死なない奴等の愚行

山口五日

第126話 ゴブリンパーティーはようやく終わり

「サーペント、もう少し踏ん張ってくれっ! ガルダ、お前ももっと頑張って!」
「が、頑張ります!」
(いや、ケルベロスさんが頑張ってくださいよ。ガルダまで戦わせて……)
「うっさい、限界なんだ俺も!」


 先程までガルダは幌馬車の前で、こちらが討ち漏らしたゴブリンを倒してくれていた。だが、ゴブリン程度のモンスターには遅れを取る事はないと判断して、積極的に戦って貰う事にした。


 いや、最初は怪我をしたら大変だと思い戦わせなかった。だが、そうも言っていられないほどにゴブリンが増えているのだ。


 いくら死ななくても対処し切れない。


「フェル早く戻って来てくれっ! ごふっ!」
「ケルベロスさん!」


 ゴブリンを殴打し、また殴打されながらフェルの名前を叫ぶ。ガルダが地面に転がる俺に対して心配そうに声を掛けてくれるが、駆け寄ってくれる事はない。ガルダもゴブリンの対処で忙しいのだ。


(ケルベロスさん! 早く立ち上がって戦ってください!)
「サ、サーペント……もうちょっと労わってくれよ……」
(そんな余裕ありません! ガルダも頑張っているんですから! ほら、頑張って!)


 そう励まされながら俺は立ち上がり、再びゴブリンに挑む。
 そして、更にそこから十回くらい倒れただろうか……ある状況の変化に気付く。


「ケルベロスさん、森からゴブリンが出て来なくなりましたね」
「本当だ……じゃあ、後はこいつらを倒せば……ん?」
(消えた?)


 最後のもうひと踏ん張りと気合を入れ直した時だった。
 目の前に居たほとんどのゴブリンが消え、何十体もいたのが五体しか残っていない。残ったゴブリンも突然他のゴブリンが居なくなった事で戸惑いを隠せないらしく、周囲をキョロキョロ見回している。


「何が起きてるのか分からないがチャンスだ!」
「はいっ!」
(了解です!)


 こうして残った五体のゴブリンも倒す事ができた。終わって周囲を見回すと、数百ものゴブリンのほとんどが死骸を残す事なく消え、死骸は百も残っていないようだ。


「何だったんだいったい……」
「ケルベロス! ただいまぁ!」
「フェル? おおおっ!?」


 森の中からフェルが戻って来たと思ったが、現れたのは巨大な宝石に二本の足を生やした新手のモンスター……ではなく、やはりフェル。


 自身の体をほとんど隠してしまう巨大な宝石と思われる半透明のエメラルドグリーンの物体。なぜかそんなものを抱えてフェルは戻って来た。


「フェル……それは何だ?」
「これ? これはね…………何だっけ? 数十年前に博士が教えてくれたんだけど……」
「そ、それ、複製石じゃないですか?」
「そう! それフクセーセキ!」
「複製石な。それっていったい何なんだ?」
「俺もそんなに詳しい訳じゃないですけど……」


 フェルが持ち帰って来た複製石をガルダが解説してくれた。


 複製石は時折自然界で生まれる特殊なモンスターとの事。ただ、見た目は美しく、動いたりする事はないので、知識のない者には巨大な宝石にしか見えない。だが、この複製石は触れたモンスターを石の中に閉じ込め、そのモンスターを複製する力を持っている。


 複製されたモンスターは生命活動が停止すると肉体を残さずに消えてしまうが、複製石の魔力が尽きるまで複製モンスターを生み出す。複製する対象にもよるが、ゴブリンなら一秒に一体は生み出すという。


 大変危険なモンスターなので、見つけ次第破壊と決められている。


「フェルはあのゴブリンが複製されたものだと気付いたのか……」
「うん! 前に聞いたの思い出してね!」
「これは希少なので高く売れると思いますよ。何処かで売りましょう」
「そうなのか……フェル売ってもいいか?」
「うん、いいよー」


 フェルは快諾すると、複製石を俺に手渡す。俺は何も考えずそれを受取ろうとして…………足に落とした。


「jぁsづいぁhぢあjどpあじおっ!」
「ケルベロスさぁぁぁぁんっ!」


 俺の声にならない悲鳴とガルダの声が響いた。


 複製石を平然と持っているフェルを見て、俺は油断していた。彼女は力があるので、重くても問題なく持てるのだ。複製石のあまりの重さに耐え切れず、手で受け取れず落としてしまった。そして両足を見事に潰した。


 複製石の下はおそらくひき肉状態だろう。

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