死なない奴等の愚行

山口五日

第115話 お店のピン…………チ?

 再び店へと戻って来た。すると店前でガラの悪そうな連中が、魔法で姿を偽っている状態のアレッサに絡んでいるのが見える。


「も、もしかして俺達が引き取られたのがばれて?」


 焦りだすハーフモンスター達。俺もこんな状況に鉢合わせするとは思っていなかったので、正直内心焦っている。どうする? あ、全員斬ってとりあえず、お開きにするか?


(落ち着いてくださいケルベロスさん。焦り過ぎです)


 い、いや、悪い。完全にアレッサとハーフモンスター達をどうしようか相談するつもりだったから、こんな一触即発な状態とは思いもしなかったんだ。だが、もう大丈夫だ。今はいたって落ち着いている。


 それで、サーペントどうする? とりあえず斬るか?


(落ち着いて! 斬る事を選択肢から除外してください!)


 ……自分が意外と突発的な出来事に弱い事を知った。落ち着け俺。


「……ハーフモンスターを七人もつれてれば、耳に入ってもおかしくはないか」


(そうですね。とりあえず、様子見ですか? それとも……)


 様子見…………だけど、この子達が我慢できるだろうか?


 今にもアレッサの方に走って行きたそうにしている。年長者の男も自重しているが、今すぐにでも駆け出しそうだ。歯を食い縛り、黒く岩肌のような腕が震えていた。


アレッサは本当にハーフモンスター達に良くしていたらしい。


「……仕方ないか。お前達はここに居ろ」
「え、危ないですよ!」
「大丈夫だ。死ぬ事はないからな……絶対に動くなよ。危ないからな」


 下手に飛び出して来ないように釘を刺した。こいつらは俺と違って普通に死んでしまう。矢面に立つのは死なない奴で充分だ。まあ、そもそも戦場で戦っておいて、これくらいの荒事に臆する事はない。


 普通のチンピラなら大丈夫だろ?


(当然です。いくら海でなくても、それくらいの相手ならいくらでも相手にできますよ)


 頼もしい返事だ。他力本願というのは情けないが、仕方ない。俺には荒事を乗り越える力は皆無なのだから。ある人に頼ろう、うん。


「サーペントが問題ないなら安心…………ん?」


 俺は店へと近付くにつれ、違和感を覚えた。


 店の前ではアレッサが堂々とした態度で、店内に侵入されないよう連中の前に立ち塞がっていた。今にも拳が飛んで来そうだが、まったく顔色を変えない。肝が据わった女性だ。


 そして絡んでいるガラの悪い連中の内の一人。
 こいつは特に大声でアレッサに怒声を浴びせていた。


「オイゴラァ! テメエ、頼んでたよぉ、商品をよぉ、他の奴に渡すなんて何してんだよ? ああん?」
「売れ残ってしまったらという約束でしたので……」
「欲してるんだからよぉ、とっておけよぉ、なあ? ああん?」
「申し訳ございません。ご希望に合致する奴隷が入手できればお知らせいたしますので」
「ふっざけんなよ、ゴラァ!」
「申し訳ございません」


 怒声を浴びせられるが、アレッサは全く怯む事のない。男も怒声を浴びせるだけで手までは出さないようだ。これなら放置しなくても問題ないと思われるが、俺は剣を抜き、男へと近付く。


「えい」
「ぎゃああああああああああああああああ!?」


 そして背中をばっさり斬った。


 背中から激しく出血し、痛みに地面をのたうち回る男。突然俺が斬り掛かった事に、斬った奴の仲間と思われる奴等はその場で固まり、さすがのアレッサも目を見開いて唖然としている。


(ケルベロスさん、何をっ……あれ? この人は……)


 一瞬サーペントは慌てるが、どうやら気付いたらしい。


「……何やってんだ、ユーマ」


 怒声を浴びせていた男は、イモータルの団員の一人。腕輪や指輪などのアクセサリー型の魔道具を複数身に着けたチャラい男、ユーマだった。

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