死なない奴等の愚行

山口五日

第32話 クンカクンカしてるのを目撃しました

「ふうっ……」


 熱過ぎず、温過ぎず。良い塩梅の温度の湯は何度も死にかけた俺の体を癒してくれる。このままずっと浸かっていたい。マリアの場合は度が過ぎていたが、長風呂してしまう気持ちは分かる。


「マリアか…………良いおっぱいだった」


 先程から風呂でまったりしながら、マリアのおっぱいが頭から離れなかった。普段は色白な肌が、火照っていたのが余計に魅力的に見え、素晴らしいおっぱいだったので脳内での会議の結果、永久保存を至った。


 不老不死になってダンの訓練を受けて気付いたのが、死ねない辛さだ。いくら苦しんでも、いくら死にたいと嘆いても、死という、この世から脱する手段は取れず、永遠に現実からは逃れられない。今回の訓練でその辛さを骨の髄まで味わった。


 だが、俺は不老不死の辛さと共に素晴らしい発見をした。


 先程マリアのおっぱいを見て気付いたのだが、老いないという事は、おっぱいは最高なまま永遠に残り続けるという事だ。他の団員は分からないが、少なくてもマリアの素晴らしいおっぱいは、歳を取るにつれて共にボリュームや瑞々しさが失っていく事はない。


 不老不死、なんて最高なんだ!


「……ん?」


 不老不死の美点に気付いて気分が良くなっていたが、ふと脱衣所から聞こえた物音に気付いた。気のせいではなく、誰かの声が微かにだが聞こえる。だが、声は一人分だけだ。おそらく機嫌が良いのか、鼻歌交じりに服を脱いでいるのだろう。


 一人風呂を充分に満喫した事だし、そろそろ出るか。


 次なる入湯者に一人風呂を譲ってあげようと、浴槽から立ち上がって脱衣所へと通ずる扉を開けた。


「クンクンクンクン……ふわぁ、やっぱり良い匂いだなぁ」
「…………」


 扉を閉めた。


 ……いや、なんか変なものを見た気がしたんだ。うん、目の錯覚である可能性は充分にある。今日はダンに刺されたり、斬られたりで何度も死にかけては復活し、死にかけては復活のハードな一日だった。精神的に疲れているのかもしれない。きっと疲れてる。だから扉の向こうにおかしな幻を見てしまったんだ。


「……よし」


 深呼吸をして自分を落ち着かせる。大丈夫だ、俺は至って冷静。先程のような幻は見る事はない。気を取り直して、俺は再び扉を開けた。


「クンクンクンクンクンクンクンクンクンクン、ふわぁ最高っ……クンクンクンクン……」


 誰か、この状況を説明してくれ!


 落ち着け、落ち着け俺。一つずつ確認しようじゃないか。まず目の前に居るのはフェルだ。本日俺に向かって飛び込んで来た、オッサンのペットで犬から人になったという少女。そんな彼女が目の前で何をしているかと言うと、ゴミ箱に捨てたはずの俺の血塗れの服を抱き締めて、顔を埋めては恍惚な笑顔を浮かべている、と……。


 ……駄目だ。状況を一つずつ確認したところで意味が分からない。


「わふっ? あ、ケルベロスだ!」


 気付かれた。そして、こちらに向かって走って来る。フェルまっしぐらだ。


「そうはいくか!」


 床から足が離れ、飛び掛かって来たところを俺は横に跳んで避けた。
 一度窓から落ちた事もあって、この行動は読めていた。それにダンに追い掛け回された事で避ける事が体に染み付いていた……一応訓練の成果はあるようだ。


「わふぅぅぅぅ!?」


 俺に避けられて咄嗟に反応できずなかったフェルは、浴場へと突入し、そのまま浴槽へとダイブした。


「おおお……、大丈夫か?」


 あまり深くない浴槽に勢いよく頭から突っ込んだので心配になり声を掛けた。放置すれば、もしかするとマリアのように底で沈んだまま長時間過ごす事になるかもしれない。意識を失っていれば、正当な行為だったが避けた事に罪悪感が湧く。


 だが、そんな心配は杞憂だった。すぐには出て来なかったが、フェルは怪我なくお湯の中から立ち上がって姿を見せた。生まれたままの姿を。


「服はどうした!?」

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