捨てる人あれば、拾うワン公あり
第21話 畑はすっかり立派になりました
「んんっ、朝か……」
レイラから話を聞いた翌朝。ジェノスは普段より少し早く目が覚めた。まだ覚醒しきっていない頭で、ふと昨日のレイラの話を思い出す。
魔法が使えないというのは、ジェノス達にとって衝撃だった。大抵、英雄視される偉人は大なり小なり魔法が使えるものだと思ったからだ。
「スキルを使えば魔法の真似事くらいできるのじゃ」
レイラはそう言って自分の指先に火を灯してみせた。
【着火】という小さな火を生み出すスキルらしいが、他のスキルを組み合わせる事で、小屋を余裕で包み込むほどの大火を発生させる事も可能らしい。
また、生前と比べて幾つかのスキルは失われていたり、変質して別物になったものもあるらしいが、未だに強力なスキルを複数所有しているとの事だった。
それを聞いてジェノス達は、彼女に魔法は必要ないと思うのだった。
魔法は使えないが、おそらくレイラはジェノス達よりも強い。ジェノスは、そのような実力者がワンワンの守護霊になってくれて良かったと思った。
レイラは守護霊の身なので、ワンワンから遠く離れる事はできないらしい。その為、ワンワンの身を守る者としては適任だった。
「ワンワンを守るのは当然じゃ! 儂の恩人でもあるからの!」
ワンワンを守ってくれるかと尋ねれば、レイラはそのように力強く応えた。
それを聞いてジェノス達は安心し、その日は解散する事に。だが、小屋から出て行こうとした時に、レイラが積まれていた魔法書を見て「マリアの本じゃ!」と驚きの声を上げていた。
マリア・ウィウルス。魔女と呼ばれる誰もが知る存在。魔法書の何処にも筆者の名前が書いていなかったので、誰が書いたものかジェノスは知らなかった。
魔法書自体、価値あるもので捨てるなんて事は考えられない事なのだが、マリア・ウィウルスが書いた魔法書であれば尚更捨てられる訳がない。そうジェノスは思ったが、レイラはこの筆跡はマリアのもので間違いないと訴えた。
実際にマリアが書いた魔法書となれば、ジェノスにかけられていた賞金以上を出してでも買いたい者はいるだろう。
日記もそうだが、いったい誰がこんな価値のあるものを捨ててしまったのか。ジェノスのなかで新たな疑問が生まれてしまったのであった。
「はぁ……いったい何がどうなってんだ……」
ついこの前、仲間の裏切りで公開処刑になるところだった自分が、ワンワンに回収されて聖域に住む事になり、ワンワン達に魔法を教えている。そして魂だけだが、英雄と出会った。
こんな経験をしているのは、世界中探しても自分だけだろう。そんな事を思っていると外から声が聞こえた。
「おおっ!すげぇぜ!」
「ん?」
今のはナエの声だ。ナエも起き出す頃合いで、一人で畑を耕しているはずだ。
ジェノスも最初の頃は朝の畑仕事を手伝っていた。だが、近頃は夜遅くまで魔法書を読んでいる為に起きれず、手伝う事ができないでいた。
一人で畑を耕させるのはどうだろうと思ったが、ナエが「クロのようにモンスターの肉を獲ってきたり、ジェノスのように頭が良いって訳じゃないからな。私のできることをしたいんだぜ!」と言うので、任せている。
だが、今日は折角早く起きたのだから、ナエを手伝おうと思いジェノスは外に出た。
「おい、ナエ。手伝う……」
「おおっ、オッサン! 見てくれよ、凄いだろ!」
「……どうなってんだこりゃ」
ナエのいう凄いは確かに凄かった。
昨日までまだまだ収穫までに1ヶ月はかかりそうだった野菜が成長していて、どれも成熟した実をつけていたのだ。
「ナエ、こいつはどういう事だ? 以前、植物の成長を促す魔法を教えたが、習得はできなかったろ? それとも魔法を使えるようになったのか?」
「違うぜ、オッサン。レイラのおかげだぜ!」
「レイラの?」
「そうじゃ!」
成長した作物から飛び出したのはレイラだった。宙を滑るようにして彼女はジェノス達のもとへと近付いて来る。
「お前がやったのか?」
「そうじゃ! 儂のスキル【大成長】を使ったのじゃ!」
「凄いんだぜ! レイラが畑に手をかざしたら、あっという間に育ったんだ!」
「ふふふっ、凄いじゃろう。ここでは、採取できる食用の植物は限られているであろう? じゃから、ちと手伝ったのじゃよ。色んなものを食べられらようにのう。ただ畑の栄養を一気に吸い上げてしもうたからの。収穫を終えたらモンスターの亡骸でも調達して、【肥やし】のスキルで、栄養を補充させるのじゃ」
「ちょっと待て。【大成長】と【肥やし】って何だ?」
「ふむ? 知らぬのか? これはのう……」
【大成長】は植物の成長を促すスキルらしい。栄養さえあれば、実をつけ成熟するまで成長を促す事ができる。
【肥やし】は生物の亡骸を文字通り肥やしにするスキル。栄養が吸収しやすい形になるそうで、スキルを使用した亡骸の見た目は土のようになるらしい。
レイラのスキルの説明を聞くと、ジェノスは改めて彼女に魔法は必要ないと感じるのであった。
「農家なら喉から手が出るくらい欲しいスキルだな」
「ふふふっ、凄いじゃろう。ワンワンが喜ぶ顔が目に浮かぶのじゃ」
「わうぅ……みんな、おはよう……むにゃぁ」
そんな事を話していると、小屋からワンワンが出て来た。昨日早めに寝た為か、それとも少し騒がしくしたせいか、普段より起きるのが早い。
眠そうに目を擦るワンワン。しかし、薄っすらと開けた目が、実がなった作物を捉えると一気に意識を覚醒させる。
「わうぅぅぅっ! 何これ? どうしたの? 実がいっぱいなってるよ! 食べれるの!?」
目を輝かせて畑に走り寄るワンワン。そんな彼の後を追うように畑に近寄る。
「どうして? どうしてこんなに育ったの?」
「ふふふっ、儂のスキルを使ったのじゃ」
「スキル? 凄いっ! レイラのスキル、凄いんだねっ!」
「そうじゃろ、そうじゃろ。もっと褒めるがよいぞ」
「凄いっ! レイラ凄いっ! 凄く凄いっ! わうわうっ♪」
「のじゃのじゃぁ♪」
ワンワンに「凄い」と連呼されて、すっかり気を良くしたレイラ。そしてワンワンも彼女が喜んでいるのが嬉しいのか、「凄い」と繰り返した。
一方ジェノスとナエはひとしきり驚いて、落ち着いついていた。今は作物の収穫の話をしていた。
空いている格納鞄(高級)がある為、保存する事は問題ないだろう。ただ、畑の規模はそれほど広くないにしても午前中いっぱいはかかりそうだ。
「今日の勉強会は無しにして、全員で収穫するか」
「そうだな、オッサン。今日中に収穫しねえと、熟し過ぎちまうかもしれねえぜ」
「そんじゃあ、今日の午前中は収穫だな」
本日はみんなで作物の収穫をする事となった。
レイラから話を聞いた翌朝。ジェノスは普段より少し早く目が覚めた。まだ覚醒しきっていない頭で、ふと昨日のレイラの話を思い出す。
魔法が使えないというのは、ジェノス達にとって衝撃だった。大抵、英雄視される偉人は大なり小なり魔法が使えるものだと思ったからだ。
「スキルを使えば魔法の真似事くらいできるのじゃ」
レイラはそう言って自分の指先に火を灯してみせた。
【着火】という小さな火を生み出すスキルらしいが、他のスキルを組み合わせる事で、小屋を余裕で包み込むほどの大火を発生させる事も可能らしい。
また、生前と比べて幾つかのスキルは失われていたり、変質して別物になったものもあるらしいが、未だに強力なスキルを複数所有しているとの事だった。
それを聞いてジェノス達は、彼女に魔法は必要ないと思うのだった。
魔法は使えないが、おそらくレイラはジェノス達よりも強い。ジェノスは、そのような実力者がワンワンの守護霊になってくれて良かったと思った。
レイラは守護霊の身なので、ワンワンから遠く離れる事はできないらしい。その為、ワンワンの身を守る者としては適任だった。
「ワンワンを守るのは当然じゃ! 儂の恩人でもあるからの!」
ワンワンを守ってくれるかと尋ねれば、レイラはそのように力強く応えた。
それを聞いてジェノス達は安心し、その日は解散する事に。だが、小屋から出て行こうとした時に、レイラが積まれていた魔法書を見て「マリアの本じゃ!」と驚きの声を上げていた。
マリア・ウィウルス。魔女と呼ばれる誰もが知る存在。魔法書の何処にも筆者の名前が書いていなかったので、誰が書いたものかジェノスは知らなかった。
魔法書自体、価値あるもので捨てるなんて事は考えられない事なのだが、マリア・ウィウルスが書いた魔法書であれば尚更捨てられる訳がない。そうジェノスは思ったが、レイラはこの筆跡はマリアのもので間違いないと訴えた。
実際にマリアが書いた魔法書となれば、ジェノスにかけられていた賞金以上を出してでも買いたい者はいるだろう。
日記もそうだが、いったい誰がこんな価値のあるものを捨ててしまったのか。ジェノスのなかで新たな疑問が生まれてしまったのであった。
「はぁ……いったい何がどうなってんだ……」
ついこの前、仲間の裏切りで公開処刑になるところだった自分が、ワンワンに回収されて聖域に住む事になり、ワンワン達に魔法を教えている。そして魂だけだが、英雄と出会った。
こんな経験をしているのは、世界中探しても自分だけだろう。そんな事を思っていると外から声が聞こえた。
「おおっ!すげぇぜ!」
「ん?」
今のはナエの声だ。ナエも起き出す頃合いで、一人で畑を耕しているはずだ。
ジェノスも最初の頃は朝の畑仕事を手伝っていた。だが、近頃は夜遅くまで魔法書を読んでいる為に起きれず、手伝う事ができないでいた。
一人で畑を耕させるのはどうだろうと思ったが、ナエが「クロのようにモンスターの肉を獲ってきたり、ジェノスのように頭が良いって訳じゃないからな。私のできることをしたいんだぜ!」と言うので、任せている。
だが、今日は折角早く起きたのだから、ナエを手伝おうと思いジェノスは外に出た。
「おい、ナエ。手伝う……」
「おおっ、オッサン! 見てくれよ、凄いだろ!」
「……どうなってんだこりゃ」
ナエのいう凄いは確かに凄かった。
昨日までまだまだ収穫までに1ヶ月はかかりそうだった野菜が成長していて、どれも成熟した実をつけていたのだ。
「ナエ、こいつはどういう事だ? 以前、植物の成長を促す魔法を教えたが、習得はできなかったろ? それとも魔法を使えるようになったのか?」
「違うぜ、オッサン。レイラのおかげだぜ!」
「レイラの?」
「そうじゃ!」
成長した作物から飛び出したのはレイラだった。宙を滑るようにして彼女はジェノス達のもとへと近付いて来る。
「お前がやったのか?」
「そうじゃ! 儂のスキル【大成長】を使ったのじゃ!」
「凄いんだぜ! レイラが畑に手をかざしたら、あっという間に育ったんだ!」
「ふふふっ、凄いじゃろう。ここでは、採取できる食用の植物は限られているであろう? じゃから、ちと手伝ったのじゃよ。色んなものを食べられらようにのう。ただ畑の栄養を一気に吸い上げてしもうたからの。収穫を終えたらモンスターの亡骸でも調達して、【肥やし】のスキルで、栄養を補充させるのじゃ」
「ちょっと待て。【大成長】と【肥やし】って何だ?」
「ふむ? 知らぬのか? これはのう……」
【大成長】は植物の成長を促すスキルらしい。栄養さえあれば、実をつけ成熟するまで成長を促す事ができる。
【肥やし】は生物の亡骸を文字通り肥やしにするスキル。栄養が吸収しやすい形になるそうで、スキルを使用した亡骸の見た目は土のようになるらしい。
レイラのスキルの説明を聞くと、ジェノスは改めて彼女に魔法は必要ないと感じるのであった。
「農家なら喉から手が出るくらい欲しいスキルだな」
「ふふふっ、凄いじゃろう。ワンワンが喜ぶ顔が目に浮かぶのじゃ」
「わうぅ……みんな、おはよう……むにゃぁ」
そんな事を話していると、小屋からワンワンが出て来た。昨日早めに寝た為か、それとも少し騒がしくしたせいか、普段より起きるのが早い。
眠そうに目を擦るワンワン。しかし、薄っすらと開けた目が、実がなった作物を捉えると一気に意識を覚醒させる。
「わうぅぅぅっ! 何これ? どうしたの? 実がいっぱいなってるよ! 食べれるの!?」
目を輝かせて畑に走り寄るワンワン。そんな彼の後を追うように畑に近寄る。
「どうして? どうしてこんなに育ったの?」
「ふふふっ、儂のスキルを使ったのじゃ」
「スキル? 凄いっ! レイラのスキル、凄いんだねっ!」
「そうじゃろ、そうじゃろ。もっと褒めるがよいぞ」
「凄いっ! レイラ凄いっ! 凄く凄いっ! わうわうっ♪」
「のじゃのじゃぁ♪」
ワンワンに「凄い」と連呼されて、すっかり気を良くしたレイラ。そしてワンワンも彼女が喜んでいるのが嬉しいのか、「凄い」と繰り返した。
一方ジェノスとナエはひとしきり驚いて、落ち着いついていた。今は作物の収穫の話をしていた。
空いている格納鞄(高級)がある為、保存する事は問題ないだろう。ただ、畑の規模はそれほど広くないにしても午前中いっぱいはかかりそうだ。
「今日の勉強会は無しにして、全員で収穫するか」
「そうだな、オッサン。今日中に収穫しねえと、熟し過ぎちまうかもしれねえぜ」
「そんじゃあ、今日の午前中は収穫だな」
本日はみんなで作物の収穫をする事となった。
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