捨てる人あれば、拾うワン公あり

山口五日

第6話 ワンワン、初めてのギルド

 モンモを売っていた露店を後にして、まだ行く先を決めていないもののとりあえず歩く三人。
 ナエはワンワンに対して、先程の事もあり勝手に離れないように注意していた。


「いいかワンワン。気になるものがあったら、まず私やレイラに声を掛けるんだぜ。絶対に離れるなよ」
「わう! 分かった……だけど、つい体が動いちゃって……」


 自信なさげなワンワン。やはり初めての街が珍しいのか、ナエに注意を受けながらもあちこちに視線を向けている。このままでは、また何処かへふらりと行ってしまいそうだ。


 そんなワンワンの様子を見て仕方ないとナエは手を差し出す。


「じゃあ手を繋ごうぜ。それなら一人で何処かに行く事はないだろ?」
「わうっ! ナエ、頭いいっ!」


 差し出された手をワンワンは喜んで握るワンワン。
 ナエは自分よりも小さく、柔らかな手の感触に、強く握り過ぎたら潰れてしまうのではないかと思えてしまった。その為、ゆっくりと優しく握り返すのだった。


「えへへ……」
「ん? どうしたんだワンワン、急に笑って?」
「なんかね。こうして手を繋いでるとね、ナエがもっと近くに感じられて嬉しいんだよ!」
「うっ……そ、そうかよ」


 ぶっきらぼうな言葉を返すナエだが、その口元は微かに緩んでいて満更ではないようだ。


「……微笑ましいのう」


 二人の仲睦まじい遣り取りを見て、思わずレイラはそう口にする。いつまでも見ていたいという気持ちがあったが、そろそろ決めなくてはならない事があった。


「そろそろどのギルドに行くか決めるとするかのう」
「あ、そうだったな……どうすんだよ? 絡まれると面倒って、さっき傭兵ギルドは反対してたけどよ」
「ううむ……正直な話、何処のギルドでもいいんじゃが……むぅ……」


 悩みながら歩くレイラとナエ。そんな二人をよそにワンワンはキョロキョロと周囲に目を向けている。


 ――そして、事件は起こった。


「わうっ! あれ何?」
「ん? あれって、おおおおおっ!?」
「ナエっ!?」


 何かに興味を惹かれたワンワンが走り出す。すると手を繋いでいたナエは引っ張られて、ワンワンとともに走って行ってしまう。


「……そういえば、ワンワンの攻撃力はナエより高かったのう」


 ワンワンの生命力、守備力、魔力はエンシェントドラゴンのステータスを受け継ぎ、また【廃品回収者】の影響か詳細は不明だが五桁もある。その異常性に隠れてしまっているが、攻撃力や俊敏力も一般人と比べて高い方だ。


 ナエは魔力以外は年相応のステータス。ワンワンに引っ張られるのも無理もない。
 まるでリードを付けた飼い犬に引きずられる飼い主のような、ワンワンとナエをレイラは慌てて追いかける。レイラも素のステータスではワンワンには敵わないので【ステータス向上】【加速】を使用した。


「待つのじゃ! ワンワン!」
「と、止まってくれ! このままじゃ、転びそうだぜっ!」
「わうっ? あっ!」


 必死にレイラとナエの制止の言葉を掛け続けると、ワンワンは気付いて止まってくれた。そして申し訳なさそうにナエと追いついたレイラに謝る。


「くぅん……ごめんなさい」
「はぁ、はぁ……ワンワン……気を、付けてくれ……だぜ……」
「本当にのう……。よく考えてみればワンワンのステータスじゃと走って誰かとぶつかったら、相手の方が怪我をしてしまうかもしれぬのう……」
「わ、わうっ!? そうなの!?」


 ワンワンはそこまで自身のステータスの高さを把握していなかったようだ。ただ、これはレイラを含めて、特化した一部のステータスばかりに目が向いてしまって誰も考えが及ばなかった。


 今後の事を考えるとワンワンには自分の力を理解して貰わないといけない。そう思ったレイラは考えが及ばなかった事を申し訳ないと思いながらも、ワンワンに危険性を正直に伝える事にする。


「いいかのう、ワンワン。初めての街じゃ。色んな事が気になるのは分かる。じゃがのう、ワンワンのステータスを考えると他の人が怪我をしてしまうかもしれぬのじゃ。実際、ナエも転びそうになってしまったじゃろ? じゃから、気になるものを見つけたら駆け出さずに一度堪えるのじゃ」
「わうっ……誰かが怪我するのは嫌だよ……ごめんなさい。ナエ……ごめんね」
「次から気を付ければいいって! だからワンワン、そんな泣きそうな顔すんなよ!」
「わうううぅ……」


 自分が危うく誰かを怪我させてしまったかもしれない事実にショックを受けたらしく落ち込むワンワン。彼の目は涙をじんわりと滲ませていた。


 そんな彼を心配そうに見つめるナエ。そして注意した事が失敗だったかと焦るレイラ。二人は泣き出しそうなワンワンをどうしたものかと狼狽えていると声を掛けられる。


「あのぉ……どうされたんですか? ギルドに何か御用でしょうか?」


 そう声を掛けて来たのは一人の女性。亜人らしく額に小さい角が二本生えていた。
 どうやらワンワンが気になったのは何かのギルドの建物だったらしい。よく見れば女性の首にはギルドの職員を示す職員証を提げていた。女性はワンワン達が気になって中から出て来たようだ。


「ん? ここってギルドなのか? 何のギルドなんだ?」
「ここは魔物討伐ギルドですよ、お嬢ちゃん」


 魔物討伐ギルド。通称、魔物ギルド。魔物を討伐する事を目的としたギルドで、魔物の大量発生等に対して領主や国からの指示で動いたり、魔物の素材を必要とする人達の依頼を受けたりしているところだ。


「魔物ギルドのう…………あ、なるほど」
「ん? 何がなるほどなんだよ?」
「いや、ワンワンが興味を示した理由が分かったんじゃ」


 そう言ってレイラはギルドの建物の上の方を指さす。そこには骨のみとなった大きな魔物が飾られていた。四つ足で背中には翼と思われる部位が見られ、長い尻尾がついている。その特徴からドラゴンの類の骨だと分かった。


 骨が好きなワンワンは、この魔物の骨が気になったのだろうとレイラは推測する。


「ワンワン、これが気になったのかのう?」
「わう……そうだよ。とっても大きかったから気になっちゃって……」
「そうか、そうか……。確かに気になるのも無理もないのう。儂も気付いておったら、走り出しておったかもしれん」


 そう冗談交じりに言いながらレイラが頭を優しく撫でてやると、ワンワンは少しは表情が明るくなった。


「ああ、この骨が気になったんですか? ふふっ、目立ちますよね」
「うむ、確かに目立つが……ドラゴンの骨を看板にするとは豪気じゃのう」


 ドラゴンは全身が武器や薬などの素材となる。勿論、骨もだ。骨だけでもかなりの金額になる。それを外に晒しているというのは、大金を外に置いているようなもの。


 すると職員は笑ってレイラの言葉を否定する。


「いえいえ、さすがに本物じゃありません。色んな魔物の骨を集めて、それっぽく組み合わせてるだけですよ」
「そうじゃったか……ああ、よく見ればそうじゃのう。翼はプテラン、尻尾は……ニードルサウルスの尻尾を上手い具合に組み合わせておるの」
「お詳しいんですね……もしかして魔物ギルドの会員の方でしたか? それとも傭兵ギルドの……」
「ああ、会員証は事情があってなくしてしまってのう。以前は…………傭兵ギルドに所属しておったんじゃが、この機会に別のギルドにも入っていいかなと色々とギルドを見ているところなんじゃ」


 レイラは咄嗟にそう答えると、職員の女性は魔物ギルドを勧め出す。


「だったら魔物ギルドはいかがです? 魔物ギルドの会員になれば、魔物の買い取りはよそよりも多少高くギルドで買い取らせていただきますし、魔物の討伐方法は勿論、魔物の分布や魔物の解体方法。他にも魔物の調理方法など、魔物に関する情報を無料で提供できますよ!」
「魔物の調理方法か……」


 唐突に始まった職員の説明にナエが興味を示した。料理をするナエにとっては魔物の調理方法というのは魅力に感じたようだ。実際、ナエは職員の説明を聞いて、より美味しいものをワンワン達に食べさせられるかもしれないと思った。


 また、レイラも魔物ギルドは考えてみると、一番自分達に利益のあるギルドだと思っていた。これから金策の主な手段は魔物を売る事になるだろう。それを考えると会員になる事は悪くない。


 レイラは魔物ギルドを前向きに検討するのだった。

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