捨てる人あれば、拾うワン公あり

山口五日

第35話 スーパーレイラさんタイム!

「よしっ! それじゃあ行ってくるのじゃ!」
「おい、大丈夫なのか?」


 それで本当に倒せるのかとナエが不安そうな目を向ける。ジェノスも口には出さないが心配しているのか、ジッとレイラが入っている鎧を見ていた。


 すると自信満々とばかりに、二人に親指を立てて応える。


「大丈夫じゃ! それにこの体が破壊されても、儂自身は無事じゃからのう」


 黒王虫の鎧の体を動かし、ドラゴンキラーを手にしたレイラはゆっくりとオワリビトに近付いて行った。


 オワリビトはレイラが近付いて来るのを待ち構えているようだ。


「キヒヒヒッ」


 まるで獲物がやって来たと、喜んでいるかのように笑うオワリビト。そして、レイラはあと一歩で《ミソロジィ・シールド》の光の膜の外に出るというところまで来た。


「ふむ。さて……それじゃあ始めるかのう……はあっ!」
「キヒッ!?」


 最後の一歩を踏み出しつつ、洗練された鋭い斬撃がレイラから放たれる。オワリビトはそれを回避するが、紙一重といった様子だ。大きく後ろに飛び退いたところを見ると、レイラが纏うワンワンの魔力に気付いているらしい。光の膜から出た事で、纏う魔力を感じ取る事ができたようだ。


 レイラはステータスの各項目を一・五倍ほど引き上げる【ステータス向上】。魔法を三日使用不可にする代わりに生命力、攻撃力、守備力、俊敏力を二倍強化する【魔法封印強化】。剣を用いた戦闘時に攻撃力、俊敏力を一・五倍強化する【剣術】。俊敏力を瞬間的に三倍まで高める【加速】。相手の動きに瞬時に反応できる【反射対応】など複数のスキルを使っている。


 魂だけの体では使い道がなかったスキルだったが、今回はこうして鎧ではあるが体を手に入れたので使う事ができた。


 複数のスキルを使う事でクロ並みのステータスとなるレイラ。そのうえ、黒王虫の鎧にドラゴンキラーと言った強力な装備を身に付けている。今のレイラは勇者と同等の力を有していると言っても過言ではない。


「のじゃのじゃのじゃのじゃのじゃぁっ!」
「キ、キヒッ……」


 一振りする度に【加速】を使い、もはやジェノス達では視認する事が難しい斬撃を連続で放つ。オワリビトはレイラの攻撃をひたすら避ける。その様子から回避に精一杯で、反撃する余裕はないようであった。


 しかし、攻撃がまるで当たらない。回避に専念されれば、こちらの攻撃を当てるのが難しく、どれだけ剣を振るっても結果は空振りだ。


 いくら攻撃しても当たらない事に、レイラは口を尖らせる。


「むうっ……動くでないわ!」


 そんな事を言われても、斬られそうになれば誰でも避ける。まして自身に有効な攻撃であれば。ワンワンの魔力を纏った剣は浅く斬られただけでも、深刻なダメージになる恐れがあった。


 その為、オワリビトは避け続け、隙を見ては攻撃と……という考えはないようだ。隙があれば、この場から離脱しようとしていた。鎧までもワンワンの魔力を纏っているので迂闊に攻撃はできない。


 レイラには勝てないと判断したようで、必死に逃げようとしていた。


 だが、そう簡単にレイラはオワリビトを逃がすつもりはない。先程、神からオワリビトを倒す手順を教えて貰うとともに、こちらにクロが戻って来ているのを知らされた。もし、この場に留まらせる事ができなければ、クロが襲われる可能性がある。そう思い、レイラは決して逃がさない、ここで倒すと決めていた。


「レイラ! 儂に強化を!」
「《ゲランタル》!」


 レイラの声を受けてナエは瞬時に魔法を使う。自身のステータスが向上した事を感じると、新たにスキルを使用する。


「これでもくらえいっ! 【金縛り】じゃ!」
「キッ!?」


 オワリビトが動きが止まった。【金縛り】は対象を一時的に動けなくするスキルで、運命力が相手よりも高ければ高いほど拘束力を高める。


 レイラは【金縛り】の効果はすぐに解かれると、スキルの感触から感じていた。
 だが、一瞬でも動きを止める事ができるのであれば充分。レイラは複数のスキル、そして駄目押しの《ゲランダル》による強化による一撃を放った。


 オワリビトは【金縛り】による拘束から逃れようと、必死に体を動かそうとした。そして【金縛り】を打ち破り、体を動かせるようになるのだが、回避行動を取るには遅過ぎた。




「キヒィィィィィィィィィィィィィッ!」
「のじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 オワリビトはなんとか避けようとするが、それよりも早くレイラの剣が振り下ろされた。


 斬りつけられたオワリビトは剣が通った跡から赤黒い血ではなく、黒い液体が噴出する。先程現れた時に地面から湧いたものと同様のもののようだ。


「キ……キヒ、ヒ……」


 掠れた声を上げながらふらつくオワリビト。徐々にオワリビト全身が、まるで氷が溶けるように黒い液体に変わっていく。やがて声すら上げられないほどに体が液体に変わり、大きな黒い水溜まりになる。


「……ふうっ、終わったようじゃのう」


 水溜まりが消えたのを確認すると、レイラは息を吐いて警戒を解く。
 それを見て、ジェノス達もオワリビトを倒したのだと実感が湧いた。倒した光景を目の前で見たのだが、あれほどの化物を倒せたという事が、いまいち現実であるとは思えなかったのだ。


「まさか……本当にあんな化物を倒しちまうなんてな……」
「凄いぜ、レイラ! クロと同じくらい強いんじゃねえか?」
「わうっ! 凄いよレイラ!」
「ふふふっ、この鎧や剣があったおかげじゃよ。まあ、儂だからこそ勝てたというのは事実じゃがのうっ!」


 すっかり有頂天になっていたレイラ。だが、脅威を退けてくれた彼女を嗜める者はいない。


「はあっ……はあっ……みんな、大丈夫? あれ……黒いのは?」
「クロ! 良かったぜ……無事だったんだな……」
「う、うん……なんか男の人が助けてくれて……あれ? こっちにも現れたって……」
「オワリビトの事か? あれならレイラが倒したぞ」
「ふふっ、凄いじゃろ」
「レイラちゃんが? 凄い……って! 誰!?」


 黒い鎧の存在にそこで初めて気付いたクロ。


 それからジェノス達はクロに、天使の事やオワリビトの事などこれまでの出来事を話すのであった。

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