死なない奴等の愚行

山口五日

第77話 酒に逃げることも時に必要。迷惑を掛けたら駄目だけど。

 俺が意識を取り戻したのは港にあるとある宿の一室だった。


 サラが海を走って「おかえり」と出迎えてくれたのは覚えているが、どうして意識を失ったのかは覚えてない。はて? いったい何が…………いや、何故か分からないが、思い出さない方が良い気がする。


 俺は思い出すのをやめてベッドから起き上がり、部屋を出た。


「お、目が覚めたのか? 久し振りだな」
「ん。ああ。久し振り…………どうしたその恰好は?」


 部屋を出ると、何度か会話をしている団員の男と通路で遭遇した。
 なぜか男はボロボロだった。大きく破れていたり、傷は塞がり掛けているが腕などに裂傷が見られた。


「実はお前と同様に二日くらい前まで海を漂っていてな……」
「ああ……酔った勢いで飛び込んだ、ば……一人か」
「今、馬鹿って言おうとしたよな? お前だって飛び込んだ馬鹿の一人だろうが」
「違う! 一緒にするな! 俺は飛び込まされたんだ!」


 一緒にされたくない。俺は被害者で自ら飛び込んだ馬鹿とは違う。


「だけど、二日前に戻って来たんだろ? どうしてそんなにボロボロのままなんだ。着替えたらいいだろ」
「ん? 違う違う。これは漂流でボロボロになった訳じゃない。さっきまでずっと行方不明の奴等を捜索してたんだ」
「それでボロボロに?」


 捜索中に海賊とでも遭遇して戦ったのだろうか。
 海に飛び込んだりするだけなら、ここまでボロボロにはならないだろう。だが、男は首をゆっくり横に振って否定した。


 それならどうしてここまでボロボロになるのだろうか。
 俺は首を傾げていると男はどうして分からないんだとばかりに、眉を顰めた。


「お前もサラの洗礼を受けたら分かるだろ?」
「洗礼?」


 男の言っている事がよく分からなかった。全く記憶に、うっ……何か思い出しそうな気がする……だけど思い出したくない……そんな気がする。


「どうした?」
「い、いや……大丈夫だ。それより洗礼って、何だ?」
「ん? 洗礼を受けていないのか? 洗礼を受けて意識を失った状態で運ばれたって聞いたが……」
「いや、覚えてなくて」
「お前、ここに来た時も記憶喪失じゃなかったか? お前の頭、大丈夫か? まあ、いいや。ここ最近捜索の方にも団員を回しているおかげで、依頼を満足に受けられないんだ。そのせいでサラはストレスが溜まりに溜まって……」
「溜まって?」
「酒に逃げた」
「かなり切羽詰まってるな!?」


 サラは確かに酒を飲むが、酒が好きという訳ではなかったと思う。そんな彼女が酒に逃げるなんてよほどストレスが溜まっていたのか……。


「まあ、サラが酒に逃げるのは年に二回くらいはある事で珍しくないんだが」
「恒例になっちゃってるなら彼女に頼りきりの状況をどうにかしろよ!?」


 男の言い方からして、酒に逃げるようになったのはここ一、二年の話ではなさそうだ。何十年、下手すると何百年と、酒に逃げたくなるほどストレスを抱えているのかもしれない。


 オッサンどうにかしてやれよ……。
 サラが可哀想だ、と思っていると男は急に神妙な顔つきになって口を開く。


「サラが酒に逃げた時は団員全員が彼女を全力で押さえにかかる。あいつは酒を飲み過ぎると暴走するんだ。ところ構わず暴れる……自ら好き勝手に歩き回っては暴れるんだ。まるで嵐のようにな。お前見なかったか? 団員を船に叩きつけたり、殴ったりするのを」
「あー……」


 確かに見た。なるほど、あれは酒に酔っての行動だったのか。
 年に二回くらいとの事なので、普段イモータルとは離れているユーリは知らなかったのだろう。


「あの暴走は、一週間は続くからな……。俺も戻ってきて早々に『飛び込みやがって! 馬鹿が!』とボコボコにされた」
「大変だったな……」
「いや、俺は別に。大変なのはケルベロスの方だぞ」
「へ?」
「だって、団長が言ってたぞ。ケルベロスにはサラを押さえる担当に回って貰うって」
「………………は?」


 最初言葉の意味が分からなかった。意味が分かると、俺は再び海に飛び込んで失踪してやろうかと真剣に検討していた。

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