死なない奴等の愚行

山口五日

第114話 予想の斜め上をいきました

「あの……お待たせしてしまって、すみません」
「気にするな。それより……どうしたいのか決まったのか?」
「ええ……その…………」


 ハーフモンスター達の代表らしい男は自信なさそうにしており、口を開いたり閉じたりしている。言いそうで言わないを繰り返す。


 ……暫くは言い出しそうにないな、こりゃ。
 無理に急かすと余計に喋れなくなりそうだ。俺は男のタイミングで話し出すのを待つ事にする。色々考えないといけないが、そんなに急ぐ必要はない。


 男が話し出すのを待ちながら、改めて引き取ったハーフモンスターに目を向ける。正直見た目はほとんど人間だ。ハーフモンスターという呼称が大袈裟である。


 角が生えていたり、皮膚の一部が鱗に覆われていたり。人間の容姿と最も異なる年長者の男でも両腕が黒く、岩肌のようになっている程度だ。これでハーフなら、体がバラバラになっても復活する俺はモンスター以上の謎生物だろう。


 そんな事を思っていると、男はようやく伝えたい言葉を口にする。


「あ、あの……俺達をっ」
「俺達を?」
「店へ……戻してくださいっ」
「…………は?」


 奴隷から解放してください、とか言われるなら分かる。だが、どうして店に戻ると言うのか。店に戻るという事は再び奴隷になるという事だ。どうして、そんな事を望む? もしや俺のもとで奴隷なんかするより、女主人が言っていた良くない客の奴隷になった方がマシという事か? そうなのか? うん、返答しだいでは泣くぞ、大泣き。声を上げて泣いてやる。


(尋ねてもないのに返答も何もないでしょう。落ち着いてください、ケルベロスさん。それに好きで戻りたいと言っている訳ではないようですよ)


「へ?」


 サーペントに促されてハーフモンスター達を見る。すると確かに悲痛な面持ちをしている。今にも泣きそうだが、それをこらえているようにも見えた。


 何か事情がありそうだ。俺は暴走しかけていた思考回路を落ち着かせて、


「どうして店に戻りたいんだ?」
「そ、その……アレッサさんが心配で」
「アレッサさん?」
「店の御主人です」


 あの、女主人の事らしい。アネッサという名前だったのか……などと思いながら俺は問い掛ける。


「それで、どうしてアレッサが心配なんだ?」
「私達が、店から居なくなった事で……引き取ろうとされていた方が何かしてくるかもしれないのです……」
「何かしてくるって……売れ残ったらという約束だったんだろ?」
「あ、あの方は既に自分のものにしたかのような口振りでした。この日に私達を引き取りに来る……というふうに。それにアレッサさんも言っていましたが、人として最悪の部類に入るそうです」
「いったいどんな奴なんだよ?」
「私達も、そんなに詳しく知りませんが……店を各地に持っている裕福な商人らしいのですが、その……裏で違法なものを取引しているそうで……。アレッサさんは私達も、その裏で扱う商品として買うつもりなのだろうと……」
「それなら、戻ったらお前達がマズいだろ」
「で、でも、このままだとアネッサさんに迷惑をかけてしまう……。その方の財力……また裏の取引の為に雇っている人を使えば、あの店を潰すのは容易……だと思います」


 あの店、アレッサの為に、その人物に引き取られるというハーフモンスター達。だが、俺はそいつに渡さない為に頼まれたのだ。ここで店に返してしまうのは……。


(ですが、覚悟を決めてるようですよ)


 そうなんだよな……でも、だからといって店に返す訳にもいかない。アレッサの思いを踏みにじる事になる。しかし、今の話を聞いて、あの店を放置しておく訳にもいかないだろう。


「……とりあえず、お前達を見せに返すかは別として、一度店に戻るか……何かできるかもしれないしな」
「は、はいっ。ありがとうございますっ」


 ……さて、どうなる事やら。

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