死なない奴等の愚行

山口五日

第102話 そう簡単に抜け出せないですよねぇー

「おい、ケルベロスを連れて来たぞ」
「こいつ、折角の酒盛りを抜け出すなんて何考えてんだ?」
「くそっ! 放せぇぇぇぇぇぇ!」


 マリアを介抱する為に抜け出せたと思ったのだが、両腕をがっちり体格の良い団員達に掴まれて、あっという間に連れ戻されてしまった。俺の酔っ払いの視界に入らなければ大丈夫という経験則は誤りだった。


 くっ……まさか、こんなにも早く連れ戻されるなんて……。
 今日も無理矢理飲まされてとんでもない目に遭うのだろうか。船の上という事もあって直近の漂流が頭を過ぎる。


 ま、万が一、船から落ちても今回は大丈夫だ! 俺にはサーペントが居る。サーペントさえ居れば海面を歩く事ができるし、何も心配はいらない。


 そう思い、ついサーペントを探す。だが、サーペントの姿が見当たらない。はて……いったい何処に…………ん?


 見つけた、といっても船の上には居なかった。


 港にタロスが座っていて、そのすぐ近くにサーペントが彼を見上げながら立っていた。互いに身振り手振り、言葉を発さずにコミュニケーションを取っている。言葉を語らない者同士波長があったようだ。うん、俺は嬉しいぞサーペント。イモータルで気の合うお友達を見つけられて…………俺は今落ちたら確実に沈むだろうけど。


 グラスを持たされ、酒を注がれる。もう飲むしかなかった。


 ……それから、どれだけ時間が経ったか、どれだけ飲んだか…………覚えていないが、団員から、船員から次々と注がれる度に飲んだ為に幾度も意識を失った。途中、ダンやユイカ、フェルが来た気がするが覚えていない。


 どんな酷い飲み方をしたのだろうかと思いながら俺は目を開ける。


 俺は何度目か分からないが、再び失っていた意識を取り戻した。だが、意識が覚醒していくにつれ、これまでと違う事に気付く。


 意識を取り戻した直後、酒を満たしたグラスを差し出されたり、口に酒を注がれたりしていたのだが…………来る気配がない。酒が切れたのか? まあ、寝起きで酒を飲まなくて済むから良かった。


 だけど変だな……静か過ぎる。酒で全員が酔い潰れてしまったとしても、寝息やら聞こえても良いはずだ。だが、そのような音も一切聞こえない。唯一聞こえるのが、波の音。


 …………なんか嫌な予感がする。
 鼓動が早まり、意識が一気に覚醒した。すぐさま上半身を起こして周囲を見渡す。すると船の上には誰も居ない。


「…………いや、きっと買い出しにでも行ってるんだ。うん、きっとそうだ」


 そろそろ船へ戻って来る皆の姿が見えるんじゃないか? そう思って俺は立ち上がり、船の縁に近付いて皆を迎えようとした…………海だった。


 あっはっは。そうかそうか、逆だったか……………………海だった。


 船は出航していた。


「どういう事じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 誰も居ない甲板で俺は絶叫した。状況の意味不明さに、一気に酒気が吹き飛ぶ。
 俺一人幽霊船に乗せられて出航? 身一つで漂流するよりかはマシかもしれないが、漂流というか、遭難というか…………この状況なんて言えばいいの?


「起きたか」
「おおっ!?」


 床から何か生えて来た!? ……あ、船長だ。


「驚かすなよ……」
「すまない。この船は私の体のようなものだから、こんなふうに自由に移動できるんだ。船員は慣れているから、つい慣れた移動をしてしまった。だが、君も慣れておいてくれ……暫く私達と共に行動するのだからな」
「は?」


 意味不明。この状況も意味不明だが、船長の言っている事も意味不明だった。


「悪い、どういう事なんだ? まるで、俺が船長達と行動を共にするような言い方だが……」
「だからそうのように言っている。これから暫く君はイモータルではなく、このファントムの船員になるんだ。分かったか?」
「分かった。でもな……分かったけど、分からねえよ!」


 船長が言っている事は理解した。
 次はどうしてそのような事に至ったのか説明を! ご説明を! プリーズ!


 船長は俺が何も知らないのかと僅かにだが表情に驚きの色を見せ、俺に説明をし始める。

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