死なない奴等の愚行

山口五日

第26話 経験がないからといって舐めるなよ

 ユーマとのおっぱい談議に花が咲き、話は盛り上がり……激化した。


「だから、おっぱいは感度が大切っしょ。触れた時の感触と、その反応が良いだろ? 通常時よりも少し高く『あんっ』なんて言われたら一気に猛るわ」
「いやいや、おっぱいに大切なのは形だ。おっぱい単体だけでなく、ボディに合っているかというのは大切だ」


 と、互いにおっぱいは何が最も重要かを言い合った。そして見事に主張が異なる。


「確かに見た目は大切だけどさ。最終的にはやっぱ感度っしょ」
「おいおい、それはおっぱいに限っての事じゃないだろ?」
「ああ? そんなら、お前だっておっぱいだけを見てる訳じゃねえだろ? お前は相手の容姿が良いかどうかじゃん」
「違うね。あくまで、おっぱいだ。おっぱいあってのボディだ。おっぱいがなければ、それだけで魅力が半減だ」
「おっぱい、おっぱいって…………これだから女を知らない童貞は」
「どどどど童貞かどうかなんて分らないだろ! 経験あったとしても記憶がないから俺自身分らないけどさ!」


 そ、そうだ。童貞かどうかなんて分からない。俺自身も分からないが、この俺の聖槍が未使用な訳…………ない! きっとない!


「いいや、その見た目だけで満足するような発言からして童貞っしょ」
「違う! ……と思いたい」
「断言する。お前は童貞だ。ロリコンだと思っていた時よりも自信があるよ。ケルベロス、お前も女を知れば感度が大事って事が分るさ」


 ……そこまで断言されると自信がない。
 ロリコンかどうかは自信を持って否定できるが、童貞である事をはっきりと否定する事ができない。昔の俺よ、童貞じゃないよな? なんだか、自分でも童貞ではないかと思い始めたんだけど……くうっ、大事な事だ。これは是非とも思い出さなければいけない!


「まあ、俺が今度娼館にでも連れてってやんよ」


 こ、こいつの上から目線がムカつく……。
 そんなに女を抱いていると偉いのか? そんな事で格差が生まれるなら、いいぞ戦争だ。童貞を率いてヤリチン共を殲滅してやるよ。ただ、その前に決着をつけないといけない事がある。


「俺達がしているのはおっぱいの話だ! それに女を抱いてばかりいるから、お前はおっぱいの本質を見失っているんだ!」
「本質を見失ってる? はっ、童貞におっぱいの本質が分るのかー?」
「だから童貞と決まった訳じゃ」
「いーや、童貞っしょ」
「違う」
「童貞にしか見えねー」
「その目が腐ってる」
「会話が童貞丸出し」
「その耳と頭が腐ってる」
「……もう存在が童貞だ。オプションにロリコンも付けるか」
「……チ○コ腐れや、ヤリチン野郎」
「んだと!?」
「ああん!?」


 一触即発の殺伐とした空気が俺達の間に流れる。
 よし、今ここで一人のヤリチン野郎を殺してしまおう。少しでも童貞サイドが有利になるように。


 ヤリチンでもユーマは一応傭兵だ。真っ向勝負を挑めば簡単にやられる。ここは虚を突いて倒さないとならない。さて、どうしようか……と頭をフル回転させて策を練っていると扉を乱暴に叩く音がした。


「おーい俺だ! ユーマ、ここにケルベロスは居るかー!」


 この声は確か新人教育担当のダンだ。
 サラから聞いたのか、どうやら俺を訪ねてきたらしい。


「……この話は一旦やめるか」
「ああ、また後でやろう。絶対に形が大事って分からせるかな」
「お前、おっぱいへの執着心が凄まじいな。まあ、望むところだ」


 俺達は一度おっぱい論争をやめ、ダンを中に招き入れる事にした。


「居るぞ、入れー」


 ユーマから許可が出ると、ダンは筋骨隆々の体を少し縮こまらせながら部屋に入って来た。そして俺を見るとニカッと笑みを浮かべる。


「おうっ、昨夜振りだなケルベロス。まったく、お前の歓迎会だというのに早々に退場するなんて情けない」
「いや、俺の意思じゃないからな。強制退場だから」


 副団長のユイカに建物が壊れるほどの勢いで投げられたせいであり、それにあれは俺の歓迎会と銘打った、ただの飲み会だ。俺の退場後も酒を飲み続けていたのが、ダンの体から漂う酒の匂いで分かる。


「それよりも俺に何の用だよ」
「ああ。俺の仕事をしに来たんだ」
「仕事?」
「ああ。俺の仕事、新人の教育だ。お前を傭兵として働けるように訓練してやろうと思ってな。今日と明日は戦場には行かないし、ちょうどいい」
「ちょうどいいって……」


 突然傭兵の訓練をすると言われて困惑する俺にダンは諭すように続ける。


「タロスが間違って投げちまったから不死身になったのは知っているし、暫くは仕事をさせないのも知っている。だが、早い内に傭兵の仕事には慣れておいた方がいい。特に俺達のような不死身は酷く警戒されるからな。いきなり戦場に行ったら、確実に滅多刺し、あるいは滅多切り……少しでも戦線復帰を遅くさせようと燃やされる」


 い、いやいや、敵味方が入り混じる中でそんな手間暇をかける訳が……ないと思ったのだが、横にいるユーマを見ると青い顔をして震えていた。


 ……経験者?

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