死なない奴等の愚行

山口五日

第6話 苦労人サラ

 それからマリアさんとは別れ、オッサンにサラという人が居る部屋に案内される。


「じゃあ俺はこれで。投げられた者です、って言えば分かると思うから」


 そう言って部屋の前でオッサンは何処かへ行ってしまった。
 まるで逃げるように走って行ったが……サラさんて怖い人なのか? 名前からして女性みたいだけど、イモータルの団員だから不死身だし、きっと強いんだろうな。いきなり攻撃して来るような人じゃない事を祈ろう。


 タロスから貰った魔力樹の実をお守りのように両手で握りしめてから扉をノックした。


「どうぞ」


 若い女性の声が返って来る。
 俺は恐るおそる扉を開けて部屋に入った。


「失礼します……」


 部屋の中には机に向かって大量の資料に目を向けて何か書き込んでいる女性が居た。眼鏡を掛けていて神経質そうな顔をしているが、マリアさんと同じくらい美人だ。


 眼鏡の奥の瞳が睨みつけるようにこちらに向く。


「ん? 君は? 団員ではないな、宿の人か? すまない、団員が破壊した窓や扉の弁償代か? それだったら、できるだけこちらで修理するから、主人に少し弁償の費用をまけて貰いたいと伝えてくれないか? もしくは、新たな苦情か? 料理がマズいと言っていた事だったら申し訳ない。うちには世界一と言っても過言ではない凄腕の料理人が居て、どうしても他人が作った料理は劣ってしまうんだ。それでもなければ」
「ストップ! 違います! 宿の人ではありません。俺は、投げられた人です」


 宿の人だと思われて謝られてしまい、慌てて否定する。
 おかげでピタリと謝罪をやめて「投げられた人……」と口の中で反芻させ、何の事か理解したようで目を見開き、土下座した。


「申し訳御座いませんでした! こちらのミスであなたを投げてしまい……お体の方はもう大丈夫でしょうか? 詳細は聞いていませんが、こちらで最も優秀な治療魔法の使い手を向かわせたと聞きましたが……もう治りましたか?」


 あれ? この人、治療魔法で治ったと思っているのか?
 俺が不死身になった事を知らない?


「あの、俺は不死身になったんですけど。それでイモータルに入る事になって、その説明をサラさんから聞くようオッサ、団長から言われて」
「……不死身になった? ……それは本当ですか?」


 その反応から今初めて聞いた事が分かった。どうやら俺を誤って投げてしまった事しか知らなかったようだ。


「それを早く言ってくれ! 不死身って事はもう身内! 誤り損じゃないか!」


 そして知った瞬間、態度がガラリと変わった。
 いや、そっちのミスで死に掛けたのは変わりないのだから、謝り損というのはおかしいだろ。そう思い口を開こうとする。


「もう! どうしていつも私ばかりペコペコ頭を下げないといけないんだ! ああ、分かっているよ理由は! 私以外まともな人がいないからな! もし、私以外の人が外部の人と交渉しようものなら、マッハで決裂するだろうよ! だがな、何でもかんでも面倒臭い事を私に回さなくてもいいだろ! 新人にイモータルの説明するくらいならクソ団長でもできる事だ! ただでさえ、私は宿や近くの店に、うちの団員が暴れた事を謝りに行かないといけないのに……どう思う新人!」
「…………サラさんの負担を考えて欲しいですね」
「話が分かるわね!」


 ……オッサンが逃げた理由が分かった。顔を合わせたら説教されるからだ。


 それにしても彼女以外にまともな人が居ないのか……。彼女も仕事によるストレスからか、まともかどうか少し怪しいところだけど…………この傭兵団は本当に大丈夫だろうか。


 そんな不安を抱きながら、このまま彼女にイモータルの説明をして貰うのは申し訳ないと思ったので部屋から出て行こうとする。


「じゃあ、俺はこれで……」
「? イモータルの事を聞きに来たんじゃないのか?」
「いや、でも……忙しそうですし……」
「まあ、忙しいが…………よく考えてみると自分達の所属しているイモータルの事を正しく理解している人が居るか怪しいし……私が説明しよう」
「……お願いします」


 おい、大丈夫かイモータル。

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