死なない奴等の愚行
第86話 デュラハンvs蒼海の死霊騎士
「マヤくんっ!」
「防御は任せるよー」
デュラ爺さんの剣から黒い光が放たれた瞬間、博士とマヤは互いに声を掛けながら動く。
博士は収納魔法で取り出し装着した、指先から肘の辺りまで覆う白銀の籠手に包まれた右手を空へと掲げて起動させる。
「デウスブラッソ、起動!」
なんかいつもより格好いい名前の魔道具!? 普段なら○○くん、といった名前なのだが…………外見もまともだ。どういった心境の変化なのだろうと思いながら、デウスブラッゾの力を目の当たりにする。
博士がデウスブラッソを装備した腕を掲げながら叫ぶと、デウスブラッソが黄金色に輝き出す。そして博士の足下から徐々に黄金色の光が広がっていき、やがて船全体が黄金色の光を纏う。乗船している俺を含めて博士、マヤ、ユーリも、全身に黄金色の光を纏っている。
温かで気持ちが安らぐ光。だが、デウスブラッソの力はそれだけではない。デュラが放った光の一部が逸れ、船に向かって来たのだが、纏っていた黄金色の光がそれを受け止めてくれたのだ。
続いて魔術で船を海から浮かした。突然浮かび上がったので、全身が浮いて船から足が一時的に離れた。ユーリの忠告通りしっかり船に掴っておいて良かった。船はデュラの胴体と同じくらいの高さまで浮き停止する。海面から二十メートルくらいの高さだろうか。
こうして博士とマヤが一通りの作業を終えると、次の瞬間足下から爆音が轟き、衝撃が襲って来て船を大きく揺らす。船や俺達を包んでいるデウスブラッソの光が少し散ったようにも見える。
「な、何が……」
音と衝撃の発生源と思われる船の真下、海を確認しようと恐るおそる船のへりから顔を出して見ようとしたが…………海はなかった。
「何だ、これ……」
真下に広がっているはずの青い海は消失していた。まるで、そこだけをくり抜いたかのように海は消え、海底が丸見えとなっている。どうやらデュラ爺さんの胴体が放った黒い光は、一部の海を焼失させるほどの威力だったようだ。これほどの威力のものが海面に接触する際に、船が宙ではなく、海に浮いたままだったらどうなっていただろうか。博士とマヤは危険を察知して動いたのだろう。
「間に合ってよかったなっ!」
「そうねー。借り物の船なんだからー、サラが正気に戻った時にー怒られちゃうものー」
「ああっ! まあ普段使わない傑作の内の一つを使ったのだから、船に傷がつくなどありえんがねっ!」
「借り物だから大事にしないとねー」
……もし借りた船でなかったら違ったのだろうか。借り物であろうがなかろうが、ちゃんと対応してくれよ。頼むから。
いや、そんな二人の会話よりも気にすべき事がある。
徐々に周囲の海水が失った部分を補填しようと押し寄せていくが、また元の海面に戻るまでに僅かだが時間が掛かる。その僅かな時間で、海底に居るものの姿を視認できた。長い年月、海底に沈んでいた事を伺わせられる海藻や貝などが付着した青い全身甲冑。いや、中身もある。青い甲冑からデュラ爺さんに似た死の気配を感じた。
海が再び青い甲冑の姿を飲み込もうとした時、デュラ爺さんの胴体は俺が瞬きをした隙に間合いを詰めて斬り掛かった。それに青い甲冑は反応して、腰の剣を抜こうとする。そこまで見えていたのだが、海は二人の姿を飲み込んでしまった。
だが、元の海面を取り戻したものの、時折何十メートルにも及ぶ水飛沫が上がる。
海中でデュラ爺さんが青い甲冑と戦っているようだ。
「な、なあ、あの青いのって何なんだよ?」
「私は知らないわー。博士は知ってますー?」
「知らんなっ! 魔道具であれば古今東西あらゆる魔道具を知っていると胸を張って言えるが、あれは魔道具ではないっ! あれはモンスターの類だっ!」
「あ、そういえば……」
ユーリが思い出したように手を打ち鳴らした。
俺、マヤ、博士の三人の視線を集めたところでユーリは話し出す。
「実は五百年くらい前かな……私が生まれる少し前くらい。その時にね、丸一年海が荒れた時があったらしいの。原因は分からないんだけどね……嵐でもないのに海が突然荒れて、多くの船が沈んだ。人間の歴史が始まってから、これまで海で亡くなった人の半分以上はその年に亡くなった数って話よ。そして短期間で、海で亡くなった人が膨大な数に膨れ上がった結果、海に残留する僅かな人の魂が集まって一体のモンスターを生んだの。その名前は蒼海の死霊騎士。海を操り、海で亡くなった人々の負の念を糧として、破壊の限りを尽くすモンスター……さっきの大きくて硬かったのって封印だったんだ……」
ユーリの話を聞いた限りだと滅茶苦茶強そうなモンスターだ。そんなモンスターを相手にデュラ爺さん一人で大丈夫なのっ!? …………お、おおうっ!?
デュラ爺さんの事が心配になっていると、船の高度よりも高く飛沫が上がった。その飛沫の中に小脇に首を抱えてアッパーをかますデュラ爺さん。そしてアッパーをくらってヘルメットを大きくへこませた蒼海の死霊騎士が居た。
…………デュラ爺さんはどうやら大丈夫そうだ。
あの最年長者に心配は不要だった。
「防御は任せるよー」
デュラ爺さんの剣から黒い光が放たれた瞬間、博士とマヤは互いに声を掛けながら動く。
博士は収納魔法で取り出し装着した、指先から肘の辺りまで覆う白銀の籠手に包まれた右手を空へと掲げて起動させる。
「デウスブラッソ、起動!」
なんかいつもより格好いい名前の魔道具!? 普段なら○○くん、といった名前なのだが…………外見もまともだ。どういった心境の変化なのだろうと思いながら、デウスブラッゾの力を目の当たりにする。
博士がデウスブラッソを装備した腕を掲げながら叫ぶと、デウスブラッソが黄金色に輝き出す。そして博士の足下から徐々に黄金色の光が広がっていき、やがて船全体が黄金色の光を纏う。乗船している俺を含めて博士、マヤ、ユーリも、全身に黄金色の光を纏っている。
温かで気持ちが安らぐ光。だが、デウスブラッソの力はそれだけではない。デュラが放った光の一部が逸れ、船に向かって来たのだが、纏っていた黄金色の光がそれを受け止めてくれたのだ。
続いて魔術で船を海から浮かした。突然浮かび上がったので、全身が浮いて船から足が一時的に離れた。ユーリの忠告通りしっかり船に掴っておいて良かった。船はデュラの胴体と同じくらいの高さまで浮き停止する。海面から二十メートルくらいの高さだろうか。
こうして博士とマヤが一通りの作業を終えると、次の瞬間足下から爆音が轟き、衝撃が襲って来て船を大きく揺らす。船や俺達を包んでいるデウスブラッソの光が少し散ったようにも見える。
「な、何が……」
音と衝撃の発生源と思われる船の真下、海を確認しようと恐るおそる船のへりから顔を出して見ようとしたが…………海はなかった。
「何だ、これ……」
真下に広がっているはずの青い海は消失していた。まるで、そこだけをくり抜いたかのように海は消え、海底が丸見えとなっている。どうやらデュラ爺さんの胴体が放った黒い光は、一部の海を焼失させるほどの威力だったようだ。これほどの威力のものが海面に接触する際に、船が宙ではなく、海に浮いたままだったらどうなっていただろうか。博士とマヤは危険を察知して動いたのだろう。
「間に合ってよかったなっ!」
「そうねー。借り物の船なんだからー、サラが正気に戻った時にー怒られちゃうものー」
「ああっ! まあ普段使わない傑作の内の一つを使ったのだから、船に傷がつくなどありえんがねっ!」
「借り物だから大事にしないとねー」
……もし借りた船でなかったら違ったのだろうか。借り物であろうがなかろうが、ちゃんと対応してくれよ。頼むから。
いや、そんな二人の会話よりも気にすべき事がある。
徐々に周囲の海水が失った部分を補填しようと押し寄せていくが、また元の海面に戻るまでに僅かだが時間が掛かる。その僅かな時間で、海底に居るものの姿を視認できた。長い年月、海底に沈んでいた事を伺わせられる海藻や貝などが付着した青い全身甲冑。いや、中身もある。青い甲冑からデュラ爺さんに似た死の気配を感じた。
海が再び青い甲冑の姿を飲み込もうとした時、デュラ爺さんの胴体は俺が瞬きをした隙に間合いを詰めて斬り掛かった。それに青い甲冑は反応して、腰の剣を抜こうとする。そこまで見えていたのだが、海は二人の姿を飲み込んでしまった。
だが、元の海面を取り戻したものの、時折何十メートルにも及ぶ水飛沫が上がる。
海中でデュラ爺さんが青い甲冑と戦っているようだ。
「な、なあ、あの青いのって何なんだよ?」
「私は知らないわー。博士は知ってますー?」
「知らんなっ! 魔道具であれば古今東西あらゆる魔道具を知っていると胸を張って言えるが、あれは魔道具ではないっ! あれはモンスターの類だっ!」
「あ、そういえば……」
ユーリが思い出したように手を打ち鳴らした。
俺、マヤ、博士の三人の視線を集めたところでユーリは話し出す。
「実は五百年くらい前かな……私が生まれる少し前くらい。その時にね、丸一年海が荒れた時があったらしいの。原因は分からないんだけどね……嵐でもないのに海が突然荒れて、多くの船が沈んだ。人間の歴史が始まってから、これまで海で亡くなった人の半分以上はその年に亡くなった数って話よ。そして短期間で、海で亡くなった人が膨大な数に膨れ上がった結果、海に残留する僅かな人の魂が集まって一体のモンスターを生んだの。その名前は蒼海の死霊騎士。海を操り、海で亡くなった人々の負の念を糧として、破壊の限りを尽くすモンスター……さっきの大きくて硬かったのって封印だったんだ……」
ユーリの話を聞いた限りだと滅茶苦茶強そうなモンスターだ。そんなモンスターを相手にデュラ爺さん一人で大丈夫なのっ!? …………お、おおうっ!?
デュラ爺さんの事が心配になっていると、船の高度よりも高く飛沫が上がった。その飛沫の中に小脇に首を抱えてアッパーをかますデュラ爺さん。そしてアッパーをくらってヘルメットを大きくへこませた蒼海の死霊騎士が居た。
…………デュラ爺さんはどうやら大丈夫そうだ。
あの最年長者に心配は不要だった。
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