死なない奴等の愚行

山口五日

第54話 賞金首になってしまったようだ

「俺に懸賞金が……いや、でもおかしいだろ!」
「ん? 何がだ?」
「だって敵は全滅させたはずだろ? どうして俺があの戦場に居て戦っていたなんて分かるんだよ?」


 そうだ。例え敵兵が多少生き残っていたとしても、俺の近くに居た兵はあの魔法の嵐で生き残れるはずがない。生き残っているのは離れたところに居た奴だろう。それなら俺の顔なんて見ていないはずだ。


「そんなの敵じゃなかったからに決まってるだろ」
「は? つまり味方に居たって事か?」
「いや、そうじゃねえ。裏の懸賞金を取り纏める組織があってな、その人間が戦場を見ていたんだ。あいつらは何処にだって居る。今この場にだって居るかもしれんな」


 そう言ってダンはぐるりと辺りを見渡した。俺もつられて周囲を見てみる。
 広場の周りにはイモータルの打ち上げを見ている人でいっぱいだ。この中に裏の懸賞金を取り纏める組織の人間が居るかもしれない……。


「そ、そんなの野放しにしていいのか? 危ないんじゃ……」
「別に危なくはねえな。あいつらは裏の懸賞金を管理するだけだ。俺達を殺そうとしている訳じゃない……ま、殺せないだろうが」


 本当に気にしていないらしく、俺を囲んでいる酒の入ったグラスを手にしては飲み干していく。まるで水のように飲んでいくので、次々とグラスは空になっていった。負担が軽くなるので嬉しいが、今はそんな事を喜ぶよりも懸賞金の方が気になる。


「それで俺ってどれくらいの額がついてるんだ?」
「ん? 気になるか?」
「そりゃあな。自分の首に値段がついているんだ。気にならないっていう方ががおかしいだろ」
「まあな。えっと……」


 収納魔法で宙に黒い穴を広げると、そこに手を突っ込んですぐに引き抜いた。
 その手には一枚の用紙が握られている。


「これが手配書だ」
「どれどれ…………!?」


 受け取って見てみると驚いた。驚きのあまり目をこれでもかと見開いた。


「こここここれ、誰だよ?」
「誰って、お前に決まってるだろ」
「いやいや! これ間違いなくモンスターだろ!」


 その手配書にはこう書かれていた。


 不死身の傭兵団イモータルの新団員、ケルベロス。
 頭から角を生やし、腕は細長い筒状のものになっており先からは魔法を放つ。そして周囲の人間をたちまち肉片に変えるほどの威力の爆発を起こし、また毒を吐く。特に恋人同士に対して容赦はない。カップルが出会えば最後、殺されるであろう。
 この度、裏懸賞金取り締まり委員会では最重要危険人物として登録し、一億ジェンの懸賞金を懸けるものとする。


 そんな説明書きと共に絵が描かれている。
 おそらく俺の事を描いているのだろうが、その絵はモンスターだった。俺の姿を遠くから見たのか、魔道具を体の一部と認識されてしまっている。


 うん、こんなのと出会ったらすぐに逃げるべきだ。
 小さい子供が見たら泣くぞ、これ。


 自分のまるで似ていないイラストを見て溜息を吐く。


「はあ……それにしても一億ジェンってかなりの額じゃないか?」
「ああ。そうだな。いくら不死身でも普通は一千万ジェンくらいだ。だが、先の仕事でお前はかなりのインパクトを残したからな。それに情報が少ないからな。過剰にお前を危険視しているようだ」
「危険視って……俺は何もしないぞ」
「何もしなくても怯える奴は居るんだよ。だからこそ最重要危険人物に認定されてるんだ」


 最重要危険人物か……全く聞き慣れない言葉だ。裏の世界の事だからか、いくら自分の心の中でその単語を繰り返しても応答はない。


「その、最重要危険人物ってなんだ?」
「ん? ああ、えっとな裏の懸賞金は下から低級危険人物、中級危険人物、上級危険人物、重要危険人物、最重要人物と分けられているんだ。そして一番上の最重要危険人物にされたんだよ、お前」
「おおう……」


 勘弁してくれよ……。
 俺は不安を払拭するかのように酒を一気に煽った。


 それからはハイペースで酒を飲んでしまって、意識をいつの間にか失い覚えていない。残念ながら懸賞金を懸けられたという事実は忘れなかった。正直夢の出来事であるかのように忘れてしまって欲しかった。



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