死なない奴等の愚行

山口五日

第51話 全裸二人

「よお」
「…………」


 意識を取り戻すと視界いっぱいにオッサンの顔があった。最悪の目覚めだ。


「おいおい寝るなよ。もう終わったんだから帰ろうや」


 不快な目覚めをなかった事にしようと再び目を閉じようとしたのだが、体を揺すられて起こされる。仕方ない起きるか……。


 上半身を起こすと、目の前にオッサンの股間があった。


「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「おいおい、どうした? まるで変質者を見つけた生娘みたいな声を上げちまって」


 悲鳴を上げながら全力でオッサンから離れた。
 オッサンは衣服を何も身に着けていない状態で、酷く見苦しい姿をしていた。


 誰得のサービスシーンだ、おい。




「怖い夢でも見たのか?」
「近付くな! プラプラ揺らすな! 隠せ!」


 股間のものを揺らしながら、近付いて来るオッサンは呆れた様子で肩を竦める。


「隠せって……同性なんだから恥ずかしがる事はないだろ」
「恥ずかしい訳じゃない! 見ていて不快だから隠せって言ってんだ!」
「不快って……お前も全裸のくせに何を言ってんだよ」
「全裸って……あ、本当だ!?」


 俺もオッサンと同じように全裸だった。博士に渡された魔道具もなくなっている。


 少し肌寒いなと思ったけど……どうして裸なんだ?
 この疑問に対して俺は答えへと導く為に思考を巡らせるが、ある一つの答えが出て凍り付いてしまう。


「ん? どうしたケルベロス? 急に顔色が悪くなったようだが?」
「…………オッサン、まさか」
「おい、変な想像はやめろ。自分の体を抱き締めるな、気持ち悪い」


 俺が意識を失っている間にオッサンが何かをした訳ではないのか。
 良かった、最悪の状況ではないようだ。


 じゃあ、どうして俺とオッサンは裸なんだ?


 俺の疑問にオッサンは口を開く。


「色んな魔法を浴びたからな。いや、体が例え無事でも服は消し炭だろ」


 ああ、そうか。
 確かにあれだけの魔法を受ければ服は耐えられないか。体がいくら再生しても、服までは再生できないだろうし…………って、そうだ!


「おい! あれは無茶苦茶だろ! 触手の時点でおかしいと思ったけど、最後のは酷過ぎる!」
「最後のって魔法か? はっはっは魔法の嵐だ。凄かったろ?」
「凄かったよ! おかげで巻き込まれちまった!」


 光の触手がなくても、きっと俺はあの魔法の嵐でやられていたに違いない。この見渡す限り荒廃した大地を見れば分かる。魔法によって焼かれ、抉れ、毒されてしまった大地で、こうして生きているのは不死身だからだ。


 よく見ると、ところどころに敵兵の姿はあるが欠損のない死体は少ない。
 普通の人間がこの場に居たら確実に死んでいる。


「いい加減慣れろよ。死ぬ事はないんだから多少の無茶苦茶はやるさ。おかげで敵兵は全滅。暫くは敵さんが攻めて来る事はないだろうよ……それにしてもケルベロス」
「何だよ?」


 まだ魔法に巻き込まれた事は納得していないが、オッサンに何かを語ろうとしていたので一度その事は置いておく。


 オッサンは珍しく真剣な表情で口を開く。


「……お前は、これからも傭兵としてやっていけるか?」
「ん? どういう事だ? やっていくも何も不死身になったんだから、イモータルからは離れられないだろ」
「それはそうなんだが……あー、そのな、お前に人を殺せるかって思ってな。さっきはバンバン殺せていたようだが…………なんだか異常な精神状態のように見えたぞ。お前、快楽殺人鬼とかじゃないよな?」
「いやいやいや、いくら記憶を失っていたとしても、そんなサイコパスじゃないって事は断言できるぞ」


 確かに戦場で俺は何十人もの人を殺したが、その行為が楽しいという事はなかった。リア充を殺してスッキリはしたけど。


 それに自分を殺そうとする奴だ。無抵抗な相手ならまだ分かるが、自分の事を殺そうと向かって来る相手を殺す事に躊躇いを覚えていたら自分の身が危ない。


「……記憶を失っていたのが良かったのかもな」


 その時、オッサンはなぜか安堵したように顔を綻ばせた。

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