死なない奴等の愚行

山口五日

第68話 一瞬最善の手段だと思って安堵するけど、実は悪手であることあるよね

 海藻で腹を満たし、喉の渇きを意識しないようにして夜を迎えた。
 辺りが暗くなってしまえば灯りはないので何もできない。無駄に体力を消費するのも勿体ないので、すぐに寝た。


 だが、まだ日も昇らない暗闇の中で俺は目を覚ました。


 こんなところで横になっていたので眠りが浅かったおかげだろう。すぐに違和感に気付く事ができたのだ。


「何だ……?」


 体が冷たい……というか濡れていた。
 上半身を起き上がらせようと、手を砂浜の地べたにつこうとするとザラザラとした砂の感触ではなく、バシャッという水の感触だった。


「まさか!?」


 跳ね起きて周りを確認してみる……ああ! 暗くて分からない!
 だけど足下が水、海水で浸っているのは分かる。


「まさか……この島、沈むのか?」


 口にした最悪の事態。もしかすると昼間は潮が引いて陸地ができるけど、夜になると潮が満ちて陸地がなくなってしまうとか……。


 そうなれば泳ぎを知らない俺は確実に溺死。いや、しなないが溺死間際の状態で海を漂う事になる。


「おいおいおい! どうすればいいんだよ!?」


 俺はそのように叫ぶが、誰も答えてくれる人は居ない。
 こんな事なら明るい内に独学でも泳ぎ方を学ぶべきだった! せめて浮き方を!


 だが、後悔しても遅い。分からないが、こうしている間にも徐々に海面は上がっているのだろう。こうなったらイチかバチか泳いで移動を……。


 そう思い、昼間から海であった深い場所に足を向けようとしたところ、僅かに残っていた理性が俺を冷静にさせる。


「……陸地が沈んだとしても、俺の頭まで海面が上がるとは限らないのか」


 そうだ。例え、潮が満ちて海面が上がっても、俺の全身が沈むほど海面が上がるなんて事はないだろう。立ってさえいれば、再び潮が引くまで耐えられるかもしれない。わざわざ泳げないのに、イチかバチか泳いで移動なんて博打に体を張らなくていいのだ。


 良し、そうと分かれば…………いや特に何もやる事はないか。
 やる事といっても、寝ないようにするくらいだ。


 こうして俺は潮が満ちていくのをジッとその場で見守った。


 …………。


 ……………………。


 …………………………………………。


 ……あれから何時間経っただろうか。


 結論から言おう。
 大ピンチだ。


 現在、海面は俺の顎に触れていた。しかも、まだまだ海面が上昇しているようだ。


 最初は座っていて余裕だった。肩まで上がって来て、「そろそろ立つかー」と思って立ち上がる。そして、暫くすると立った状態で胸まで上がって来て「うんうん、まだ大丈夫」と思った。そして顎に触れるほどになると「あ、ヤバい!」とようやく危機感を覚えた。


 潮の満ち引きでこんなに水位って変わるもんなの!?
 マジでヤバいぞ!?


 だが、水に浸かっていて水に慣れたおかげか、どうにか浮かぶくらいはできる。だが、とても泳いで移動は不可能だ。それに暗くてどっちに昼間に見た陸地があるのか分からない。


 さて、俺の理性も打つ手なしとお手上げ状態なのか、この状況をどうにかする手段が全く思いつかない。人間、本当にお手上げだと分かると、どうしてだろう? かえって冷静になれてしまう…………あ、そうか。諦めたのか。


 どうやら俺の理性は俺に諦めろと告げているらしい。


 ……理性諦めるなよ! なんかあるだろ? ほら、捻り出せよ!


 …………あ、駄目だ、状況を打破する手段が全く浮かばない。うん、理性駄目だ。


 使えない理性め……こんな状況に結局なるんだったら最初から引っ込んでろ! 「ここでジッとしていれば助かるんだ!」って希望を抱かせて、そこから突き落とされた俺の気分は最悪だ、畜生!


 理性に対して、怒りをぶつける間にも海面は上昇していた……。


 それを止める術を持ち合わせていない俺は、やがて鼻まで海面が上昇すると、暫く浮かんで耐えていたが力尽きて沈んだ。


 溺死なりかけ状態で長い時間を海で漂っていると、体に貝とか海藻が住み着きそうで嫌だなぁ……なんて事を考えながら俺は意識を失ったのだった。

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