死なない奴等の愚行

山口五日

第71話 しょうもないことが原因かと思ったが、とんでもないことが起きていたようで

「二十七……それぐらいで済んで良かったと思うべきなのか……」


 あの連中の事だ。もっと大勢が飛び込んでいてもおかしくない。そう思い、ポロっと口から出た言葉なのだが、ユーリが神妙な顔つきで頷く。


「本当にねぇ。あれで二十七人しか行方不明にならないなんて良かったわ」
「…………どういう事だ?」
「言葉通りだよ。二人が原因だけど、それはきっかけに過ぎなかったみたいよ。サラから聞いた話はまだ続きがあってねぇ」


 俺とフェルが飛び込んだ後に何かあったようだ……。そして、それが二十七人しかと言った理由でもあるらしい。いったい何があったのか……俺は早く教えてくれと視線で訴えた。


 ユーリは一つ呆れた様子で溜息を吐いてから語り出す。


「二人が飛び込んで、それに続くように団員達は飛び込んでいってね。百人近くは飛び込んだって言ってたわ。でも、正直それだけなら、これだけの数が行方不明になる事はなかった。だけどね……」
「いったい何があったんだ……」
「喧嘩」
「……は? 今、何て言ったんだ?」
「喧嘩」


 正直、最初に聞いた時から「喧嘩」と聞こえていた。だが、理解はする事はできなかった。どうして喧嘩で二十七人もの団員が行方不明になったんだ?


「……言葉は聞き取れたと思う。だけど意味がまるで分からない」
「察してよぉ。これ以上身内の恥を晒すような事はしたくないし」
「いや、俺も身内のその一人なんだから教えてくれよ」


 そう俺が言うと渋々ながら詳細にユーリは語り出す。


「……酔っ払って上手く泳げないでしょ」
「ああ」
「そしたら思わず近くに居る人を思わず掴むんだよ。そしたら、まあ……『掴むんじゃねえ! 沈むだろ!』バキッ! 『痛っ! 何すんだよ!』ボコッ! 『てめえ! この野郎!』ボコスカ! …………といった感じで喧嘩が始まって、最初は二、三人でやってた喧嘩が規模も大きくなって、全体的に沈みながらの取っ組み合いにぃ」
「…………」


 もう……何と言うか…………うん……「馬鹿じゃねえの!」の一言に尽きる。


「で、決定的なのが」
「まだあるのかよ!?」


 醜い溺死覚悟の喧嘩が行方不明者を多数出した最大の原因だと思ったが、まだあるらしくユーリは顔を苦々しい顔をして語る。


「いやぁ、実は沈んでいく皆を海から浮かせようとマヤが魔法を使ったらしいんだけど…………魔法が暴走しちゃったらしくて…………うん、力を入れ過ぎちゃったって彼女は言ってるみたい」
「暴走? 暴走して何が起きたんだよ?」
「海が持ち上がった」
「おぉん?」


 海が持ち上がるというスケールのでかさをうかがわれる言葉が出て来て、思わず変な声が出てしまった。海が持ち上がるって……どういう事?


 言葉足らずとユーリも思ったのか詳しく説明する。


「えっとね……沈んだ団員と一緒に、目に見える範囲の海が持ち上がったみたい」
「目に見える範囲って……」


 話を聞いて俺はふと海の方を見た。


 海は広いし、大きいし……目に見える範囲というと、かなり広い範囲……いや広いなんて言葉では足らない。広大? 無限大? もうなんて言い表したらいいのか分からない。改めてマヤの魔法の力は凄まじい事を理解した。そしてサラが暴走を恐れていた事もよく分かった。街が一つ滅ぶと言ったのも決して比喩ではないんだな……。


 俺が魔法の暴走の規模に呆れていると、ユーリは話を続ける。


「十メートル以上の高さまで海が持ち上がって……マヤもマズいと思ったのか、慌てて魔法を使うの止めたんだけど、そうなると海は落下した衝撃で搔き乱されて、陸の方に押し寄せて来たり……。今度は海が陸に押し寄せて来ないように、波打ち際に沿って魔法を使ったりして……それは暴走しなかったのは良かったんだけど……。海が搔き乱された結果、沈んでた団員たちは散り散りになったって」
「そんな事があったんだな……」


 もしかすると意識を失っていて気付かなかっただけで、俺もそれに巻き込まれたのかもしれない。それであの砂浜だけの島に打ち上げられて……マヤ、恐るべし。ジレドラの一件で彼女の凄さは分かったつもりだったが……。


 呆気に取られながらも、何があったのか把握する事ができた。今度はこれからの事をユーリと話し始める。

コメント

コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品