捨てる人あれば、拾うワン公あり
天界 ワンワンを助けに行く
ナエとクロが謎の生物と遭遇した時、天界では三人の天使と神がその様子を見ていた。
「おいおい、こいつは……」
「とうとう現れてしまいましたか……」
「…………」
その存在について何か知っているのか、天使のライヌとカインの表情は暗い。神は光である為、何を考えているのかまるで分からない。だが、その光は少し弱まっているように見えた。
「何なのですか、あれは……。あのような生物を儂は見た事がない」
エンシェントドラゴンとして、あの世界で過ごしていたドゥーラはその強さに息を呑む。ナエの《ヘルフレア》ほどの威力であれば、普通の魔物であれば肉片一つ残さずに死ぬだろう。
だが、傷一つ負わず平然と笑っている。ドゥーラは自分の目を疑っていた。
「ドゥーラが見た事がないのは当然だよ。君の生前にあれが現れたのなら、既に世界は滅んでいたよ。たぶんエンシェントドラゴンであった君でも……倒すのは難しいだろうね」
「……いったい何者なのですか?」
その疑問に、カインが口を開きかけるが、それよりも早く神が淡々と答える。
「あれは……世界の意思……崩壊を防ぐ為に……生まれた……もの……」
「世界の意思……そんなものがあるのですか? あの世界が望んで生み出した生物……。ですが、あんなものがいたら、それこそ世界が崩壊してしまうでは?」
「あれは……世界には危害を加えない……世界に危害を加える存在にしか……手を出さない……」
「世界に危害を加える存在?」
「理性ある生き物……人間や魔族……」
「なっ!?」
神様の言葉に驚愕するドゥーラ。世界がそのような事を望むのが、俄かに信じられなかった。だが、ライヌとカインが黙ったまま否定する事はない。つまり、神の言っている事は本当の事なのだろう。
「世界は……人間や魔族を消し去れば、世界の崩壊が防げると世界は思っているのですか? そんな事で世界が救われるとは……」
「いや……実際、人が滅べば世界は滅びる事なく継続できるよ。今は人間と魔族の争いによって、世界は滅びに進んでいる訳だしね。互いに相手を滅ぼす為に、世界がどれだけ傷付こうとも、強力な力を求め振るう人々は……もはや世界にとって害と判断されたんだ」
「俺達が別の世界から転生者を送ったのは、こいつ……俺達はオワリビトって呼んでんだが、オワリビトが出現する前に、世界が滅びへと進むのを止める為だった。こいつが現れちゃ……もう……」
長い溜息を吐くライヌ。普段の強気な態度と違い、悲観的な姿に、ドゥーラは世界が絶望的な状況である事を理解する。
「し、しかし、神様なら、どうにかできるのでは……」
「……無理……直接手を下す事はできない……きまり……」
「転生者を送ったり、間接的なら手を出す事はできるけど……それも失敗だったね」
神様とカインの声からは諦めの色が感じ取れた。そこから嫌でも、あの世界がどうなってしまうのかが分かってしまう。
だが、ドゥーラはこれからどうなってしまうのか、明確にしなければ納得する事はできなかった。
「それでは、世界は……人は……」
「……あの世界の人は全員って、ライヌ! 何処に行こうとしてるの!?」
ドゥーラの問いに対して、答えようとしていたカインだったが、何処かへ行こうとしていたライヌを止める為に中断する。
嫌な予感がしたようで、カインはライヌを何処にも行かせないとばかりに彼の肩をしっかりと掴んでいた。
「ん? ちょっと行って、ワンワンを助けるに決まってんだろ?」
「駄目だって! 君は神様の前でも揺らがないね!」
その行為は完全に直接手を下す行為だ。ワンワンの綺麗な魂であれば死後ドゥーラのように天界に連れて来ても良いかもしれないが、存命の生物を連れて来る訳にはいかない。
「せめて死んでから……」
「馬鹿野郎っ! ワンワンが死ぬのを黙って見過ごせるかよ! なあ、神様! ワンワンだけでも助けちゃ駄目か? ちょっと……ほんのちょっと行って、連れて帰るからよぉ! この通りだっ!」
「ちょっ、ライヌ! 神様を困らせるなよ……」
「頼むっ!」
その場で土下座をして頼み込むライヌに、カインは立ち上がらせようとするが、まるで動こうとしなかった。
「……………………レイラのスキルを……調整する……」
ライヌの懇願に対して、暫くの沈黙の後に神はそう告げた。
「レイラのスキルを調整するんですか? 元々あるものを調整するなら、問題ないでしょうが……。ワンワンの家族を増やす為に、【神託】に手を加えて【神の思し召し】にしましたし」
ワンワンのもとにレイラが導かれたのは、神様が原因だった。
神様もワンワンの事をすっかり気に入っていて、寂しくないよう優しい家族を増やしてあげようとしたのだ。
ちなみに、【神の思し召し】は、神による干渉を受けるスキルである。元々、神に関するスキル【神託】があったからこそ、レイラに与える事ができた。今では【神の思し召し】のスキルを持つレイラを介して、神様は世界に干渉しやすくなっている。
先日、スキルの調整をした時は、世界に直接介入する事はできない制約があるせいで時間が掛かった。だが、今なら一瞬で調整が終わらせる事ができる。
それをライヌも理解していたが、それで根本的な解決にならないと思ったようだ。土下座の体勢を維持したまま、顔だけ上げて神に訴える。
「だけど神様! レイラのスキルをいじっても、あれから逃げられるとは思えねえ! やっぱりここは直接俺が……」
「ライヌ、いい加減に……なっ!」
「ん? 何だこりゃ!?」
「ライヌ殿の体がっ……」
突然ライヌが光り出した。何が起きているのか理解しているであろう神様へと、全員の視線が自然と向く。
「い、いったい、何が……神様?」
「うん……行けるようにした……ワンワンを、助けに行ってね……」
「よ、よく分かんねえが……分かった! 待ってろワンワン!」
状況をあまりよく理解できないが、ライヌにとってワンワンを助けに行けるのであれば細かい事はどうでもよかった。
そして光が一層強くなった時、彼は天界から姿を消し、ワンワン達のいる世界へと向かうのであった。
「おいおい、こいつは……」
「とうとう現れてしまいましたか……」
「…………」
その存在について何か知っているのか、天使のライヌとカインの表情は暗い。神は光である為、何を考えているのかまるで分からない。だが、その光は少し弱まっているように見えた。
「何なのですか、あれは……。あのような生物を儂は見た事がない」
エンシェントドラゴンとして、あの世界で過ごしていたドゥーラはその強さに息を呑む。ナエの《ヘルフレア》ほどの威力であれば、普通の魔物であれば肉片一つ残さずに死ぬだろう。
だが、傷一つ負わず平然と笑っている。ドゥーラは自分の目を疑っていた。
「ドゥーラが見た事がないのは当然だよ。君の生前にあれが現れたのなら、既に世界は滅んでいたよ。たぶんエンシェントドラゴンであった君でも……倒すのは難しいだろうね」
「……いったい何者なのですか?」
その疑問に、カインが口を開きかけるが、それよりも早く神が淡々と答える。
「あれは……世界の意思……崩壊を防ぐ為に……生まれた……もの……」
「世界の意思……そんなものがあるのですか? あの世界が望んで生み出した生物……。ですが、あんなものがいたら、それこそ世界が崩壊してしまうでは?」
「あれは……世界には危害を加えない……世界に危害を加える存在にしか……手を出さない……」
「世界に危害を加える存在?」
「理性ある生き物……人間や魔族……」
「なっ!?」
神様の言葉に驚愕するドゥーラ。世界がそのような事を望むのが、俄かに信じられなかった。だが、ライヌとカインが黙ったまま否定する事はない。つまり、神の言っている事は本当の事なのだろう。
「世界は……人間や魔族を消し去れば、世界の崩壊が防げると世界は思っているのですか? そんな事で世界が救われるとは……」
「いや……実際、人が滅べば世界は滅びる事なく継続できるよ。今は人間と魔族の争いによって、世界は滅びに進んでいる訳だしね。互いに相手を滅ぼす為に、世界がどれだけ傷付こうとも、強力な力を求め振るう人々は……もはや世界にとって害と判断されたんだ」
「俺達が別の世界から転生者を送ったのは、こいつ……俺達はオワリビトって呼んでんだが、オワリビトが出現する前に、世界が滅びへと進むのを止める為だった。こいつが現れちゃ……もう……」
長い溜息を吐くライヌ。普段の強気な態度と違い、悲観的な姿に、ドゥーラは世界が絶望的な状況である事を理解する。
「し、しかし、神様なら、どうにかできるのでは……」
「……無理……直接手を下す事はできない……きまり……」
「転生者を送ったり、間接的なら手を出す事はできるけど……それも失敗だったね」
神様とカインの声からは諦めの色が感じ取れた。そこから嫌でも、あの世界がどうなってしまうのかが分かってしまう。
だが、ドゥーラはこれからどうなってしまうのか、明確にしなければ納得する事はできなかった。
「それでは、世界は……人は……」
「……あの世界の人は全員って、ライヌ! 何処に行こうとしてるの!?」
ドゥーラの問いに対して、答えようとしていたカインだったが、何処かへ行こうとしていたライヌを止める為に中断する。
嫌な予感がしたようで、カインはライヌを何処にも行かせないとばかりに彼の肩をしっかりと掴んでいた。
「ん? ちょっと行って、ワンワンを助けるに決まってんだろ?」
「駄目だって! 君は神様の前でも揺らがないね!」
その行為は完全に直接手を下す行為だ。ワンワンの綺麗な魂であれば死後ドゥーラのように天界に連れて来ても良いかもしれないが、存命の生物を連れて来る訳にはいかない。
「せめて死んでから……」
「馬鹿野郎っ! ワンワンが死ぬのを黙って見過ごせるかよ! なあ、神様! ワンワンだけでも助けちゃ駄目か? ちょっと……ほんのちょっと行って、連れて帰るからよぉ! この通りだっ!」
「ちょっ、ライヌ! 神様を困らせるなよ……」
「頼むっ!」
その場で土下座をして頼み込むライヌに、カインは立ち上がらせようとするが、まるで動こうとしなかった。
「……………………レイラのスキルを……調整する……」
ライヌの懇願に対して、暫くの沈黙の後に神はそう告げた。
「レイラのスキルを調整するんですか? 元々あるものを調整するなら、問題ないでしょうが……。ワンワンの家族を増やす為に、【神託】に手を加えて【神の思し召し】にしましたし」
ワンワンのもとにレイラが導かれたのは、神様が原因だった。
神様もワンワンの事をすっかり気に入っていて、寂しくないよう優しい家族を増やしてあげようとしたのだ。
ちなみに、【神の思し召し】は、神による干渉を受けるスキルである。元々、神に関するスキル【神託】があったからこそ、レイラに与える事ができた。今では【神の思し召し】のスキルを持つレイラを介して、神様は世界に干渉しやすくなっている。
先日、スキルの調整をした時は、世界に直接介入する事はできない制約があるせいで時間が掛かった。だが、今なら一瞬で調整が終わらせる事ができる。
それをライヌも理解していたが、それで根本的な解決にならないと思ったようだ。土下座の体勢を維持したまま、顔だけ上げて神に訴える。
「だけど神様! レイラのスキルをいじっても、あれから逃げられるとは思えねえ! やっぱりここは直接俺が……」
「ライヌ、いい加減に……なっ!」
「ん? 何だこりゃ!?」
「ライヌ殿の体がっ……」
突然ライヌが光り出した。何が起きているのか理解しているであろう神様へと、全員の視線が自然と向く。
「い、いったい、何が……神様?」
「うん……行けるようにした……ワンワンを、助けに行ってね……」
「よ、よく分かんねえが……分かった! 待ってろワンワン!」
状況をあまりよく理解できないが、ライヌにとってワンワンを助けに行けるのであれば細かい事はどうでもよかった。
そして光が一層強くなった時、彼は天界から姿を消し、ワンワン達のいる世界へと向かうのであった。
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