怒鳴る。


「おいっ! 何てことしてくれたんだ!」
「何があったんだ?」
「お前のハーフモンスターが暴れたんだよ! おかげでこの被害だ!」
「……そうか」


 男の言っている事は理解した。フェルなら武装をした連中を倒す事は容易だろう。だが、男の説明には不足している事がある。


「あんたは最初から事の成り行きを見ていたのか?」
「ん? ああ、見ていたぞ」
「そうか……じゃあ、どうしてあいつらが暴れたのかも見ていたんだろ? 教えてくれよ。ことによっては、あいつらは身を守る為に……」
「はあ? どうしてそんな事を? ハーフモンスターが人間に手を出した時点で何があろうと、ハーフモンスターに責任があるだろ?」
「…………」
(…………)


 ハーフモンスターに対する一般的な反応はこういうものなのか……。
 ガルダ達の事を聞いて分かったつもりでいたが、実際に見聞きすると、その酷さをより実感できた。俺は男と話をこれ以上しても無駄と判断して、みんなのもとへと向かう。


「あ! ケルベロスとサーペントだ!」


 衛兵達に敵意を剥き出しにしていたフェルの表情がやわらぐ。
 サーペントを纏っているせいか、そしれ周囲を警戒していたせいか、匂いで俺の接近に気付かなかったようだ。


「複製石売ってきたぞ。馬車を出してくれ」
「了解!」
「あ、待て!」


 動き出そうとする幌馬車に慌てて駆け寄る衛兵達。
 進行方向上にも衛兵達が群がろうとしていたので、少し相手をする事にした。


「サーペント、剣は使わず軽くな」
(ええ……下手すると死んでしまいますからね)


 一瞬で衛兵の懐に飛び込むと、身に着けている鉄製の鎧の上から拳を叩きつける。それを繰り返し、接近していた衛兵は全て腹部を押さえて苦痛に顔を歪ませた。拳の形に鎧はへこんでいて、見ての通り衝撃を殺し切れていない。


「フェル!」
「はいっ!」


 邪魔になる衛兵が居なくなり、幌馬車を出す。俺はそれに飛び乗った。
 こうして街を俺達は慌ただしく後にするのだった。

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