死なない奴等の愚行

山口五日

第117話 互いに暴力が手っ取り早いと思ったようです

 俺とユーマを始めとするイモータルの団員複数人は、とある建物の前に居た。
 男の案内で連れて来られたのだ。ここに男の雇い主が居るらしい。


「ここか……」
「あ、ああ……なあ案内したんだから解放してくれよ」
「ああ解放してやる。ついでに雇い主を呼んで来てくれよ」
「わ、分かった、呼んで来るから解放してくれっ!」


 肩を掴んでいた手を離した瞬間、男はまるで矢のように建物の中へと飛び込んで行った。扉を慌てて開けて、閉める。そして鍵を掛ける音がした。


 ……逃げたか?
(私達が入って来ないようにしただけでしょう。それに逃げても別に問題はないでしょう)


 確かに男は既に解放したのだ。雇い主を呼んで来てくれと頼んだのはおまけに過ぎない。男が逃げても何も問題はないのだ。少しこの場で待つ事にしよう。


それにしても、商人と聞いていたが、この建物は店という訳ではないようだ。周囲に人の姿はあまり見られない街のはずれ。おそらく倉庫、もしくは事務所のようなものだろう。


「んで、俺はどうすればいいんだー?」
「まあ、とりあえず話し合いだな。だから待機で」
「ういー」


 ユーマが軽いノリで応じた。


 俺達がイモータルという傭兵団の団員である事をアレッサに明かした。そして何かできる事はないかと尋ねると、アレッサから店へちょっかいを出さないようにして欲しいと依頼を受けたのだ。


「にしても、ケルベロスもお人好しだよなー。今日初めて会ったんだろ?」
「成り行きだ、成り行き」
「照れんなってー。まっ、普通の人間相手なら余裕っしょ。荒事になったら任せな」
「はいはい、頼りにしてますよ」


 俺の目的はハーフモンスター達を、あの店に留める事ができるようにする事だ。そうすれば俺が全員引き取る必要はなくなる。


 ちなみにハーフモンスター達は店に置いて来た。あの中で最年長者の男は何か役に立ちたそうではあったが、危ないので連れて来ていない。ついでに俺達が店に離れているうちに、また誰か来た時の事を考えて団員を一人残した。一人居ればどうとでもなるだろう。


「さてと……いったいどうなるかな……話し合いで済めばいいが」
「済まねえよ。経験上な」
「……不老不死の経験上って言葉は説得力があって嫌だな」
「はっはっはっ! まあ、どうとでもなるっしょ。それに力でねじ伏せるのが手っ取り早い……おっ来たみたいだぜ」


 建物の中から慌ただしく動き回るような物音が聞こえた。どうやらユーマの言っていたように、話し合いで済まないようだ。


「俺とケルベロスはさっさと奥へ行くか。雑魚は頼むな」
「「「おうっ!」」」


 打ち合わせ……というほどでもない。言葉を一言二言交わしてこちらの準備は完了した。そして小さな解錠音が聞こえると、怒声と共に建物の扉が勢いよく開かれる。


「ぶっ殺せぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「なめんじゃねえぞぉぉぉぉぉ!」
「死ねやこらぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 建物から数十人の武器を持った殺気立った男達が出て来る。やはり話し合いは難しいらしい。


「そんじゃ、任せるわ。行こうぜケルベロス」
「ああ」
「んだ、てめゴボッ!?」
「ぶっ殺ゲボベっ!?」


 建物へと侵入するのに邪魔な奴だけを適当に殴り、ユーマは魔道具で蹴散らしていく。俺はサーペントのおかげで相手をするのは余裕だった。ただ、接近戦を得意としないユーマもチンピラレベルなら問題ないらしく余裕を持って対処していた。


 やがて他の団員も暴れ始めたので、建物へ侵入する俺達を構っている余裕がなくなっていた。手薄になったところを見逃さずに建物の奥へと進む。


「こういうのって、親玉が居るのは奥だよな」
「それも経験上か?」
「いや本とか。まあ、偉い奴は奥で引きこもってるのが相場っしょ」
「偉い奴……オッサン団長だけどアクティブだぞ」
「そりゃ死なないから引きこもる必要がないからって……おお、まだこんなに」


 建物から出て来たのは一部だったらしく、通路に武器を持った男が現れる。前、そして背後にも。どうやら、もう少し暴れないといけないようだ。

コメント

コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品