死なない奴等の愚行

山口五日

第97話 衝撃の事実

 幽霊船ではおそらくお見せできないほどの流血沙汰になっているに違いない。最初の一撃は仕方ないとして、次に繰り出した乱切りはマズいだろ。おそらくマヤが魔法を施して幽霊船に通用するようにしたつもりだったのだろうが、結果は傷一つ付いていない。傷付いたのは味方だけ。


 さすがにこれ以上はやらないだろう、そう思ったのだが博士がやって来た。


 …………これは団員達の身が危ない気がする。


 また先程のような乱切りを繰り出したら……まだ回復しきっていない団員が居れば幽霊船はミンチまみれになる。そんな事を思いながら幽霊船を見てみると、縁に誰かが立っていて、頭の上で腕を大きくクロスさせている。


 オッサンだ。なんとなくオッサンの言いたい事は分かる。「それ以上はやめろ!」だ。間違いない。


 クレアの攻撃のおかげで幽霊船では戦いが完全に止まっているようだ。


 幽霊船と同じく海賊達も効いていないのか、イモータルの団員達より元気そうだ。団員の腕や足と思われるものを持ち主のもとへと運んでいる。メッチャ良い人達だった。


 もう、これ戦わなくてもいいんじゃないか……。


 幽霊船で繰り広げられている血生臭くも、心温まる遣り取りに、そんな事を思っていると博士やマヤはクレアの包丁に何かしている。「やはり浄化の力を強めなければ……」「これを使えばーどんな頑固な幽霊でもー強制じょーぶつー」などと聞き取れた会話から、あまり宜しくない事をしている事に気付く。


(どうしますケルベロスさん)
「どうするって言ってもな……下手に手を出しても巻き込まれるのも嫌だし……」
(でも、このままだと……)
「あの二人、今は完全にどうすれば幽霊船にダメージを与えられるのかっていう好奇心で暴走状態だからな……正直関わりたくない…………あ、とりあえず止めてくれそうな奴が来たぞ」
(え?)


 一人の女性が海面を走り、急接近している事に気付く。眼鏡を掛けたイモータルで最も真面目な団員サラだ。


「何をしているんだぁ!」
「あーサラー」
「おおっ、サラくん、どうしたのかね?」
「どうしたじゃない! 味方を巻き込みまくってるじゃないか! というかクレア、お前もどうしてあんな事をした!」


 あんな事とは味方を幽霊船に居る団員を切った事だろう。確かにクレアはあまり常識外れな事はしないと思っていた。
 それが今回いったいどうして……。


「いやー悪い。一回目で効果ない時点でやめようと思ったんだけどさ、マヤがこれなら切れるって包丁に魔法を施してくれたから…………本当かなって試してみたくなっちまってね」
「試すな! しかも何度も振り回してたじゃないか!」
「ノリで」
「アホか!」


 ああ……やっぱりこの人もイモータルの一員なんだな……常識がぶっ飛んでやがる。
 料理の腕は確かでも、イモータルの団員。


 だが、ノリで味方を切り刻むという事に衝撃を受けながらも、サーペントと共に安堵する。サラが来てくれた事で三人の行為は止められた。これ以上幽霊船に居る団員は切り刻まれる事はない。


 だが、状況の変化はそれだけに留まらなかった。


「それに戦いはもう終わりだ。あとは幽霊船だけしか残ってないからな」
「ん? 幽霊船はいいのかい?」
「クレア、忘れたのか……」
「何を?」
「あの幽霊海賊団の船長はイモータルの団員だぞ」


 …………は?
 今、サラは何て言った? いや、ちょっと距離があるから聞き間違いかもしれない。うん、きっとそうに違いない。


 俺はサラに近付いて声を掛ける。


「おーいサラ」
「ん? ああ、ケルベロスか。どうした?」
「ああ、いや、ちょっと気になる事を耳にしてな」
「気になる事? 何だ?」


 まだクレア達に言い足りないようで、サラの口調は荒かったが、こちらの問いにしっかり答えてくれそうだ。


「いや、あの幽霊海賊団の船長がイモータルの団員だって聞こえたんだが……」
「ああ、そうだぞ」
「………………へ?」
「いや、だから、イモータルの団員だ。あの幽霊船の船長は」
「……………………」


 どうやら聞き間違いではなかった。
 幽霊海賊団の船長はイモータルの団員らしい。

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