死なない奴等の愚行

山口五日

第109話 やっぱり奴隷のお店でした

「いらっしゃいませー。お客様、当店は初めてですか?」
「あ、はい」


 出迎えてくれた女性の内の一人が近付いて来て声を掛けて来た。
 肩を出し、胸元が大きく開いた生地の薄いボディラインがはっきりと分かるドレスを纏った女性。他の女性も同じような格好をしているが、彼女は特にそのドレスに見合うほどの大きい胸を持っていて、整った顔立ちをしている。街中で見かければ思わず目で追ってしまうだろう。


 だが、サーペントが言っていたように、確かに首輪をつけている。他の女性もまた同じだ、奴隷の証である首輪をつけていた。だが、やはり奴隷を売っている店とは異なる雰囲気の店内だ。


 店内はソファとローテーブルで、複数のスペースが作られている。幾つかのスペースは他のお客さんによって使われているのだが、二、三人の奴隷の女性も一緒に座ってお酒を楽しんでいる。


 ……やっぱり違う店だろ、ここ。


「あの、奴隷を売ってる店と聞いて来たんですが…………ここは違いますよね?」
「いえ、ここであっていますよ。様々な奴隷を取り揃えております」
「……マジで?」
「マジです」


 どうやら間違っていないらしい。だが、店内からはそのような商売をしているように思えない。すると俺が戸惑っているのを察したのか、女性は微笑み説明を始める。


「当店ではお客様に商品の奴隷の内面を詳細に知る事ができるように、こうして一緒にお酒を飲んでいただけるようになっているんです。他のお店では見られない仕組みですので、驚かれたでしょ?」
「あ、ああ、確かに」


 奴隷の事をより詳細に知る為に、このような事をしているのなら納得できる。確かに酒の力は人の本性を曝け出すものだからな…………暴走という形で。


(ケルベロスさん、イモータルの飲み会は異常ですからね。あれだけ暴走して、本性やら色々なものを曝け出しているのは、おそらくイモータルだけです)


 俺の考えている事を感じてサーペントが正す。俺の知っている酒の力というのはイモータルの飲み会くらいしかないので、あてにならないようだ。


 それから俺は空いているスペースに通された。そのまま説明をしてくれた女性が隣に座り、体を密着させる。腕と腕が接し、また女性の胸も少しあたっているほどの密着度。だが、俺は動じない。女に慣れてる? ははっ、甲冑で感触がまるで感じないのさ畜生。


(ケルベロスさん……)


 サーペントに呆れている様子を感じ取ったので俺は思考を切り替える。そうだ、奴隷を買うのが目的だった。


「それでは、お求めの奴隷にご希望はありますか?」
「えっと……元気な人で」
「元気? 他にご希望は?」


 正直、条件と言われても買い物のリストには“活きのいいの”としか書かれていなかった。それ以上に何か希望と言われても困ってしまう。


「いや、特に……」
「そうですね……これでは絞り切らないので、こちらから幾つかご質問をさせていただいても?」


 女性はあまりにも漠然とした希望を出すにも関わらず、戸惑う様子もなくそのように申し出る。こうした接客に手慣れているように感じられた。


「あ、はい。お願いします」
「ありがとうございます。それでは、まず予算の方は?」
「えっと……」


 俺は残っている買い物と、残金から予算を示した。それに女性は頷きながら、続いての質問を繰り出す。


「続いて奴隷はどのような環境に身を置く事になるか教えていただいてもよろしいでしょうか? 特殊な環境ですと合わない奴隷も居ますので……」
「えっと…………船ですね」


 具体的に言うなら幽霊船だが、そこまではっきり言わなくてもいいだろう。言ったら確実に頭がおかしい人と思われるに違いない。


「そうですか……船。ちなみに船での生活はどれくらいの期間になりますか? お客様のプライバシーもあるとは思いますので、仕事の事には触れなくて構いませんので」


 船を使った仕事をしていると思われたようだ。そのように解釈していただけるなら、こちらとしても有り難い。


「船での生活…………ほぼずっと」
「ほぼずっと………………そうなりますと、ちょっと厳しいかもしれないですね。この地域には蒼海の死霊騎士の話のせいで、海に怯える人が多いですから。時々、外から入って来る奴隷も居ますが、そういった奴隷はすぐ漁師の方に買われてしまいうんですよ」
「そうなんですか……」
「ですが、一人だけどんなところでも大丈夫な奴隷が居ます」
「本当ですか?」
「ええ。まあ、その奴隷を買うかどうかは一緒にお酒を飲んでみて決めてください。ただいま呼んでまいりますので」


 女性は立ち上がると、店の奥へと姿を消す。そして一分も経たずに、別の女性が現れた。

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