死なない奴等の愚行
第98話 船長は語る。これまでの登場人物よりもたぶん語る。
「いやいやいや! それっておかしいだろ?」
あの幽霊海賊団の船長がイモータルの団員だとしたら、どうして戦っているんだ? いや、あいつらの事だから暇潰しに戦ったりするかもしれない。だが、今回は一般人を巻き込んでいる。
「他の海賊は知ってたのか?」
「そんなの知る訳ないだろ。知っていたら、のこのこと集まりはしない」
「お、おいおい、それじゃあ騙したって事かよ」
「確かにそうだ。だが、それの何が悪いんだ?」
「っ!?」
慌てて俺は背後を振り返った。そこに、いかにも海賊らしい髑髏が描かれた大きな帽子を被った、大柄だが、あまり筋肉はついておらず細身だ。そして肌は恐ろしいほどに白くまるで生気を感じさせない。風が吹けば倒れそうな見た目だが、どうしてだろう…………はっきりと強者であると分かる。
「初めまして……でいいな? 私はファントムの船長をしているゴーストだ。名前はとうに捨てているから船長とでも呼んでくれ」
「あ、ああ……」
「ふむ……それにしても、お前は面白いな。魂が二つ見える…………甲冑はまた別の魂が、ん? もしや蒼海の死霊騎士か? 随分懐かしいものを纏っているのだな…………それに魔力も多いと見た。なるほど、団長はまた面白い拾い物をしたのだな」
俺を興味深そうに足の先から頭のてっぺんまでじっくりと観察しながら、一人喋り続ける船長。イモータルにはあまり見かけない落ち着いた男性のような雰囲気を纏っていると思ったが、実際そんな事はっと、そうだ。そんな事より今回の事だ。
「な、なあ、海賊達を騙してたのか? お前、海賊の取り纏め役なんだろ?」
「ああ、そうだ………しかし、私が団員である事をどうして知らないんだ? いや、君のような新人は知らなくて当然だ。しかし、数十年に一度は顔を合わせてるはずだ。共に酒を呑み交わした事のある、それにも関わらず私の事を知らない?」
「記憶が吹き飛ぶほど飲んでいるからだろう。それにしても、お前の方もどうして遅くなった。もっと早く海賊を集めてくれれば、仕事の期限に怯えなくて済んだ。色々あり過ぎて、私は酒に逃げてしまった」
「それは、すまない。私が思っていたよりも海賊の質が低下していた。集合を掛けてから、集まるまでに時間が掛かり過ぎた」
「ちょ、ちょっと待て! どうして海賊の纏め役のあんたが海賊を裏切んだよ!」
二人の会話に俺は割って入った。このままではサラと船長が普通に会話を始めてしまいそうで、俺の疑問は解消されない。どうして裏切るような行為をしたのか……イモータルは常識を知らないが、最低限の人道的思考はあると思っている。
その俺の問い掛けに船長が反応する。
「すまない。君の疑問を払拭できていなかったな…………まあ、疑問を抱く事ではないと思うがな。相手は海賊だぞ」
「海賊だから何だっていうんだ? 騙す……それも命を奪うんだぞ」
「その考えは強者の驕りだな」
そう俺に言葉を突き付ける。
驕り? この考えが?
至極当然の事だと思っていた俺には、その言葉は虚を突くものだった。反応ができずにいると、続けて船長は言う。
「君は……本当に最近イモータルに入ったのだな。そして急速に力をつけた。だが、頭はそれに追いついていないようだ。いいか? 騙した相手は海賊なんだ。人を殺し、財を奪う。中にはそれ以上に外道な行為をする海賊も居る。殺しても非難される事のない、むしろ称賛される。そんな相手を騙して何が悪いというのだ? おそらく君は力をつけた事で、海賊や善人である一般人を一括りに弱者と位置付けている。弱者と見下すのは構わない。驕る事も構わない。だが、弱者をせめて悪と善くらいには分けた方が良い。悪を見逃し、その悪が善を殺すのを目の当たりにする事になるぞ。長生きすれば目の当たりしても何も思わなくなるが、若い内にそんなものを見たら心が壊れかねないぞ」
…………滅茶苦茶、正論。
船長の話を聞いて、まずそのように思った。イモータルに入ってから、ここまで正論らしい話を耳にした事はなかったから衝撃的だった。
そして俺は今回の海賊の討伐に関しての詳しい話を聞くのだった。
あの幽霊海賊団の船長がイモータルの団員だとしたら、どうして戦っているんだ? いや、あいつらの事だから暇潰しに戦ったりするかもしれない。だが、今回は一般人を巻き込んでいる。
「他の海賊は知ってたのか?」
「そんなの知る訳ないだろ。知っていたら、のこのこと集まりはしない」
「お、おいおい、それじゃあ騙したって事かよ」
「確かにそうだ。だが、それの何が悪いんだ?」
「っ!?」
慌てて俺は背後を振り返った。そこに、いかにも海賊らしい髑髏が描かれた大きな帽子を被った、大柄だが、あまり筋肉はついておらず細身だ。そして肌は恐ろしいほどに白くまるで生気を感じさせない。風が吹けば倒れそうな見た目だが、どうしてだろう…………はっきりと強者であると分かる。
「初めまして……でいいな? 私はファントムの船長をしているゴーストだ。名前はとうに捨てているから船長とでも呼んでくれ」
「あ、ああ……」
「ふむ……それにしても、お前は面白いな。魂が二つ見える…………甲冑はまた別の魂が、ん? もしや蒼海の死霊騎士か? 随分懐かしいものを纏っているのだな…………それに魔力も多いと見た。なるほど、団長はまた面白い拾い物をしたのだな」
俺を興味深そうに足の先から頭のてっぺんまでじっくりと観察しながら、一人喋り続ける船長。イモータルにはあまり見かけない落ち着いた男性のような雰囲気を纏っていると思ったが、実際そんな事はっと、そうだ。そんな事より今回の事だ。
「な、なあ、海賊達を騙してたのか? お前、海賊の取り纏め役なんだろ?」
「ああ、そうだ………しかし、私が団員である事をどうして知らないんだ? いや、君のような新人は知らなくて当然だ。しかし、数十年に一度は顔を合わせてるはずだ。共に酒を呑み交わした事のある、それにも関わらず私の事を知らない?」
「記憶が吹き飛ぶほど飲んでいるからだろう。それにしても、お前の方もどうして遅くなった。もっと早く海賊を集めてくれれば、仕事の期限に怯えなくて済んだ。色々あり過ぎて、私は酒に逃げてしまった」
「それは、すまない。私が思っていたよりも海賊の質が低下していた。集合を掛けてから、集まるまでに時間が掛かり過ぎた」
「ちょ、ちょっと待て! どうして海賊の纏め役のあんたが海賊を裏切んだよ!」
二人の会話に俺は割って入った。このままではサラと船長が普通に会話を始めてしまいそうで、俺の疑問は解消されない。どうして裏切るような行為をしたのか……イモータルは常識を知らないが、最低限の人道的思考はあると思っている。
その俺の問い掛けに船長が反応する。
「すまない。君の疑問を払拭できていなかったな…………まあ、疑問を抱く事ではないと思うがな。相手は海賊だぞ」
「海賊だから何だっていうんだ? 騙す……それも命を奪うんだぞ」
「その考えは強者の驕りだな」
そう俺に言葉を突き付ける。
驕り? この考えが?
至極当然の事だと思っていた俺には、その言葉は虚を突くものだった。反応ができずにいると、続けて船長は言う。
「君は……本当に最近イモータルに入ったのだな。そして急速に力をつけた。だが、頭はそれに追いついていないようだ。いいか? 騙した相手は海賊なんだ。人を殺し、財を奪う。中にはそれ以上に外道な行為をする海賊も居る。殺しても非難される事のない、むしろ称賛される。そんな相手を騙して何が悪いというのだ? おそらく君は力をつけた事で、海賊や善人である一般人を一括りに弱者と位置付けている。弱者と見下すのは構わない。驕る事も構わない。だが、弱者をせめて悪と善くらいには分けた方が良い。悪を見逃し、その悪が善を殺すのを目の当たりにする事になるぞ。長生きすれば目の当たりしても何も思わなくなるが、若い内にそんなものを見たら心が壊れかねないぞ」
…………滅茶苦茶、正論。
船長の話を聞いて、まずそのように思った。イモータルに入ってから、ここまで正論らしい話を耳にした事はなかったから衝撃的だった。
そして俺は今回の海賊の討伐に関しての詳しい話を聞くのだった。
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