捨てる人あれば、拾うワン公あり

山口五日

第34話 スーパーレイラさんタイム?

 【神の思し召し】を通して神からの言葉を受け取ったレイラ。神からの連絡を受けるのは三度目だが、どうにも慣れないようだ。頭を抱えて弱々しい声で訴える。


「うぬぅ……これ、本当にどうにかならんかのう……。ビビビッと来て、頭がぐわんぐわんと……気持ち悪いのじゃ……」


 痛いとかではないようだが、あまり良い感覚ではないらしい。


「わうう……レイラ、大丈夫?」
「ふ、ふふっ、ワンワン心配するでない……大丈夫じゃ……」


 ワンワンが心配そうに声を掛けると、レイラは弱々しいが笑顔で応える。それにレイラにはやらなくてはいけない事があった。神から教えて貰った、オワリビトの倒し方を実行するのだ。


「ワンワン、実は頼みたい事があるんじゃが……妹の頼みを聞いてくれるかのう?」
「わうっ! いいよ! 何でも言って!」
「ありがとうのう……それじゃあ……回収した一覧を見せてくれるかのう」
「うんっ! いいよぉ!」


 ワンワンはレイラに言われて回収済みの一覧を出した。それを見えるようにレイラに向ける。


「ううむ……回収可能な方は見た事はあったが、こちらはしっかり見た事がなかったのじゃ……。まさかこんなに回収しているとはのう……」
「確かに俺も久し振りに見たが……結構増えてるな……」
「なくなって目立つものは念の為に避けるようにしてるぜ……。まあ、正直今更だと思ってそこまで徹底はしてないけどな……」


 レイラと一緒にジェノスとナエも覗き込む。普段は回収可能なものが表示された一覧を見ていて、回収済みの一覧ほとんど見ていなかった。


 一ページだけでも四桁を越えるものが幾つも見られる。スキルのレベルが上がり、回収可能な範囲が広がった事もこうなった一因だろう。


「捨てられたものだからなくなっても迷惑かけるような事じゃねえだろ。不思議がられるとは思うだろうけどな。それで、レイラ。お前は何をしようとしてるんだ? 神から何か指示を受けたんじゃねえのか?」
「うむ。受けたのじゃ……それで今は必要なものをワンワンに出して貰おうと思ってのう……うん? ないのう」
「いったい何を探してんだ? ここにねえなら、別のページにあるんじゃねえか?」
「む? ワンワン他のページを見せてくれるかのう」
「分かった!」


 それからレイラはワンワンに頼んで、次々と別のページを出して貰った。


 ちなみにオワリビトは殴るのをやめ、ワンワン達の様子を黙って見ていた。笑い声を一言も発さず、熱心に観察をしているように見えた。
 もしくは、光の膜が消えるのを待っているようにも見える。実際、拳には相変わらず黒い炎を思わせる魔力を纏わせていて、いつでも全力の攻撃ができるようにしていた。


 そんなオワリビトを一時的に忘れてしまったのかのように、レイラは熱心に回収済みの一覧を見ていく。そして目的のものを見つけてワンワンに出して貰った。


「よしっ! 神様が言っておったものは用意できたのう」
「……用意できたはいいけどよ。こいつをどうするつもりだ?」


 ジェノスはレイラがワンワンに言って出して貰ったものを見て、内心首を傾げる。
 地面には黒を基調とした全身甲冑と、微かに赤く光を帯びた美しい剣が置かれている。ワンワンが聖域に来た始めの頃に回収したものの、特に取り出して利用する事もなかった黒王虫の鎧とドラゴンキラーだ。長い時間放置されていたにも関わらず、どちらもまるで劣化した様子はなかった。


 ナエにはその価値がまったく分かっていないようだが、ジェノスにはその価値は見ただけで理解できた。自分に懸けられていた賞金ではまず買う事はできないであろう、遥か昔に紛失したとされるコルンの国宝。格納鞄(国宝級)とは違い世界で唯一無二の至宝だ。


 これらの存在をジェノスは聞いていなかったので、目にした時は驚きを隠せなかった。回収済みの一覧を彼は見た事はあったが、全てを見た訳ではない。このようなものが回収されていたとは、露ほども思わなかった。


「どうするもなにも使うに決まっているじゃろ」
「使うって……誰が装備すんだよ。俺じゃあ剣の方は問題ないとして、鎧は無理だぞ」


 確かに剣は問題ないが、鎧はジェノスに体型には合わない。すると、レイラは問題ないと胸を張って自信満々な様子であるスキルを使う。


「【憑依】なのじゃ!」


 【憑依】のスキルを使った次の瞬間、レイラの体は横たわる黒王虫の鎧に収まる。すると鎧はゆっくりと立ち上がり、手を握って開いてを繰り返したり、その場で軽く飛び跳ねるなどして動きを確かめるような仕草をしだした。


「うむっ! 問題なさそうなのじゃ!」
「レイラ、鎧の中に入ったのか?」
「うむ! 天使のように儂の姿にはできんが、【憑依】は儂自身もできるのじゃ」
「わうっ! 凄い! レイラカッコいいっ!」
「ぬっ! そ、そうかのう……ワンワンに褒められると照れるのう……」


 レイラが【憑依】を使い、動き出した黒王虫の鎧を見てワンワンは目を輝かせた。


 喜ぶワンワンを見て満更ではない様子のレイラだが、黒王虫の鎧はワンワンが言うように見た目は格好いい。鎧の素材となった魔物の形が残されているらしく、棘のような部位が所々に見られる。あまりそういった装飾は実用的ではないのかもしれないが、そういったところに子供心を刺激するのだろう。


 ただ、レイラの口調、更には照れて体をくねくねと動かされると、それは台無しだった。


「確かにそいつなら多少は攻撃が防げるのかもしれねえな……だけどよ、本当にそれで倒せるのか?」
「そうじゃ! 任せるのじゃ!」
「いや、でも……いくらレイラが沢山スキルを持っていても、あんな化物、倒せないぜ」


 ドラゴンキラーを手にして素振りを始めるレイラにナエは言った。クロがいて、レイラやナエが支援するというのであればまだ勝機がありそうだ。


 だが、いくら国宝の鎧と剣があっても、扱うレイラのステータスは圧倒的にクロより劣る。どうやっても勝てるとはナエとジェノスは思えなかった。


「大丈夫じゃ。確かにこのままでは駄目じゃが、もう一つある事をすれば問題ないのじゃ」
「ある事?」
「うむっ、それはのう……ワンワンちょっとだけ魔力を貰っていいかのう?」
「わうっ? 魔力を? いいけど……どうやるの?」
「ああ、ワンワンはジッとしておればいいのじゃ。これから魔力を貰う事を許してくれるだけでよい」
「分かった! いいよ!」
「ありがとうなのじゃ」


 そう言って、レイラはワンワンの頭に手をそっと乗せた。


「おい、魔力を貰うって言ってたが……《ミソロジィ・シールド》を維持する分は」
「分かっておる。儂も馬鹿ではない。それに貰う魔力は少しだけじゃ……。ふふっ、使えないと思っていた【魔力吸収】が役に立つとはのう……」
「あっ……ワンワンの魔力がレイラに移動してるぜ……あれ、でも、すぐに抜けていく? ん? 鎧と剣に定着してるぜ?」


 魔法を使うようになってから、魔力に対して敏感になったナエには、ワンワンの魔力がレイラへと移っていくのが分かるようだ。


 ただ、すぐにレイラ自身から魔力は消失し、その代わりに鎧と剣に定着しているようだった。


「他人の魔力を感じ取るとは凄いのう。それと儂は魔力を溜め込む容量は無いから、儂の中に魔力が留まる事はないのじゃ。ただ、受け取った傍から【魔力付与】で鎧と剣で定着させておる」


 レイラのステータスで、魔力は“0”。
 彼女自身には魔力は吸収した傍から体外に排出されてしまうようだ。だが、魔力を受け取ったその一瞬で【魔力付与】という魔力を物体に定着させるスキルを使い、ワンワンの魔力を鎧と剣に定着させていた。


「……それにしても、ワンワンの魔力は心地良いのう。一瞬しか儂の中には残らぬが、ポカポカするのじゃ」
「おい、あんまり魔力を吸い過ぎるなよ」
「分かっておるのじゃ…………ふうっ、こんなものでいいかのう」


 レイラはワンワンの頭からそっと手を離して、【魔力吸収】をやめる。
 ワンワンの魔力を定着させた事で黒王虫の鎧とドラゴンキラーはうっすらと白い光を帯びていた。


 ここまでが神からの指示だった。ワンワンの魔力がオワリビトに効果があるという事で、指示に従い準備をしたレイラ。そして、準備が終えた今、オワリビトと戦う為に鎧の体の感覚を再度確かめるのだった。

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