死なない奴等の愚行

山口五日

第66話 青い海、青い空、白い砂浜に降り注ぐ太陽しかねえ!

「んっ……んん……」


 どうやらいつの間にか寝てしまったらしい。
 フェルとカーシャに付き合ってお酒を飲んでいたから酔い潰れてしまったのか……。


 ゆっくりと目を開けると同時に意識を覚醒させていく。酒によって鈍っている五感も冴えて来る。聞こえて来る波の音、照り付ける太陽、全身で感じる細かい砂の感触…………あれ? 昨日の宴の会場は砂浜ではなかったはずだ。どういう事だ?


 体を起こして周囲を見てみる。


 すると俺は何処か分からぬ砂浜、もっと言うと波打ち際で、押し寄せて来る波に全身を濡らした状態で寝ていたようだ。


「……は?」


 砂浜というだけなら酔っ払って、こんなところまで来てしまったんだろうと溜息一つくらいで済ませられる。だが、とても溜息一つでは済ませられない。右を見ても砂浜、左を見ても砂浜、四方八方砂浜、砂浜から先は海のみ。


 俺は砂浜だけの島に居た。


「……どうなってんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 自分の置かれている状況を理解して絶叫するが、答えてくれる人は誰も居ない。


 お、落ち着け。どうしてこんなところに居るのか、冷静に思い出せ……。


 意識を失う前、フェルとカーシャが酒をどんどん飲むものだから、お前も飲めとユイカとクレアに勧められ仕方なく飲んでいた。だが、ユイカとクレアのペースに強制的に付き合う事になって、あっという間にダウン。


 それから…………ああ、そうだ。俺が横になりたくて、足に乗っているフェルとカーシャにどいて欲しいと頼んだんだ。するとフェルが「眠いのぉー? じゃあさ、体を、動きゃせばひいんらよ!」と言い出し、首根っこ掴まれて引きずられた。いったい何処へ行くのやらと、酔いがすっかり頭と体を侵していて抵抗できずに、なすがまま。


 そして辿り着いたのは様々な船が停まっている桟橋。フェルは桟橋の上を駆け、やがてその先端まで辿り着くと「ダーイブッ!」とご機嫌な様子で俺もろとも海へ飛び込んだ。


 …………それからの記憶はない。


 おそらくだが、酒のせいでまともに体が動かせずに意識を失った俺は、不死身だから溺死は免れたものの流されて、この島に辿り着いたのだろう。


 冷静に自分の置かれている状況を理解しても、解決には至れなさそうだ。それどころか状況が最悪な事を認識してしまって絶望しかない。これからどうするよ……。


 立ち上がり、改めて周囲を見渡す。
 うん、見事に砂しかない。海を挟んで同じような砂のみで構成された島だったり、木々が生い茂る島もあるが、人が住んでいるか怪しい、無人島の雰囲気を纏っている。俺が元々居た陸地は周囲にはないと断言できる。


 これは……どうしようもないな。


 詰んだと諦めて、再び横になって地面に四肢を投げ出す。


 いやいや前向きに、ポジティブに考えるんだ。オッサンの傍に居なくても不死の力は健在だ。不老の力は働くなるが問題ない。とりあえず死ななければいいのだから。それに俺が居なくなった事が分れば、捜索してくれるはず…………捜索してくれるよな?


 死なないんだからオールオッケーな一般常識を持ち合わせていなさそうなイモータルの団員達でも、さすがに団員一人が居なくなれば探してくれる! うん、きっと探す! 凄い探す! 草の根とか、海藻の根を必死に掻き分けて探してください、お願いします!


 人が一人居なくなった事に対して、事態を重く受け止めてくれる事を切に願う。


 イモータルが探してくれる事を祈りながら、俺は今後どうするか考える。このような砂浜しかないところに居ては降り注ぐ日の光から逃れる事はできない。今は特に暑い時期だ。日に晒されているだけで体力が奪われていく。


 ここに居ては死なないが辛い。そう思って木々が生い茂る他の島へと目を向ける。


 あそこなら雨風も防げる場所や食料になりそうな木の実がありそうだ。


 こうして俺は別の島への移動を決意した。

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